第23話 夏休み最後の日

 今日は8月31日。夏休み最後の日!そんな中、城之内はお尻に火が付いたように焦っていた。まだ、夏休みの宿題を全然やっていないのである。城之内は朝早くに自宅から関都に電話した。夏休みの宿題を写させて貰うためである。

 城之内は警察にでも緊急通報する勢いでダイヤルを回した。


プルルル…

プルルル…

ガチャ


 数回のコール音の後、ちょうど関都が電話に出た。


「はい。南斗です」

「もしもし!関都さん?あのー夏休みの宿題で聞きたい事があるのですけれど…良かったらわたくしの家に宿題を持って…」


 そう言いかけると、言い終わる前に関都が話を遮った。関都も焦っている様子であった。


「悪い!僕、夏休みの宿題全然やっていないんだ!ちょうど今から始める所なんだ」

「そ、そうでしたの…。ほ、ほ、ほ、ほ。それじゃあ仕方がありませんわね。宿題をお頑張りになって!」


 ガチャ


 そう言うと肩を落としたように受話器を置いた。城之内はうなだれるように頭を垂れた。城之内のお尻は、自慢の真っ赤な髪の毛のように真っ赤に燃え上がっているようだった。完全に追い詰められている。


「仕方がありませんわね…親衛隊の皆様にお電話しようかしら…」


 一方、慈美子のお尻にもその真っ赤な髪の毛のような真っ赤な炎が火を上げていた。慈美子も宿題を全くやっていないのだ。慈美子もやはり関都に自宅から電話をかけるようだった。

 慈美子は遠足の連絡網でも回すかの如く、楽しそうにダイヤルを回した。

 数回のコール音の後、やはり関都が電話に出た。


ガチャ


「はい。南斗です」

「もしもし。関都くんいらっしゃいますか?」

「僕が関都だよ」

「ええ。分かってたわ。うふふ!」


 慈美子は嬉しそうに笑い声を挙げた。関都も受話器の前で含み笑いを見せていた。


「おいおい、からかうなよ」

「ふふっ…!ごめんなさい!本題に入るわ。夏休みの宿題の事なのだけれど」

「あー!悪い!僕、夏休みの宿題全くやっていないんだ!」

「やっぱり!私もそうだと思ったの!ちょうどよかったわ!」

「宿題でも写させてくれるってか?嬉しい申し出だが宿題は自力でやらないと…」

「ううん。そうじゃないの。実は私も宿題を全然やってないの!一緒にやらない?」


 意外な申し出に、関都は少し迷った。慈美子もそれを察し、さらに畳みかける。


「一緒にやりましょう!2人でやった方が捗ると思うの!」

「うーん…。確かにそうだな!」


 関都はすぐ納得した。そして、通話を終えると関都は、慈美子の家に向かった。慈美子は玄関で待ち受けていた。


「いらっしゃい!」

「うん。お邪魔します」


 関都は玄関に上がった。そして、2人は慈美子の部屋に向かった。

 慈美子の部屋にはジュースが2つ用意してあった。お菓子も大量にある。


「さぁ!始めましょうか!」

「うん」


 そう返事をしたかと思うと、関都は少し、考え込み、突拍子もなく何かを思いついた。関都はすぐにそれを口に出した。


「そうだ!城之内も誘わないか?城之内も宿題まだやっている最中らしいんだ!」


 とんでもない思いつきに、慈美子は絶句する。しかし、関都は全く気に留めていない。関都は嬉々として話を続けた。


「皆で解いた方が捗ると思うんだ!人数は多ければ多い方が良い!」

「うん…そ、そうね」


 慈美子はしぶしぶ城之内を呼ぶ事に賛同してしまった。慈美子は気が進まないが、城之内にお誘いの電話をした。

 城之内は1人でぶつくさ文句を言っていた。


「も~!五魔寿里さんも古紙銀茶区さんも夏休み最終日まで旅行にいってるだなんて!帰るのは夜ですって!一体何を考えてますの!?唯一家にいた尾立さんも用事があってすぐには来れないだなんて!」


