第26話 第四クラス

本日2話目です。

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今日から本格的に学院での生活が始まる。

朝起きて制服に着替え、朝食は部屋で食べることにした。


「ユリア、姉様達との勉強はどう?どんなことしてるの?」

ユリアはビクッと体を震わせると、しどろもどろに言った。

「えっ、えーと、そ、そうです!テーブルマナーのお勉強をしています!」

「ふーん、テーブルマナーねぇ。ほんと?」

「はい!ほんとです!」

ホントならいいんだけど。エファ姉様はなにかやらかしそうだからなぁ。

ボクは少し気になったが、時間も来ているので裏門へと向かった。


「うう~言えない...。本当はエファ殿下と一緒にマッドベア狩りましたなんて言えない...。位階が2になったとか、狩りの時フェルちゃんに乗せてもらってすごく楽しかったなんて言えない~...」



裏門に止まった馬車の前ではエリーが待っていた。

「エリー、おまたせ。」

「エリー様、おはようございます!」

「あ、ケント君、ユリアさん。おはようございます!」

エリーはいつもの明るい笑顔だ。


「じゃあ行ってくるね。ユリアもがんばって!」

「ユリアさん、今日の授業が終わった後、会いに行きますね!」

「はい!お二人ともいってらっしゃいませ。」

ボクとエリーは馬車に乗り、学院へと出発した。


それを見送ったユリアは、一人つぶやく。

「ふう、よ~し今日も1日がんばろう。」

そしてエファの待つ正門へと向かったのだった。




「ユリアさんはお義姉様方に勉強を見ていただいてるんですよね?」

「うん、エファ姉様が中心かな。イルシア姉様とアイリ姉様は時間のある時だけみたいだね。」

「あんなにお強くてお美しいお義姉様方に教えていただけるなんて羨ましいです。」

「エリーもよく姉様達と話してるよね。」

「はい!皆様とっても優しくて!この前は...」


エリーの話を聞いているとすぐに学院に着いた。

「着きましたね!行きましょう!」

「うん。エリーは第二クラスだっけ?」

「はい!女子教養科の方々と同じ教室です!」

よし、なら教室は女子だけか。変な男子にちょっかいを出されずに済む。

エリーと手をつなぎ、校舎の中を歩いていく。

第一学年のフロアに着き、第二クラスの教室の前でエリーと別れた。


それにしても馬車を降りた時からずっと注目されてるよな...。

やっぱり皇族って目立つのか。


自分のクラスである第四クラスの扉の前に立つ。

少し緊張しながら扉を開け、教室へと入った。


すると、教室のすべての目線がこっちを向く。

毎年何らかの行事で国民の前に立つので、このくらいの視線は慣れっこだ。

(えーと、ボクの席は...)

前の黒板に貼ってあった座席表を見て自分の席を確認する。

(あれ?もしかして貴族の子はいないのか...?)

座席表を見たところ、それらしき名前の人はいない。

後で知ることになるのだが、ボクの学年は貴族が19人で、そのうち騎士爵家の子と女子が大半を占めているそうだ。そのため、第一学科は騎士科と女子教養科に貴族の子が集中し、第一学科が魔研科なのはボクだけ。第一学科が魔対科、政治科、生研科なのははそれぞれ2人、3人、0人という状況らしい。


