第3話 ロクでもない運命

「先っちょだけ! 先っちょだけでも挿れさせろや!!」


 そう言いながら、女神は僕の身体の中に"異世界人の魂"を捻じ込んでこようとする。


 だが、僕は(不敬なのかもしれないが)必死で抗う。

 もし先っちょだけでも許してしまえば、きっと全部を挿れられてしまうだろうから。




「わしの仕事は"足す"だけやから。すまんのぅ」


 しかし健闘むなしく、身動きを封じられてしまった僕のなかに、異物が入り込んでくる。

 そして、とうとう全部を挿れられてしまった。



 熱い。

 胸から、そして全身から、燃え上がるような痛みを感じる。


 その焼けるような痛みとともに、気持ちの悪い何かが混じってこようとする。


 油を水の上に注いだように。

 決して交じり合うことのないものを無理やり混ぜ合わせられた。

 黒くて邪悪な何かが、僕の中に入ろうとしてくる。

 

 僕は、全力で、その下劣な黒い何かを押さえ込む。

 僕が僕で無くなるということ。

 それだけは絶対に避けたかった。


「クロエ、助けてくれ……!」


 胸のなかから広がろうとする"ソレ"を押さえつける。

 "ソレ"から伸びてくる手足を必死になって、弾く。


 そんなことを続けていると……。

 "ソレ"は抵抗をやめ、僕の心の奥底に沈んでいった。

 どうやら……僕は克つことができたようだった。


 そんな僕の内面を知る由のない女神は、おもむろに口を開いた。

「それでは、"定められた運命"を実現できるよう、"旅立ちの刻"までお過ごしください!!」


 女神がそう言い終えると同じくして、僕の意識は失われていく……。


 その失われゆく意識のなかで……僕は女神のいう"定められた運命"とは多分ロクでもないものなんだろうなと思ったのだった。

 だって、こんなロクでもない運命神が定めたものなのだから。


 



■■あとがき■■

2021.03.21

 次回から旧作とかなり変わってきます。

 正直、書いてて超楽しいです。

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