第6話 新キャラ登場

 その後2人はそれまでの良い雰囲気に気持ち良くなったまま楽し気に食事を摂り、フルクトルまでの移動に疲れた体を癒した。初めに小さめのクレープ生地のようなもので細く切られた生の野菜とこんがりと焼かれスライスされた肉が巻かれたものを食べ、次にもちもちのパン生地の中にドライフルーツがふんだんに入ったものを食べ…といくつかの店で買い回ったところで和樹はふと気づいたように言う。


 「結構余裕あったんだな。これから宿に泊まって明日の食事とかもあるだろうに。」

 「………………まずいです。」


 フレミーは食事の手を止め顔を曇らせる。


 「…あ………ま…した。」

 「え…?」

 「宿と明日のこと考えてませんでした…。どうしよう、どうしましょう和樹さぁ~ん。」


 そう言いながらだんだん涙目になっていく。


 「いや、どうするって言われても…。マジどうすんだよ…」


 ギルドに入る前に初日から生活が怪しくなりピンチに陥ってしまった2人。


 だがその後ろから落ち着き払い凛とした声が優しさを伴い発せられた。


 「その心配は必要ありませんよ、橋本和樹様。」


 振り向くとそこには美しく白い髪を真っ直ぐに腰まで伸ばし左目が黄色、右目が薄い青のオッドアイを持ちクールさを兼ね備えた美女が僅かに微笑みを浮かべ立っていた。さらに目を引くのがそのプロポーションだ。メリとハリがしっかりついていて豆鉄砲級のものしか持たない誰かと比べると戦車級の素晴らしいものをお持ちだ。


 「和樹さん、お知り合いですか?けど、そんな人はいないみたいなことを言ってませんでした?いやそれよりもその見た目は、天使族…?けどそんな訳…」

 「知らない人だな。昨日話した通りだからここには知り合いがいるはずはないんだけど…。最後何を言いかけたんだよ。気になるじゃんか。」


 白髪にオッドアイという特徴的な見た目で直ぐに何の種族かピンときたが何やら一人で考え込んでいるらしいフレミーに和樹が返しているとその女性が和樹の方を見て名乗る。


 「申し訳ございません。名乗り遅れました。私はヘイルリームと申しまし。ヘイムと呼んで下さいまし。そこのエルフ族のフレミー様が言う通り天使族でございまし。以後お見知りおきを。」

 「天使族のヘイム…?あっ、もしかして。」

 「ええ。そのもしかしてで合ってございまし。」


 そんな会話を2人でしているが和樹はさっぱりついていけず会話に割って入る。


 「一体何の話をしてるんだ?フレミーも言いかけのままだったし…」

 「あぁ、和樹さんは知りませんよね…。この世界では有名なんですよ、裏切りヘイム。」


 そう言いフレミーは天使族の説明をし始める。


 女神と話せるスキルを持つ天使族は女神を崇めていた。だが10年前のある日魔王が現れると半数以上の天使族が魔王軍についてしまい他の天使族を攻撃し殺し始めた。それでも何とか反撃し全滅だけは避けてきたがその数か月後には皆殺しにされてしまった。当時まだ10歳の子供だった一人を除いては。


 「そしてその一人の生き残りがここにいるヘイムさんなんです。天使族のほとんどが魔王軍についたので天使族に対する意味合いで裏切りヘイムと呼ばれてるでそうです。まぁ私もなんですけど、唯一の生き残りだとか周りが魔王軍に入っても自分だけはそうならず残ったというのは珍しいのでどうしても有名になっちゃうんですよね…」

 「なるほど…。それで名前を聞いただけで分かったのか。そういえばフレミーのこともいきなり名前で呼んでたもんな。」

 「ええ、そういうことでございまし。一応補足しておきますと我々天使族が最初の魔王犠牲者でございまし。それもあって私が飛びぬけて有名なのでございまし。」

 「…………そうなのか。けどそれはそれとしてどうして俺の名前を?」


 そう言い最初の疑問に戻る。そうどうして橋本和樹の名を知っているのか、だ。フレミーの名前が分かったのはさっき言った通りとしても和樹が有名な訳がない。なにせこの世界に来るまで日本育ちだったのだから。


