第2話 味方になった途端、噛ませになるのはゴメンです

「とりあえず、自己紹介させて下さい」

「流石だな、頭が硬い」

 砕け散った瓦礫の角材を眺め、微笑むアルサー。


「痛いんですよ、私だって。えーと、私の名前はキングと言います。これが本名です。魔王ではなく、フレンドリーにキングとお呼び下さい」

「うるせぇ」

 アルサーは再び襲い掛かろうとしたが、視界に衝撃の映像が流れた。


 ───角が、あの禍々しい角が、取れたのだ。しかも、キレイにポロリと。


「え、」

 アルサーは飛びかかりに急ブレーキをかけ、踏みとどまった。魔王改めキングは、まるで何事もなかったかのように、頭に付け直した。


「ニーアさん、瞬間接着剤あるかな」

がくれた物ですよね」

 アルサーにとって、“宿敵である魔王の角が取れたこと”も“という未知のワード”も衝撃的だった。


「いやいや、ちょっと待って!タイム!!」

「おや、どうしました?」

 キングは丁寧に聞き返した。半ギレ状態のアルサーはたたみかける、

「まず、何でお前が生きてるだよ!次に、お前の角に3秒ルール適用して、俺が気にならないと思ったか、馬鹿が!それから......」


「少しは静かになさってください。隣の部屋にまで届いてますから」

 未知のアイテム“瞬間接着剤”をとってきたニーアに、諌められるアルサー。アルサーは女性に怒られると、しゅんと静かになってしまった。

 静寂を見計ったキングが口を開く。

「まぁ、驚くのも無理はない。私自身が大きく変わってしまったからね。何があったか、少し話そうではないか。私とオタクに何があったかをね」




 -約1週間前

「こいつも、あいつも全て倒してしまった。全く、暇の極みだ。どうしよう、魔女の園でも行ってみるか」

 闇のオーブに自分を映しながら、あご髭を切りそろえている魔王キング。現在アルサーの前にいるキングの姿とは大違いなオーラと風貌をしている。


「おいっ、お前。お前が世界を闇に落とそうとしている魔王だなぁ。許さぬ、断じて許さぬ」

「あっ、切りすぎちゃった。ちょうどいい、地獄に送ってやる」

 キングはオタクの姿をきちんと見ることなく、強靭な爪を備えた手に魔力を溜め、大きな魔弾を作り上げる。キングは凶悪な笑みを浮かべ、

「消えな!見知らぬ男よ」


「わい、いや俺様には効かぬっん。いかん、噛んでしまった。ちょっと待って、もう少し言いたいことが......」

 オタクは眩い光に包まれた。


「よぉし、スッキリした。ニーア、出立の準備をせよ」

 魔弾で出来たクレーターの中心から、のそのそと出てくるオタク。その後、瞬間移動で近寄り、軽々とキングをひっくり返してから、キングのを掴み直して地面にたたき落としたのだった......





「───てなわけだよ」

 言い切った感満載のキングをよそに、アルサーが問いただす。

「俺が倒そうとした魔王ってのは、そんなダサい野郎にやられたのかよ」


「やっぱり角を折られると人生変わるもんですよ、アルサーさん」

 ドキュメンタリー番組のように語りかけるキングに耐えきれないアルサー。どうにも怒りをぶつけたいアルサーは、散々のたうち回った。それから、吹っ切れたような顔をして


「じゃあ、キング。俺と一緒に都へ行こうか。お前しか、オタクの顔を知らないんだ。良いよな?」

 アルサーは会いに行くニュアンスを出してはいたものの、内心はぶっ飛ばす気満々だった。


「どうしようかな。オタクにもらった瞬間接着剤が切れそうだし、行くことにしようか、ニーア」

「そうですね、お買い物もしたいし」


 そんなこんなで、元勇者アルサーと元魔王キング、メイドのニーアは都に行くことになった。




 -道中の茶屋

「お前は角が折られた以外、何もされてないのか?」

「おっしゃる通りです。角があれば倒したことになるって」

 都までの会話は、基本的にオタクとの戦いについてだった。アルサーにとって、長年の宿敵がどのように負けたのかが知りたくてたまらないようだ。


「てことは、今の角は付け角なのか?」

「はい、よく出来てますでしょ。ニーアが作ってくれたんです。もちろん、右の角はちゃんと生えてますよ」

 角隠しのフードから、チラッと角を見せてくるキング。一応、世を震撼させた魔王であるため、フードを被っているが、全くもって道行く人に気づかれない。


「キング様、全然気づかれませんね」

「確かにそうだな。残念だったな、キングさま」

 嘲笑混じりのアルサーをよそに、キングは淡々と言った。

は良くある。私自身、こうやって気づかれない......」

 言いながらも少し残念がるキング。ニーアはその様子が気にかけて、話題を変える。


「本当に都でオタクに会えるんでしょうかね」

『オラはここに......』

「そうだなぁ、いたらぶっ飛ばすんだがな」

『え...』

「私には必要な人です。瞬間接着剤欲しいので」

『これだけ、渡さないと......』


 ここまで来て、アルサーたちは気付き始めた。茶屋の隣の席から、話に介入してこようとする人がいることを。


 そして、それがオタクだということを。

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