15話 ご飯のお供

やっぱり日本人はごはんだわ! こうなってくるとごはんのお供がもっと欲しい……。


「ねぇ……リベリオ……」

『意地悪で出さないんじゃない。出せないんだ』

「この辞典には載ってないって事?」

『そうだ』


 むーん……残念……。あ、私が何をリベリオに出してとお願いしたかというと梅だった。最近は晴れが続いているし、アレがあればごはんが進む。緑茶と合わせてお茶漬けにしてもいい。


「じゃあ紫蘇は?」

『それなら出せる。あれもハーブだ』


 そうね、和のハーブよね。栄養も豊富で防腐効果もある。しかたない。紫蘇の塩漬けでもいいか。


「じゃあ……『赤紫蘇の塩漬け』だして」

『……真白は意外と食いしん坊なんだな』


 意外とじゃないわ。元々食いしん坊よ。ベランダは料理に入れるフレッシュハーブで埋め尽くしていたもの。


「うん、おにぎりに巻くのに丁度いいわ。海苔もないし」


 大量に紫蘇が取れすぎた時は、こうやって塩漬けにしておくと爽やかな香りが長く楽しめる。


「市場、あんまりじっくり見る時間なかったしなぁ……また見てこよう」


 そしてご飯のお供を探すのだ。うん、楽しみができた。




「という訳で、今日のランチは私の国の料理です」

「ほお~」

「まだ材料も調味料も無いのでごくごく簡単なものしか出来なかったのですが」


 次の日のお昼。最近は私がザールさんの分も用意するのが慣例になっている。……というかザールさんは用意しないとお昼を抜かしがちなのだ。

 今日、私が用意したのは紫蘇おむすびと、ゆずとごま塩のおむすび。ごまはこちらにあって良かった。これだけじゃ寂しいからあとはゆで卵とトマト。


「お米ってこんなにもちもちしているんですねぇ」

「こっちは炒ったり、茹でたりらしいですね。私の国では一般的には炊いて主食にします」


 シンプルに和のハーブが楽しめるメニューだ。紫蘇の青い香りとゆずの甘く爽やかな香りをどうぞ。


「本当は梅っていう実を塩漬けにしてこの紫蘇と一緒につけ込みたかったんですけど、辞典の力では出せないみたいで」

「梅……ですか」


 ザールさんは『梅』という単語を初めて聞いたようだ。以前、『桃』は普通に通じたのに。


「えーと……桃の小さいやつ……ですかね。同じ様に小さい花が咲きます。未熟なうちに塩漬けにしてこの紫蘇を加えると保存食になるんです」

「へえ……」

「防腐効果や疲労回復にもいいんです」


 塩梅という言葉が示すとおり塩と梅は調味料の基本なのだ。近いものでいいから是非作りたい。


「それじゃあ、庭園に行ってみましょうか」

「……庭園?」

「ええ、王宮の庭園です。そこには果樹園もあります」


 ザールさんは頷いた。へぇ……果物も植えてあるのか。


「薬草以外にも花や果実などを使う事がありますから時々行きます。ローズマリーを植える時の道具はそこから借りてきました」


 すると途端にザールさんの顔が暗くなった。


「……最初は薬草園に行ったのですが、私のような一般の回復術師では立ち入れなかったですから……そこでしか栽培していない薬草もあるから仕方ないですけど……」

「あっ、じゃ……じゃあ行きましょう、庭園に!」


 ザールさんがどよーんとしちゃったので私は庭園に行くことを促した。お昼も過ぎたし、夕方までに救護棟に帰ってくれば多分大丈夫。

 私達は救護棟を出て南へ向かった。そこは王宮の門から城の入り口まで続く大庭園。美しく刈り込んだ植え込み、薔薇のアーチ、色とりどりの花に囲まれた東屋、そしてキラキラと輝く硝子の温室……。


「綺麗……」

「ここの園丁の頭、グレゴリ親方の自信作です」

「素敵ですね! ここに住みたいくらい!」

「……嬉しい事を言ってくれるね」


 急に後ろからした声に振り返ると、小柄なお爺さんが立っていた。もしかしてこの人がグレゴリ親方?


「ザール、なんの用事かな。異国の薬草はやっぱり根付かんかったかね?」


 異国……ああ、ローズマリーはそういう事になっていたのね。


「いえ、今の所は順調です。……今日はある植物を探しに来ました」

「植物を探しに?」


ザールさんがそう答えると、親方の目がぎらりと光ったような気がした。プロのまなざしだ。これは期待できるかも。私は親方に覚えている限りの梅の特徴を伝えた。


「小さい桃のような実で、小さな白い花が咲きます。今の時期だと……きっと花が散って青い実がついている頃だと思うのですが……」

「ふうむ……」


 親方は目を瞑りながら私の話を聞いていた。そして目を開けるとこう言って歩き始めた。


「ついて来なさい」


 親方に連れられてたどり着いたのは……果樹園、ではなかった。東屋の片隅の方で親方は足を止めた。


「お前さん達が探しているのはこれかの」

「……かも、しれません」


 東屋の周りに植えられた木には青いアンズのような梅のようなものがなっていた。一つとって香りを嗅ぐ。ふわっと優しい甘い香りがする。


「これはリームの木。異国趣味の先代王がここに植えたんだが、花の時期が過ぎるとこうして実がなる。熟れても大して美味くないから青いうちに取り払っちまうんだ」

「そ、その実下さい!」

「こんなものどうするんだ?」

「漬け物にします。私の故郷の漬け物で……この実ならかなり近い物が出来そうです」


 香りは青梅に近い。産毛に覆われた果皮も梅っぽい。囓ってみるのは勇気がいるけど。


「ふーん、これを漬け物にねぇ……」

「駄目でしょうか」

「お嬢さん、その漬け物が出来たら食わせてくれるかい? それならいいよ。どうせ捨てるものだ」

「ほ、本当ですか! もちろんです!」


 当然お裾分けしますとも!


「良かったですね」

「はい!」


 と、言う訳であるだけのリームの実を私の家に届けて貰う事になった。


「ふふ……梅むすび……梅茶漬け……梅酢漬け……」


 私はニヤニヤとしながら、救護棟へと戻った。紫蘇は無限大に出てくるしね。よし、沢山作って大量保存しよう!



★紫蘇の塩漬け★

わっさわさ生えてきて手に負えません! ってあるあるかと思うのですがそんな時には塩漬けです。


紫蘇・塩 適量(一枚につきひとつまみくらいでOK)

1.紫蘇を洗ってキッチンペーパーなどで水気をとる

2.タッパーに紫蘇と塩を交互に入れて冷蔵庫へ

3.一晩たったら食べられます(日持ちは冷蔵庫で2~3週間くらい)

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