 「フレミー様はもう気付いたようですが、もっともな疑問でございまし。」

 「そうなのか?フレミー。」

 「はい、和樹さん。私よりも和樹さんの方が気づきそうなものですが…。私、説明しましたよね?天使族は女神と話せるんですよ。和樹さんはこの世界に来る前誰に会いましたか?」


 そこまで言われてようやく気付く。つまり女神に和樹の話を聞かされたということだ。確かにこの世界に来る前に女神に会っている和樹が気付いてもおかしくないことだった。一方でフレミーは女神を話でしか知らないはずなのだがそれだけで持ち前の察しの良さを発揮し気づいたようだ。


 フレミーには敵わないな…と感心をしていると


 「和樹様もお気づきになられたようですね。そういうことでございまし。」


 和樹の表情の変化に気づいたヘイムがフレミーの言ったことを肯定し、そこに和樹とフレミーが言葉を重ねていく。


 「そうなのか…。だがそれはそれで良いとしてなぜ俺に会いに?もしかして魔王討伐の件で何か用があったとか…?」

 「私も和樹さんの言う通りだと思います。それしか考えられないですしね~」


 とヘイムの目的を考察する和樹とそれに同調するフレミー。


 「やはり気付きますか。ええ、その通りでございまし。私は女神に言われ和樹様に会いにきました。」


 とさっきから色々とフレミーに気づかれてばっかりで肯定しかできず悔しそうにするヘイムがまたもや肯定をする。驚かせてやろうとしたのに上手くいかず凹んだ表情をしていてどこか子供みたいな雰囲気を感じてしまう。そんなヘイムが続けて話す。


 「それで和樹様に聞いて欲しい話があるのです。勿論フレミーも一緒に。」


 フレミーに話して驚かせるという役を奪われたことを根に持ったのか心なしかフレミーを呼ぶときの声が冷たい。その証拠にフレミーを呼ぶときに様がなくなってしまっている。ヘイムとしては天使族!?女神に言われて来た!?というようなリアクションを期待したのだろうがしかたあるまい。これが有名税というやつだろうな。などと一人分析をする和樹の傍らで


 「はい、勿論私も一緒に聞きますよ?そのお話。私は和樹さんの関係者ですから。」


 フレミーは彼女特有のさばさば感を発揮しヘイムの心情には気づかずにいつも通りの調子で言うのは幸か不幸か…


 「何を根拠に関係者などと…」


 あまりにも適当な物言いに感じたのか少しムっとするヘイム。


 「私は和樹さんと魔王討伐のためにチームを組みましたから。関係者なのは当然でしょ?」

 「………!チームを。それならば話が早くて助かりまし。」


 チームを組んでると聞いた瞬間、それまで良いとは決して言えなかったヘイムの機嫌は良くなりそれまでの気分を忘れたかのように表情が和らいだ。今回はフレミーの天然さが良い方向に転がったようだ。ヘイムが機嫌を損ねかけたのはフレミーの異常なまでの察しの良さ、つまりは天然なのだが。


 「では、早速話をさせて頂きまし、と言いたいですがこんなところで立ち話をするのも頂けません。ですので私の家に招待いたしまし。」

 

 そうヘイムが言い和樹とフレミーはヘイムの自宅に行くことが決まった。


 ヘイムが機嫌を持ち直した安堵感と魔王討伐に向けて一歩進めた高揚感で和樹はついつい要らないことを聞いてしまった。


 「なぁ、ヘイム。」

 「なんでございまし?」

 「ずっと気になってたけどそのましって何なんだ?」

 「これは天使族の方言でございまし。気になさらないで下さいまし。」

 「………そうか。」


 気の利いた返しが出来ず微妙な雰囲気になってしまい余計なことを聞いたとを後悔する和樹であった。

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