5.マナポーター、行商人を襲っているAランクモンスタ―を一瞬で浄化する

 しばらく街道に沿って歩いていると、


「助けてくれぇぇぇぇ!」


 と悲鳴が聞こえてきた。


「イシュア先輩!」

「うん、ただごとじゃないね」


 僕たちは声の聞こえてきた方に向かって走る。

 向かった先では大量の商品を積んだ行商人を乗せた馬車が、巨大な獣型のモンスターに襲われていた。


「雇った護衛がやられてるみたいだね。すぐに助けよう」

「先輩はお人よしですね。分かりました!」


 アリアは杖を取り出し、狼型のモンスターに向けた。

 獰猛な牙と並外れたパワーが特徴的なAランクの難敵――多くの初心者冒険者を葬ってきた凶悪なモンスターである。

 しかし隣にいる少女の敵ではなかった。



「魔力は僕が注ぐ、ぶちかましてやれ!」

「共同詠唱ですか!? 分かりました。日頃の鍛錬の成果、お見せします!」


 やけに気合を入れたアリア。

 彼女は詠唱もせずに、いきなり空中に魔法陣を描き出した。


(これは――最上位魔法? なんで当たり前のように詠唱破棄して、涼しい顔で多重詠唱のエンチャントまで付与してるの!!)

(は、張り切りすぎだよ。アリア~!?)

 

 アリアは目を閉じて集中していた。

 たかだかAランクモンスターを相手にするには、オーバーキルにも程がある大魔法である。


(これ……正しく発動するとヤバイ奴だよね?)


 僕は体内に蓄えられた魔力を解放する。

 マナポーターとしては天性とも言える体内から湧き出してくる無限の魔力。

 それを注ぎこむのは、アリアの生成した魔力術式の中だ。


(魔力を調整して威力を抑えないと……)


 あえて魔法陣と反発する属性の魔力を流し込んだ。

 出来るだけ威力を抑える方向に。

 ここの調整により、発動する魔法の威力に大きな違いが生まれるのだ。



「オッケー、アリア! 完璧だ!」

「はい! 二重詠唱デュアルスペル、イノセント・シャイン!」


 凛とした声が響き渡る。

 数十メートルにも及ぶ光の十字架が現れ、周囲の悪しきモンスターを浄化していった。聖なる極光にあてられ、周辺のアンデット型モンスターもついでに成仏されていった。


「先輩先輩! どうですか、私の新魔法は!」

「やり過ぎに決まってるよね!? ここら一帯を天国にする気かと思ったよ!」


 あたりを見渡すと、なんかキラキラ光り輝いていた。

 これが聖女の奇跡か――旅してるだけで聖地が増えていきそうな勢いだ。



「えへへ、久々の先輩との共同詠唱だと思うと張り切っちゃって!」


 てへっとアリアは笑った。


(信頼されてるのは嬉しいんだけど。無茶振りするよ……)


 魔法の威力調整も、広義ではマナポーターの役割だと僕は考えていた。

 発動者が最大限のパフォーマンスを発揮できるようお膳立てするのが、マナポーターにとって最も大切なことなのだ。


「アリア、また腕を上げた? あの規模の魔法でデュアルスペルなんて、見たことないよ」

「どんな術式を用意したところで、私には魔力不足で発動できません。先輩がいてこそです!」


 アリアの目はキラキラと輝いていた。


「だいたいとっておきの術式だったのに。一瞬で理解して、ついでのように威力調整と最適化かけるとか、どんな超人ですか!」


「アリアはいつも大げさです。それがマナポーターの役割ですから」

「そんな芸当が可能なのは先輩だけです! ……むう。先輩はいつだって、そうやって簡単に先に行っちゃいます。――ずるいです」


 むう、とむくれるアリア。

 勇者パーティでは一度も見せてこなかった子供っぽい仕草を見て、少しドキリとした。

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