練習用のお話を。

@sode1202

第1話「水溜まり」「ケーキ」「明日」でさみしいお話を。

「雨が上がった時はまた」

そう交わした言葉を思い出し、今日こそは、そう思って家を出た。

初めはゆったりしていた足取りが、期待に急かされるように早くなった。

大した雨量じゃなかったから、新しくできた水溜りは小さく、走り出したステップで容易に飛び越えることができた。


約束通りの喫茶店に着く。

からんからんと音を立てて扉を開ける。ゆっくり開けたつもりだったけど、浮き立つ心が隠しきれないほどには強く開けていたようだった。その音に目を向けた人も手元や向かいの人物に向き直り、私はテーブルに座る。


窓際の日差しの強くあたるそのテーブルには、いつも人がいない。元々満席になるような店ではないけど、ここは捧げられたようにポツリと空いているような気さえしてくる。

そのようなことを考えていると、店員さんが注文を聞きに来た。ケーキセットと一瞬迷ったけれど、すぐにブレンドコーヒーを頼んだ。

約束通りになるなら、それから頼めばいいだろう。


待っている時間はやっぱり長く感じる。今回も約束は果たされないのだろうか、という思いが強まる。

今日こそはと思うけれど、多量の期待に少しの諦めが混じり、色も、味も変わってしまう感覚を覚える。

砂糖やミルクみたいだと思い、どちらも入れたコーヒーを呷る。

そろそろ店を出よう、この諦めをこれ以上見つめて見つめていたくない。


明日は雨が降るらしい、明日こそはと思い直し、入る時よりずっと重く感じる扉を開く。

その心の重さが諦めや失望だと言うことに蓋をして、雨の痕跡の無くなった道を歩いて行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る