「姉弟感染」


 この春、姉が高校デビューを果たした。

 別にソレが悪いとは思わない。むしろ良くやってる方だとさえ思う。


 『少し短くなったスカート』

 『うっすらピンクの指先の爪』

 『水分をたっぷり含ませたような桜色の唇』

 『風がなくてもフワッとした印象の髪』

 

 それでいて

 『ちょっぴり地味子』

 を残している。


 我が姉ながら完璧な仕事に思えた。


 だがしかし。


 なんの作品の影響なのかは知らないけれど、そのキャラ作りには賛同出来ない。

 ちょっと不良っぽい男子風な言葉使い。

 そして言葉のあちこちにセクハラチックな意味を乗せて『ニヤリ』と笑う。

 学校ではソレで受け入れられたのかもしれないけれど、せめて家庭内では控えてほしい。

 姉は自覚していないかもしれないが『乙女おやじ』だなんて最悪すぎる。


 トレパン姿でソファーの上に寝転がる姉。そんな危険物を視界の端に捉えつつ、なるべく刺激しないように”そっと”後ろを通り抜ける。

 だが姉はそんな俺を見逃さない。今日も俺は姉の餌食になる。


 「そんなコソコソしてどこ行くんだよ」

 16歳な乙女にしてはやや乱暴な言葉を投げつける俺の姉。

 そもそも質問などしなくてもわかるはずなのに姉はワザと聞いている。

 なぜなら風呂場に行くには姉の居るリビングを通り抜けなければならないのだから。


 「風呂だよ、風呂。先にもらうよ」

 14歳の俺はそれなりに多感な時期なのだ。発言には気をつけてもらいたい。

 だがわが姉はそんな事など気にしない。いや分かってやっているに違いない。

 それは姉の発する次の言葉でわかるはず。


 「ゆっくり浸かっていいダシ絞り出すんだぞ。ニヒヒ」

 最悪だった。

 とても乙女だなんて思えない。


 だが俺だってやられっぱなしなわけじゃない。

 この2ヶ月、姉に対抗できるよう密かに訓練を積んでいたのだ。

 いまこの時、その腕が試される。


 「おうよ、そのダシ使って姉ちゃん好みなトロロそばを作ってやんよ」

 姉に対するカウンターとしてはまずまずだったろう。

 それを証明するかの如く背中の方から『ブホッ!!』と姉が何かを吹き出す音がした。


 俺は初勝利の喜びを噛み締めながら風呂場へ向かう。

 「勝ったな」


 だが俺は気づけなかった。

 いまココに「童貞チェリーおやじ」が誕生してしまった事を。


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