第3話 事故③

 村のバス停近くで車を降ろしてもらった。おっさんに深く頭を下げて心から礼を言った。本当に助かった。


 バス停は、かなり年季が入っていた。てっぺんの丸い部分は、赤錆あかさびが浮いていた。この停留所は平坂村という所らしい。この辺にそんな村あったかな?バスの行先は何とか町だが、文字が掠れていて読めなかった。

 支柱には、ボール紙に手書きの時刻表が、針金でくくりつけてあった。見たところ、バスの間隔は二時間に一本。次のバスは2

時半頃のようだが、今はいったい何時だろう。時計は持っていない。スマホも壊れてしまったので、確認しようがない。日はまだ高いから、まだ昼間であるのには間違いない。


 まずは電話だ。実家で、母たちが心配してるに違いない。ちょうど、バス停の前に店がある。看板は平坂商店。入口のサッシが開け放されていたので、そのまま中に入った。

 店内は、薄暗かった。灰色のコンクリートの壁と床のせいで、余計そう感じたのかも知れない。

 陳列棚には、菓子パンやスナック菓子、お茶や袋麺、調味料などが並べてあり、他には束子たわし、鍋、トイレットペーパーや洗剤、裁縫用品、棕櫚しゅろの箒やちりとり、はたき、バケツなどの日用品が、一通り揃っていた。ある意味コンビニだ。ただし、一昔、いや、ふた昔以上前の代物だが。


 店の奥に小さな三和土たたきがあって、上った奥が住居のようだ。目隠しにかけられた暖簾の向こう側から、テレビの音がこぼれてくる。お笑い番組なのか、時折ときおり取ってつけたような笑い声が挟まった。

「すみません」 

「え、誰だい」

 声をかけると、暖簾越し、テレビの音に混じって、女性の声が聞こえた。

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