席に座ると、教室の空気が重い...気がした。

とりあえず隣の子に話しかけよう...。

「ねえ、君も魔研科なんだよね。ボクはケント。これからよろしくね!」

隣に座っていたのは緑の髪の男の子だった。

「あ...、こちらこそ、よろしくお願いします。ケント殿下。」

「敬語じゃなくていいよ。あと殿下もやめてよ、父様...じゃなくて陛下も言ってたじゃないか。」

「そうでし...そうだな。よろしく、えっとケント!うお~第三皇子殿下を呼び捨てって慣れないぜ。」

「あはは、それで君の名前は?」

「オレはマーブル!ルギウス領出身の平民だ。見ての通り人族で、風属性だ。一応魔研科入試は4位だったんだぜ!」

「確か入試5位以内は特待生の対象だっけ?すごいね、マーブル!」

「へへ、ありがとよ。でもまあ今年の首席はすごいぜ。歴代最高点で、ぶっちぎりの1位だからな。ほら、あの子だよ。」

マーブルが指差した先には一人の女の子が座っていた。

「あの子は...妖精族だよね?」

「ああ。なんでもティルファニアの人らしい。すげーよな、海を渡ってくるなんてさ。」

「そうだね。ティルファニアかぁ、ティルファニアと言えば城の中庭にね、友好の証に贈られた花があるんだよ。」

「へえ、そうなの....」

「それ、本当ですか!?」

マーブルの言葉をさえぎって話しかけてきたのはさっきの首席の女の子だった。


「あの、その花って”ティルファ”ですか?」

「うん、そうだけど...急にどうしたの?」

「あっ、いきなりすみません、ケント殿下。私、レイシア=ミラースと言います。ティルファニアから来ました。」

レイシアは薄い水色の髪の妖精族だった。

「もう知ってるみたいだけどボクはケント。よろしくね。」

「オレはマーブル!よろしくレイシア!」

「お二人ともよろしくお願いします。」

「敬語じゃなくていいよ。」「オレも~」

「あら、そう?じゃ、普通に話させてもらうわね。それで、花のことなんだけど...。」

「ああ、どうかしたの?」


レイシアは少し迷った後、こう切り出した。

「えっと、ティルファの種を分けてほしいの。」

「どうしてか聞いても?」

「うん、説明するわね。私たちの国にはね、どの家にも必ずティルファが植えてあるの。それに部屋にも置いたりしているわ。私もティルファの光や香りが好きで部屋に置いていたんだけど、学院寮に入った時にティルファを持ってくるのを忘れちゃって。それで、帝都でティルファの種が売ったりしていないか探してたんだけど見つからなくてね。ほとんど諦めていたんだけどケントの話が聞こえちゃったのよ。」

「なるほどね、確か帝国内だと城のほかにエルメダ公爵領に行けば手に入るはずだよ。でもそこに行くのも大変だと思うし城に帰ったら聞いておくよ。」

「ほんと!?ありがとう!」

「なあ2人とも。今日の昼飯いっしょに食わねえか?学生食堂、無料だぜ?」

「いいわね!私は行くわ!」

「ボクは連れが来るけどいい?」

「「もちろん!」」




3人でしばらく雑談していると、扉が開き、教師と思われる男の人が入ってきた。

「出席をとるので、自分の席に戻ってください。」

その言葉で席から離れていた人は席に戻る。


「26人全員そろっているようですね。私は第四クラスの担任をすることとなりました、一般魔法学教師のゼルファ=コーランです。属性は光、風です。見ての通り魔人族ですが、妖精族と人族の血も混じっています。皆さんの一般魔法学の授業を担当します。さて、今日は学院生活初日ですね。まだお互いのことはよく知らないでしょう。ですので教科書配布まで自己紹介をしていただきます。自分のことを好きに述べてください。そのあと質問時間をとります。では一番端の君からどうぞ。」

促された男子が立ち上がる。

「はい、えっとマレーです。属性は水。帝都出身で、お母さんは城でメイドをしています。お父さんは魔法研究所で働いています。将来、魔法研究所で水魔法の研究をしたいと思ってます。よろしく。」

彼のお母さんは城のメイドらしい。そのことを話す時、ボクと目が合ったので笑って手を振ると、彼も笑顔になった。


その後も自己紹介は続き、ついにボクの番になる。

「ケント=アリフ=ラ=オルフェウスです。知ってると思うけど第三皇子です。属性は聖属性と無属性。目標はたくさんの人たちと友達になることと、在学中に重力魔法と転移魔法を使いこなせるようになることです。えーと敬語も使わなくていいし、呼び捨てにしてくれた方が嬉しいので、どんどん話しかけてください!みんなのいろんな話を聞きたいです!よろしくね。」

「はい、殿下、ありがとうございました。では質問のある人~?」

するとほぼ全員の手が上がる。


ええ、そんなに聞きたいことあるの?

まあ全部答えるけどね。


「皇居の中にプライベートビーチがあるって本当ですか?」

「うん、あるよ。あ、次の人から敬語禁止ね。」


「今日一緒に登校してきた金色の髪の女の子って婚約者?」

「そうだよ。エリザヴェートって言うんだ。とても可愛いんだよ」


「ケント君の精霊獣ってどんな子?」

「銀色の鷲だね。シルフィっていう名前を付けたんだ。毎朝ベッドに突っ込んできて大変だよ。」


「好きな食べ物は?」

「ローゼ肉を炒めたものと卵サラダをパンにはさんで食べるのが好きだね。」


「どんな魔法が使えるの?」

「えーと5属性の中級までは楽に使えるよ。上級は体調も万全で元気な時しか無理だけど。あとは聖属性の中級までかな。」


質問攻めが終わり、やっと席に戻れた。

それにしてもなんでボクのお小遣いとかパンツの色まで聞かれなきゃいけないんだ?

そんなことを知ってどうするんだよ...。


そして残りの人たちも自己紹介を終えた。


「ではここまでとします。この後、教科書等を配布しますので少し休み時間をとった後、また来ます。それまでは好きに過ごしていなさい。」

ゼルファ先生はそう言って教室を出ていった。


するとボクのところにはクラスの人が集まってくる。

「ケント君!」「なあ、ケント~」


「ははは。人気者は大変そうだぜ。」

「私たちは昼休み一緒にいられるから避難しときましょ。ね、マーブル」

「そうするか!とりあえず食堂の飯が楽しみだぜ!」


ああ、あの二人は楽しそうでいいなぁ。

ボクは今、切実に耳と脳が10個欲しいよ。足りないけど。

でもみんなと仲良くなれそうだ、よかったよかった。

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