第32話

 まずは事態の把握だ。目の前にいる僕の妹は、下着姿で立っている。顔がいつも以上に赤く、呼吸も乱れていて、ショッピングモールの時や車の中と、明らかに様子が変だ。何かしたのか?


 そして、僕はここから逃げられない。逃げれば家庭内での大問題になりうるほどの罪を着せられる。今、家の中には家族全員が揃っている。姫からすれば好都合。僕からすれば、逃げ道を塞がれているようなもの。まさに絶望的だ。


 姫をどうにかしなければ。なんて、バトル漫画みたいなセリフを思い浮かべる。このままでは、僕の初体験が奪われることになる。有名な女優に。血のつながりのない妹に。


 それに、この口の中に広がる変な味はなんだ? すっごいだぞ。少し飲んじゃったよ。僕は何も食べていない。なんでこんなのが……。


 僕はこの口の中の違和感の原因はなんなのかを考える。姫とのベロチューまでは何もなかったはずだ。なら、姫か? 姫が原因か? 周りを見ても、ちゃんとした女の子の部屋。なんて、どこにも……。


 あ……。あの瓶……。


「早く脱ぎなよ、お兄ちゃん」


 すぐに姫の方を向く。


「う、うん……」

「なんで躊躇ってるのー? 早くしてよー」

「いや……」

「早くしなよ。脱げないなら、姫が代わりに脱がしてあげよっかな」

「いいよ別に! じ、自分で脱げるよ!」

「なら早くして」

「分かったよ……」


 平常心。平常心だ。大人しく、冷静に。隙ができれば、そこを狙う。とにかく主導権が大事だ。今は完全に姫のペースだが、後から僕が主導権を握ればいいだけのこと。


 とりあえず僕は服を脱ぐ。僕の上半身を見るなり、姫は輝くような目で体を見てくる。姫は僕をベッドに誘う。自分の横に座れとシーツのついたマットレスを、ポンポンと叩いた。


「うぷ……。お、お兄ちゃんって、意外とたくましい、よね……」


 また『はあはあ』という息をする。疲れているのか、興奮しているのか。まあ、後者だろ。


 だって、ベッドの近くに置いてあったあの瓶。。息が荒くなっているのも納得がいく。見えたぞ。逆転する方法が。


「はあはあ……」


 姫は僕の胸を指で触る。それからベッタリと、手のひらを密着させる。


「くすぐったいんだけど」

「何? 感じてるの? はあはあ……」

「おい、姫。大丈夫か?」

「う、ぐ、はあはあ……。何が?」

「息、荒いぞ?」

「べ、別になんともない、よ……」


 やはり顔が赤い。普通じゃない。


「じゃあ、次は下脱いでよ。早く……」

「その前に。姫に一つだけいいこと教えてあげるよ」

「いいこと? お兄ちゃんの性癖とか?」

「まあ、そんな感じ」

「や……やっと、姫とエッチする気になったんだね……」

「うん。じゃあ耳貸してくれる?」

「ん……」


 姫の顔が近い。いつも以上に赤くなっているのが分かる。姫の体が耐えられてないじゃないか。


 そして僕は囁く。


を先に自分が飲むと、飲んでない相手に主導権を奪われるよ? ピンピンしてるんだから当然だよね……」

「えっ———」


 そのまま僕は、座っている姫に覆い被さった。



 ****



 背中側から、姫にもう一度キスをする。舌を入れて、味を確かめる。決していやらしいことをしたかったわけじゃない。


 やはりそうだ。姫は飲んだんだ。あのドリンクを。媚薬などの性欲を高める薬は古来から存在する。『惚れ薬』とも呼ばれている。


 ベッドの近くに置いてあった二つの瓶。あれは薬局とかに置いてある、しっかりとした物だ。その瓶の横には開封したであろう箱の残骸があったし、何よりそのパッケージが完全にだった。


 さあ、もう一度事態の把握をしておこう。今、僕は姫に覆い被さっている。以上。それだけだ。


「うぅ……苦しいよ、お兄ちゃん……。はあはあ……」

「悪い。ちょっとズレるね」


 するりと、少し体を動かす。


「んっ……。脚、触っちゃダメ……」

「脚に熱もってるぞ。姫、大丈夫か?」

「はあはあ……。暑い……」

「やっぱりな。なんで媚薬なんか飲んだんだ?」

「それ聞く? だって、エッチでバテることがなくなるって、聞いたから……」

「媚薬はそういうやつじゃないぞ」

「ゔぅ〜〜〜。間違えた〜〜〜」


 残念だったな。これで主導権は僕のものとなった。一気に形勢は逆転。こんなことはやめるように注意しておこう。


「姫、こんなことをしちゃダメだ。どうしてエッチしたいって思ったのか教えてくれる?」

「キスしたし、白乃さんと会ってヤバいと思って、それで、もう我慢できなかったから……」


 神木さんと同じだ。


「それに、既成事実とか言ってたよね。もしかして本気だったの?」

「それくらいしないと、女の人って別れないじゃん……」


 背中に乗っかってる僕の方を見てくる。困惑している顔だった。それにドリンクが効きすぎて、よだれが少し垂れている。まだ赤いままだし、休憩させなければな。


「はい。もうおしゃべりは終わりだよ。ドリンクの効果がきれるまで、寝るんだよ」

「ヤダぁ……! お兄ちゃんとエッチするのぉ……!」

「正直、自分もキツいって分かってるだろ? 意識飛ぶぞ? 体がもたない。それに倒れたりでもしたらどうするんだよ? 姫が心配なんだよ」

「お兄ちゃん……」


 お! いけるかも! このままうまく言いくるめられるかも!


「じゃあ、お兄ちゃん。姫のお願い、聞いて……」

「何?」

「降りて。重い……」

「ごめん」


 姫に覆い被さるのをやめ、ベッドから離れる。ついでに布団をかけてやった。


「あともう一つ……」

「何?」

「キスし……」

「もうしない」


服を持って姫の部屋から出た。


 それにしても、あの媚薬……。姫が飲んであれか。なら白乃が飲むとどうなるのだろう。同じようになるのだろうか。


 それに、あと一瓶あったよな。使


 まだあのドリンクの味が口に残っている。あ……。そういえば、僕少し飲んじゃったんだ……。


 体が熱くなってきた。


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