 すると、城之内家の電話のコール音が鳴った。電話の前に張り付いていた城之内はすぐに受話器を耳に当てた。


「もしもし!尾立さん!ようやく家に来てくれますのね?!」

「いえ、わたくし、慈美子ですけれど…」


 その名前を聞いた城之内は激怒した。城之内は火を吐くように文句を言った。


「この忙しい時に何の用ですの!悪いですけれど、わたくし、あなたのように暇じゃありませんの!1分1秒を大切にして生きてますの!」

「分かるわ。その気持ち…。宿題まだ終わってないんでしょう?一緒にやらない?」


 その言葉を聞き、「どうしてあなたなんかと!」と、さらに怒りが沸いてきた城之内は、すぐに断ろうとしたが、その前に慈美子が口を滑らせてしまった。


「関都くんも一緒なのだけれど…」


 その言葉を聞いて、城之内の怒りはロケットのようにすっ飛んで行った。城之内は機嫌を直し、すぐに快諾した。


「もちろん!行きますわ!」


 通話を終えると、城之内は急いで尾立に電話をかけ直した。するとちょうど尾立が受話器を取った。


「もしもし、尾立さん?」

「ああ、城之内さん!お待たせ!ちょうど今からそっちに向かう所だったのよ!」

「悪いですけれど、もう来なくて結構ですの!」

「ええ!?どうして!?せっかく準備したのに!」

「もうあなたは用済みになりましたの。じゃあ、そーいう事でー」


 城之内は理不尽にも一方的にドタキャンしてしまった。尾立は何か言いかけたが、城之内は構わず一方的に通話を切ってしまった。


「ふふふん!さぁ~さっそく関都さんと宿題をやりに行きますわよ~!」


 城之内は、自力で宿題をやるのは嫌であったが、関都と一緒に宿題ができるのならば、それも我慢できた。だが、慈美子の誘いに乗ったのはそれだけではない。何より、慈美子が関都と2人っきりで宿題をしているのが嫌だったのだ。2人の邪魔をするために、城之内は宿題を自力で解く決心をした。

 城之内はすぐ慈美子の家に向かった。関都と慈美子は玄関で出迎えた。しかし、慈美子は本心では全く歓迎していなかった。

 何はともあれ、3人は宿題に取り掛かった。


「うーん。ここはどう解けばいいんですの?」

「ああ。ここはな…ヒントは…」

「ああん!解けませんわ!」

「ここはね。こう解くのよ…」

「も~う!分かりませんわ!」


 2人は宿題をすくすく解いて行ったが、城之内だけは何度も繰り返し躓いた。明らかに城之内が2人の足を引っ張っている。しかし、2人は文句も言わずに丁寧に教えた。

 そんなこんなで宿題を進め、関都と慈美子はようやく全ての宿題を終えた。しかし、城之内はまだ終わっていない。


「城之内頑張れ~!」

「城之内さんファイト~!」


 2人の声援に後押しされながら城之内は必死に問題を解き続けた。1人だけ遅いのは、テストでカンニングというズルをして1位になったからである。1人だけ実力もないのに1位になったから、同着1位の関都や慈美子と差が出たのだ。ズルをしていた差がここで馬脚を現したのだ。


(い~!!この女!わたくしに恥をかかせるためにわたくしを一緒に誘ったんですのね~!)


 城之内はそう勘違いした。完全に誤解であり、逆恨みである。そもそも城之内を誘おうと提案したのは関都であった。しかし、城之内はそんな事を知る由もない。


(よくも関都さんの前で恥を掻かせてくれましたわね!今に見てらっしゃい!)


「城之内さん~頑張って~!」

「頑張れ頑張れ!できるできる!絶対できる!ガンバレ!もっとやれるって!やれる!気持ちの問題だ!ガンバレガンバレ!そこだ!そこで諦めるな!絶対にガンバレ!積極的にポジティブにガンバレ!お前ならできる!お前だって期末テストで1位取っているんだから!」


 関都は熱血に渇を入れた。そんな2人の応援の甲斐があってかなくてか、城之内もなんとか宿題を終えた。時刻は夜の10時を回っていた。城之内はすっかりへとへとである。

 関都は憔悴しきった城之内にねぎらいの言葉を掛けた。


「あー!終わった終わった!ご苦労様!」

「ええ、やっと終わりましたわ…」

「良かったわね!これで全員夏休みを終えられそうね!」

「ああ!読書感想文以外の宿題は全然手を付けて居なかったからなぁ!」

「私も!読書感想文以外は今日初めて手を付けたわ!」


 その言葉にへとへとだった城之内は急にシャキッとなった。城之内の様子が何か変である。

 城之内は地雷を捜す自衛官のように、恐る恐る2人に訊ねた。


「ドクショカンソウブン?なんの事ですの?」

「まさかお前…」

「まだやってなかったの?」

「指定された図書の中から1冊選んで読んで、2000字以上の感想文を書くって宿題が出たじゃないか!」

 

 そう。城之内は読書感想文の事をすっかり忘れていたのだ!勿論本も読んでいない。城之内の疲れ切った顔は見る見るうちに青ざめていく。


「すっかり忘れてましたわ…本もまだ買ってもいませんわ…どうしましょう…」

「しょうがないな。僕が読んだ本を貸すからそれで感想を書け。僕がこの本を選んだ理由は1番ページ数が少なかったからだ。これが最速で読める本だ」


 城之内はよろよろと崩れ落ち、泣きながら関都に感謝の意を伝えた。慈美子もこの時ばかりは城之内を哀れんだ。


「うう…ありがとうございますわ…!」


 城之内は足早に帰宅すると、早速本を徹夜で読み込んだ。しかし、1番短い本とは言え、数時間程度で読める長さの本ではなく、読み終わるのに朝までかかってしまった。


「うう…。仕方がありませんわ!今日はズル休みするしかありませんの…」


 城之内は始業式を休み、丸1日かけて2000字以上の感想文を書き上げるのだった。

 始業式に姿を見せない城之内に関都と慈美子は事態を察するのであった。


「やっぱり城之内は間に合わなかったか…」

「そうみたいね」

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