第10話 バス①

 バス停に戻ると、既にバスが来ていた。

 後ろの乗車口のステップを上がる。ここは始発らしく、整理券の発券はない。交通ICカードは使えないようだ。


 ステテコのおじさんと、後方の席に座ると、ほどなくバスは発車した。車内は前の方の席に四、五人、といった風で、ガラガラだった。独りじっと黙り込んでいる人もいれば、隣同士ぺちゃくちゃとお喋りしてる人もいる。


 横に目をやると、おじさんは窓の外を眺めていた。どこか名残惜しそうな顔だ。

何処どこまで行かれるんですか」

 黙ったままもなんなので、話しかけてみた。

「終点だよ。決まってるじゃないか」

 おじさんは、ため息をついた。

「本当は、もっとこっちに居たかったんだけどね。久々に家族と会えて楽しかったし。でも、あまり長居をすると帰れなくなるから」

「好きなだけ居ればいいじゃないですか。家族なんでしょ」

「そんな訳にもいかないよ」

 おじさんは首を振って、静かに言った。

「一緒にいたってわかりゃしないし。こっちは、もう生きてはいないんだから」

「え?」

 一瞬、ぼかんと口を開けてしまった。狐につままれたような気分だ。

「何言ってるんですか。そんな、バカな」

「バカなって、おかしなこと言うね」

 おじさんは不思議そうな顔で、こちらを見た。

「あんただって同じじゃないか」

 その顔は、先ほどとは変わって、蒼ざめて見えた。

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