結界魔術師ロイスの憂鬱〜パーティから追放された俺。一人で生きていきたいのに、魔王と勇者に追われ、謎の美少女に振り回されています〜「指名手配されてるよ」「嘘だろ」

日向はび

第一章

1-1 出会い

最初と二人



「取引しましょ」



 少女の声に、魔術師は顔をあげた。

 


 美しいつやのある髪をなびかせ、少女は魔術師をキラキラとした青い瞳で見つめる。

 まるで人形のように美しいその少女は、華奢な手を差し出して同じ言葉を繰り返す。


「私と、取引しましょう」


 魔術師は無言でその手を見つめた。

 それは彼女の唐突な言葉に驚いたからでもあり、またその行動を理解できなかったからでもあった。


 彼女の手と瞳を交互に見やって、魔術師は思う。


 ──どうしてこうなったのだろう。


 ──どうして、このような対話をしているのだろう。



 これまでのことが脳裏をよぎる。

 すべての始まりは、彼女と出会ったことか、あるいは、足元には転がるゴーレムと邂逅してしまったことか。

 

 魔術師は少女から視線を足元へうつした。

 巨大なゴーレムの手足、胴、首が転がっている。

 斜めの切断面は、滑らかで美しくつるりとしていて、よほど切れ味のよい刃物で切断されたのだろう事を物語っていた。

 広大な空間と高さを誇る、石造りの遺跡の中、ゴーレムの崩れた巨体が、遺跡に崩壊しているような空気を与えている。


 再び思う。


 ──どうしてこうなったのだろう。


 ゴーレムを倒したのは、少女を守るためだった。

 少女を守ろうとしたのは、ただ、後味の悪い想いをしたくなかったから。

 軽率な行動だったのかもしれない。

 

 


 彼には何もなかった。

 魔術以外何も。

 ただ退屈で、ただ探究心に忠実だった。

 そしてただ、困っている彼らを、一人ロイスを見つめる彼女を、放って置けなかっただけなのだ。


 それだけだ。

 彼自身も自覚しないそのお人好しな性格が彼をそのように動かした。



 しばらく指輪とゴーレムを見つめて、再び魔術師は顔を上げる。


 静かに待っていた様子の少女は言う。


「あなたの力になってあげる。代わりに私の願いを聞いてほしい」


 信用してよいのかもわからぬこの少女から何が得られるのか……。選択に迫られる。




 ──事の発端はゴーレムではない。

 ──少女と出会った時か。否、それでもない。


 おそらくは数時間前の事。

 その出来事を思い出して、魔術師、ロイスは頬を引きらせた。



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