番外編 酒、買いました

 十二月の中旬。

 ある週末に私は途中下車をして、ある酒屋に行った。

 普段はお墓参りツアーのため夏場に行くのだが今年は、例の新型コロナウィルスにより足が向かわなかった。

 なにか、むしゃくしゃしていたのかもしれない。

――知り合いにお歳暮を贈ろう

 なんて言い訳して酒屋の前に立った。

 そこには杉玉(新酒が出たことの合図)が吊るされていた。

「こんばんは」

 店の中に入る。

「おや、いらっしゃい」

 店主は私を覚えていたようだ。

「今年は来なかったね」

「例のウィルスで」

「あー、ねぇ」

 などと言いながら私は酒の入った冷蔵庫を見る。

「なにか、お手頃なものないですか?」

 私は何気なく聞いた。

「あー、今はね、新酒の時期でいいのが揃っているよ」

 店主は嬉々として解説したが私には半分分からない。

 とりあえず、お手頃なサイズと価格の酒を買い郵送してもらう。

 と、店主は伝票に書き込んでいる私に行った。

「さつまいも、好き?」

「ええ、好きですね」

「じゃあ、これ、どう?」

 目の前に置かれたのは可愛いサツマイモのイラストがプリントされたスマートな瓶だ。

「これは?」

「さつまいも、正確には焼き芋のリキュール。アルコール度高めだけど牛乳と飲むとだいぶ楽だよ」

 そして、こっそりこんなことを言った。

「本来は市場に出ないものなんだよ」

「じゃあ、なんで私に?」

「卸すはずだったレストランや居酒屋が軒並み……」

「例のウィルスですね」

「正解」

 で、買ってしまった。


 結局、私はクリスマスまで開封しなかった。

 理由は仕事に支障が出るのが嫌だったから。


 クリスマス当日。

 夜六時。

 私は瓶を上下に振り栓を開けた。

 アルコールの匂いだ。

 小さいコップに少量注ぎ倍以上の牛乳を注ぐ。

 飲んでみる。

 思ったより飲めた。

 かすかに焼き芋の匂いもする。

――案外飲めるじゃん

 が、毎日コップ一杯飲んでいたら二日酔いになりましたとさ。


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