277777788888899と24547284284866560000000000の不思議(Persistence of a number、powertrain)

 1973年、ニール・スローンという数学者はPersistence of a number(数の持続性)という概念を考えた。

 任意の自然数の各位の数を掛け合わせて、1桁の数になるまで計算を続ける。例えば1729だと、


 1729→126→12→2


 3回の計算で1桁になったので、1729のPersistenceは3だ。もうひとつ、777でやってみると、


 777→343→36→18→8


 よって、777のPersistenceは4となる。


「スローンは10 233までの自然数まで調べたんだけど、Persistenceが11を超える自然数は存在しなかった」

「Persistenceが11の数って何があるの?」

「最小は277777788888899。実際に計算してみるとわかる」


 俺はそう言ってスマホの電卓で計算を進めた。


277777788888899→4996238671872→438939648→4478976→338688→27648→2688→768→336→54→20→0


「Persistenceが2で最小なのは10、3で最小なのは39。あとは次の通りだ。PはPersistenceの頭文字」


 P 

 4 77

 5 679

 6 6788

 7 68889

 8 2677889

 9 26888999

 10 3778888999

 11 277777788888899


「12以上の数はないの?」

「存在しないと考えられてるけど証明はされていない」

10   20000までにPersistenceが12の数はなかったらしいよ。まあ、ないと思うけどね」

「なんで?」

「各位の数にひとつでも0があればすぐに計算が終わるから。277777788888899みたいにPersistenceが10を超えることなんて稀だよ」


 確かに、各位に偶数と5が含まれていれば0が出現するし、上手く数字を組み合わせないとPersistenceを長くすることは厳しい。


「ねえ、今、気づいたんだけど、5だけの数って全部Persistenceが3にならない?」


 ふいに愛華が言った。首をかしげる成宮に愛華はスマホの電卓を使って説明を始めた。


「例えば、555は次の数が125。5555だと625、55555は3125で後ろの2つはいつも25じゃん? ってことはみんな3つ目の数は必ず0が現れるよね」

「そういうことか。やるね友村さん」


 5のべき乗か。確かに、5の累乗数はべき指数が2以上の自然数のとき、下二桁は必ず25になるから、3項目の数は必ず10の倍数になる。つまり、5だけで構成された自然数はすべてPersistenceが3ということ。


 55→25→10→0

 555→125→10→0

 5555→625→60→0

 55555→3125→30→0


 以下、同様にPersistenceは3。


 よくよく考えれば当たり前だけど、案外気づかないもんだな。


「スローンはPersistence of a numberとは別に、powertrainという概念についても面白い発見をしている」

「powertrain? なんで電車?」

「電車じゃない。ここで言うtrainは列だ。powerは累乗のこと」

「累乗列か。どういうものなんだい?」

「今から説明する」


 powertrainは任意の自然数の奇数桁目を底、偶数桁目を指数にして計算する。例えば3029だと、


 3029→3 02 9=512

 

 桁数が奇数の場合、最後の数は指数を付けずに計算する。


 512→5 1・2=10


 10→1 0=1


 計算過程を省略してまとめると、


 3029→512→10→1


「powertrainはジョン・ホートン・コンウェイという数学者が2007年に考えたもので、コンウェイはスローンの友人らしい」 

「比較的新しいんだね」

「そう。Persistence of a numberと同じように1桁の自然数になるまで計算するんだけど、2つの数が1桁にならなかった」


 その2つは2592と24547284284866560000000000。前者はコンウェイ、後者はスローンが発見した。実際に計算すると、


 2592→2 59 2=32・81=2592

 24547284284866560000000000=2 45 47 28 42 84 86 65 60 00 00 00 00 0

 =16・625・49・4096・256・65536・46656・15625・1・1・1・1・1

 =24547284284866560000000000


「よくこんなの見つけるよね。1桁にならないのはこの2つだけ?」

「大方の予想ではそう言われてる」

「でも、証明はされてないんだね」


 成宮の言葉に俺は頷いた。証明されるまでは「予想」でしかない。



参考文献

アレックス・べロス 田沢 恭子・対馬 妙・松井 信彦 訳『素晴らしき数学世界』早川書房 2012年

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る