第4話

この間のコラボ配信よかったなぁ。意外にジンさんがお兄さんって感じで兄妹配信みたいで尊かったなぁ。ていうか、のえるちゃん歌うまいけどゲームあんな下手だったんだ。遥みたいだな......。

 さて、今日は遥の誕生日らしいが、初めてできた友達だから少しサプライズというものを仕掛けよう。土曜だし、あいつも家でごろごろブレステ4とかやってるだろ。


ピンポーン


ドンガラガッチャーン


酷く慌てたような物音がした。確かにサプライズ訪問にびっくりしない方がおかしい。だが、彼は出てこようとしない。いや、遅いのだ。物音がしてからというもの、一向にこちらに来てくれない。


「おーい! はるk」


扉が急に開き、こちらに引き込み口を押えに走った遥が血眼になってささやき始めた。


「どうして今日に限ってくんだよ!」


「いや、誕生び......。その恰好、なんd」


見たことがあるトラッキングスーツだ。VRを体験するために作られたもの、あるいはVtuberとして活動するためのアイテムだ。俺は前者だと思いたかった。しかし、パソコン画面と彼の焦り具合を見る限りの答えはただ一つだった。


「のえりゅ......たsばげぐげべぇ」


「あーあどうしよっかな」


◇◆◇

【モブおじさん】:のえるたそ、どうした?


【guren】:のえちゃんまだかな?


【どこがとは言えないがギンギン丸】:今北産業


『おまたせぇ! ごめんね、今日は私の下界降臨記念日なのに~。あ、スパチャありがとね~。君の財布も吸い取ってあげるね』


¥5,000【搾取されおにいさん】:財布(意味深)、今日もありがとう。そして下界に降りてきてありがとう。 


【どこがとは言えないがギンギン丸】:ないスパ

【もぶおじさん】:ないすぱ


『なんの話してたっけ? てかなんかシようよ。ボク、退屈でさ」


【淫紋つけてください】:ゲーム枠ワクワク


『ゲームねぇ。ボク、人間をコントロールするのは好きなんだけどねぇ。流行のFPSでもヤってみようかな♪』

◇◆◇

意識が朦朧としてても分かる。彼女の声がわかる。そして心で理解した。のえるちゃんは遥なんだと。あいつが大学にこれなくなっているのも頷ける。すべての彼の行動が合致した。そして俺はそんなことも気にせず、友達にバイト代をつぎ込んだ男ということである。最高に最悪だ。だが、あいつの顔を思い浮かべるたびのえるちゃんというもう一人の姿が見え隠れする。本当に彼も可愛いかのえるちゃんのコスをしても笑いが起きず、息を呑む姿しか感じられない。そんな想像、だれもしたくない。


『じゃあ、今日はこの辺で! またね~』

配信の切れたと同時にうなだれる遥が見えてしまった。俺のせいだ。魂がばれることはほぼVにとっては死も同然だ。


「俺死のうかな」


「死なないでくれ!」


俺は飛び起きてしまった。魂が誰であろうと俺の推しは推しだ!


「死ぬなんていうなよ! お前の頑張りは誰かの推しと癒しを提供しているんだ! お前はすごい! 勉強もこなしてみんなに笑顔を渡してる。それなのに俺は......」


「わかったわかった。お前が俺(のえるちゃん)好きなのは何回も聞いてるから」


それを聞いた瞬間、俺はずっと本人に告白していたとハッとして顔が赤くなった。

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