第14話 女神がドレスを捨てる時


「悪いが女神さま、君とはここでお別れだ」


 俺はシートの下から救出したアリータを車の外に追い出すと、取り上げた銃を放った。


「もう少しだったのに、今日はついてないわ。……でも次に会ったらこうはいかないわよ」


「ああ、覚えとくよ。君もデートの約束が中途半端だってことを忘れないでくれよ」


「生きてたらね。……それじゃまたね、鋼鉄の遊び人さん」


 アリータが闇の中に姿を消すと、俺たちは再び南西ドックへとトレーラーを走らせた。


 数十分後、ドック到着した俺たちはゲートの前にトレーラーを停めた。警備員に出国用のパスを見せると、ざっとあらためただけで「よし通れ」と、すんなり入庫許可が下りた。


 俺が期待に胸を躍らせているとゲートが音を立てて開き、中の様子が露わになった。


「どれどれ、懐かしの我が家はどこだったかな」


 俺はトレーラーをドックに入れると、いったん車両用のスペースに停めた。広いドックを埋めている飛行艇や移動要塞を見ながら進んで行くと、突然、黒い影が行く手を塞いだ。


「お前がクライだな?申し訳ないがここから先へ進ませるわけにはいかない」


 黒い服に身を包んだ男が言い、警備員とも作業員とも異なる雰囲気の連中が俺たちを取り囲んだ。


「どういうつもりだ。この島じゃ一度来た観光客は外に返すなって決まりでもあるのか?」


 俺が悪態をつくと、リーダーらしき男が「ふん」と鼻を鳴らした。


「そいつの素性によるな。普通の無害な観光客ならすんなり出すところだが、悪名高き『鋼鉄の城』の城主ご一行となると話は別だ」


 くそっ、ばれちまってたのか。俺は内心、歯噛みしながらどうしたものかと思案した。


 ――ひと暴れしてもどうってことはないが、去り際は綺麗にってのが俺たちの流儀だ。


 俺ができるだけおおごとにならないような脱出策を練り始めた、その時だった。突然、非常警報がけたたましく鳴り響いたかと思うと、奥の扉が開いてフルフェイスのヘルメットをつけた人物が銃を携えて駆けこんできた。


「ドック内で災害が発生しました。ここは危険です。いったん外に出て下さい」


「しかし、この連中を捕えよとの命令が上層部から……」


「ドック内では我々の指示に従って下さい。彼らの身柄はこちらで一時的に確保します」


「……わかった。くれぐれも警戒を緩めないでくれよ」


「承知しました。では後ほど」


 男たちがドックから渋々出てゆくと、駆け込んできた人物は銃を俺たちに向けたまま身体検査を始めた。


「――荷物をあらためさせてもらうぞ、いいな?」


「ああ、構わないよ」」


 人物は三人分の手荷物を軽くあらためると「よし、疑いは晴れた。ドックを出ることを許可する」と言った。


「なんだって?拘束するのか解放するのか、一体どっちなんだい」


 訳の分からない展開に戸惑いながら聞くと人物が突然、ヘルメットを脱いで顔を見せた。


「相変わらず詰めが甘いわね、クライ」


 俺たちの前に立っていたのは、少し前に別れたはずのアリータだった。


「……君だったのか。おかげで助かったぜ」


「島の主に『鋼鉄の城』を横取りされるくらいなら、あなたたちに返した方がまだましよ。……さ、今のうちに早く逃げなさい」


「すまないアリータ。恩に着るぜ」


「ふふっ、これで今日の貸しが二つになったわね」


「まったく油断のならねえ島だ。……ところで黒いつなぎ姿も悪くないな。ぐっと来たぜ」


「緊張感が足りないわよ。クライ。まったくあなたときたら、とことん不真面目なのね」


 俺たちはアリータに別れを告げると、遠隔操作で『鋼鉄の城』を起動した。開いたハッチに飛び込んでトレーラーを収容すると、俺たちは三日ぶりの『我が家』に腰を据えた。


「シャッターが閉まってるぜ、クライ。どうやって脱出するんだ」


「あいにくと手段を選んでる暇はないな。悪いが邪魔なシャッターを壊させてもらうぜ」


 俺はバッドカイザーの推進機をオンにすると、ドリルのついた作業用アームを伸ばした。

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