第17話 お尋ね者が魔神を制す(後)


「浅はかだな、クライ。この鉄球は自動制御で飛ぶことができるAI兵器だ。遣り過ごしたと思って油断するから、こういう目に遭うんだぜ」


「くそっ、一撃目はフェイントか。最初からこちらの動きを封じるつもりだったんだな」


「その通りだ。……さて、いささか物足りないが、とどめを刺させてもらうぜ」


 バラバスは嘲るように笑うと、先端が三叉になった鉾を取りだした。棘の間で火花が散っているところを見ると電磁兵器のようだ。


「お祈りは済ませたか?潔く毒の海に沈め、お尋ね者!」


 バラバスの機体が鉾を振りかざした、その時だった。眩三がウォーカーの右脚を上げ、足裏を仁王立ちになったバルバスの方に向けた。


「万物流転 諸行無常」


 眩三が呟くとつま先が引っ込んで脛の装甲が裏返り、収納されていたレッグキャノンが姿を現した。


「――何っ?」


 新たな武器の出現に怯んだバルバスに向け、左足のキャノンが火を噴いた。不意打ちを喰らったバルバスは後ろにのけぞってたたらを踏んだ。


「今だ!」


 俺はバッドガイザーを起こすと、パラソードで右足に絡みついた鎖を断ち切った。


「形勢逆転だな、ボス。今度はそっちがお祈りをする番だ」


 俺はパラソードを構えると、鉾を持った敵の右腕を一刀両断にした。


「まだだ、そう簡単にはやられん!」


 肩口の露わになったケーブルから火花を散らしながら、バラバスが吠えた。俺はパラソードを捨てると右手の拳を握りしめた。


「俺もだよ、バラバス。超近接戦ではまだ、一度も負けたことがないんでね」


 俺が言い放つと指の表面から小さな刃が現れ、拳全体が回転を始めた。同時に敵の両肩にあるハッチが開いて二基のバルカン砲が顔を覗かせた。


「――遅い!」


 俺は腕をしならせると回転する拳を敵の腹部に叩きこんだ。次の瞬間、ぐしゃりと装甲がひしゃげる感触が伝わり、敵の動きが止まった。


「……馬鹿な」


 俺が勝利を確信した直後、バラバスの悔し気な唸りと共に頭部が胴体から分離した。


「ボスのくせに逃げるのかい、用心棒の旦那」


 俺は悪態を付くと、火花が散り始めた敵から飛び退った。やがて最初の雑魚と同様に、ボスの機体も煙を噴き出しながら海に沈んだ。


「――ふう、助かったぜ、眩三」


 敗走するバラバス一味を目で追いながら、俺は腰から下の守護神に礼を述べた。


「たまたま運が味方したに過ぎん。敵に諭されるようでは心もとないぞ、クライ」


「ごもっとも。今後はどんなに古臭い武器でも侮らないよう、肝に銘じておくよ」


 俺がシートの上で肩を竦めると、突然、コクピットの中に聞き覚えのある声が響いた。


「はあい、ナイスガイさんたち。ご機嫌はいかが?」


 声の主はアリータだった。レーダーを見ると、少し先の上空を小型飛行艇らしき物体が移動している様子がうかがえた。


「なぜこんなところにいる?主に島を追い出されたのか、アリータ」


「勝手に出てきたのよ。あのままいても面倒が増えるだけだし目的も十分、果たしたから」


「俺たちの獲物を横からかっさらっておいてよく言うぜ、嘘つき女神殿」


「あはは、いい勉強になったでしょ?お宝は有効に使わせていただくわ。じゃ、またね」


「おい、どこへ行くんだ?」


「秘密。……あ、そうそう、さっきの戦いっぷり、ちょっと格好良かったわよ。うふふ」


 アリータからの通信が途絶えると、俺は「やれやれ、とんだバケーションだったぜ」とひとしきりぼやいた。


「さて、どうする?次の『コンパス』でも探しに行くか?」


 戦いが終わった反動からか、ギランが間延びした口調で言った。


「そうだなあ……せっかくメンテナンスしたばかりの愛する城に傷がついちまったからな。またどこかでひと稼ぎしなくちゃ」


「そいつは構わないが、前の島みたいなトラブルはごめんだぜ」


「今度はまともな方法で稼がせて貰うさ。こう見えてもイカサマは嫌いなんだ」


「ああ、知ってるよ。大好きなのは女と戦いだってこともね」


「上等だ。――さあて、人の姿にも飽きたし、そろそろまた『家』の形に戻るとするか」


 俺は命を預けた仲間たちにそう呼びかけると、戦場から家に帰る準備に取り掛かった。


                  〈第一章 了〉

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