弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ

今井米

第一章 兄も妹も姉も弟もいるんだ

第1話 美味しいご飯を食べたい          お

俺は自分が大好きだ。


人は俺を屑だのカスだの言うけど、そういう所をひっくるめて俺は自分が好きだ。

‥‥いや、今のは自分が屑だということを認めたわけでは無くて、例え俺が屑だとしても、と言う話ね。


なにせ俺はハンサムで優しいナイスガイだからね。


屑だのカスだのという罵倒とは世界一縁がない人間だと断言できる。


そんな俺の国、王国について話そうと思う。


王国には当然ながら王がいる。それでこりゃまた至極当然のことだが王には息子や娘がいる。そしてこれが原因で往々にして後継者争いが起こる。これのせいで滅んだ時もあれば、逆に豪傑な王が生まれて栄えることもある。



王位継承戦っていうのは言うならば育成ゲー。強い王を引き当てたい。でも子供ガチャじゃSSRは出ないから、強制的にレベル上げさせて強いキャラ作ろうぜっていうコンセプトで行われる。



これはかなり合理的な企画だ。


『いやいや、争いなんて無益じゃない?』て言う人はいると思う。



けれど自国内の椅子取りゲームで勝てない奴に世界規模の席取りでまともに戦えるわけもない。だって世界だよ?常識から異なるのだ。いわば魔境。そんな場所で生き残る力を持つ人間が王国内で勝利を修めるのは当たり前。それが必要条件だ。


だからまぁ、王位継承戦というレベル上げと選抜の実施は仕方が無いと思っている。


・・・ただ、限度がなぁ。やりすぎると国が亡ぶんだよね。



曾祖父の時代なんてそれで王国一回解体したし。限度を知れって話。


しかもそれが一度や二度じゃない。王国千年ちょっとの歴史の中で二ケタは優に超えている。歴史に学べよお馬鹿って思うね。



そんなハイリスクハイリターンな蟲毒ゲームだが、王国では先々代からは第一王子が王位を継ぐことが慣習化され、殺伐とした殺し合いは行われなくなった。。。







筈だった。



どうやら男と言うものは、刺激を求めてしまう生き者らしい。年齢に関わらず、ね。



「せめてファイーブが第一王子であれば良かったものの。。。」




王室の晩餐会で急に発せられた王のこの言葉に、食室はしんと静まり返った。俺もこの軽率な発言に絶句している。当たり前だ。なにせここには様々な人間が出入りしている。


あ、南の伯爵の次女がこっそり出てった。急いで家に伝える気かな。


今夜中には何百という人間が噂するだろう。明日には社交界で周知の事実として流れ出る。それが社交界であり貴族社会。



そして家族の前でそのような言葉を零すということは、だ。




「父上!それは俺が王として不適格という事でしょうか!」




「ふ、ワーンよ。それが分からぬからお前は器ではないと父上に言われるのだ。」




ほら始まった。


ワーン第一王子とツー第二王子の喧嘩だ。




「何だと!騎士団というものに現を抜かし王族としての責務を忘れているお前が王の器を語るな!」



「見苦しいなワーン兄上。王族の責務は民の為に国を導くこと。私は騎士として国民を、そして国を守っている。長男は偉い。女は政略結婚、次男は王の小間使いなどと言う古い考えに囚われている貴方に王は務まらんよ。なぁスリー?」



さらっと俺を巻き込まないで欲しい。


「ソウデスネー。」


「スリー?」


ちょっと兄上辞めて。か弱い俺がどうやって姉上に反論しろって言うのさ。


「そういえなくもない一面が無い事も否定できない場合があるということです。」


「つまりどっちなんだ?」


「否定もしないし肯定もしません。」


俺の風見鶏発言に思いきり顔をしかめる兄上と姉上。仲良しだね。


ワーン兄上は父上の銀髪を受け継ぎ、精悍な顔つきをしている。理知的な瞳に気高い志を発する佇まいは気品を感じさせる。その雰囲気はまさに王のソレ。あんな顔して子猫ちゃんを飼っているのがチャームポイントだ。




対してツー姉上は、父上そっくりのギラギラした紅眼。彼女のその目を見れば誰もがその熱い野心を察し、態度からは自信と闘争心が溢れているのを感じる。




ここで少しだけ説明を加えておこう。


この国では他国とは異なり女性でも王子と呼ぶ習慣がある。だからツー第二王子もフォー第四王子も女性ではあるが呼称では「王子」と呼ばなければならない。そうして5人の王子が王国にはいる訳なんだが、王位継承権は年の順。ワーン兄上、ツー姉上、スリーこと俺、実妹のフォー、弟のファイーブの順にある。




「そもそも私は早く生まれたかというだけで高い継承順位を付けられることにすら反対だ。年ではなく能力で順位付けされるべきだろうに。」


ツー姉上はさもいい事を言ったみたいな顔して椅子から立ち上がる。実際良いこと言っている。


・・・でも食事中ぐらいは静かにして欲しいよな。埃がたつし、うるさい。


一方で兄上は姉上の言葉に目を見開き、口をわなわなと震わせている。長年の伝統に真っ向から唾吐かれてることに気付き、侮蔑の表情が顔に浮かんでいるんだ。



いい意味でも悪い意味でも保守的なんだよねー兄上は。姉上はいい意味でもいい意味でも悪い意味でも革新的。



俺?俺は蝙蝠だから。保守的でも革新的でもないよ。有利な方に着く。

・・・・自分で言っといてなんだが。一番嫌われるタイプだな。


でも俺はそんな俺が大好きです。


兄上も自分のことが結構好きで、自己評価が思いのほか高い。


「例え能力で順位づけられようと、年で順位付けられようと、私が一番上だぞ。」


ほらね。


「は、世迷言もいい加減にするべきだな兄上。それとも己の無能さに打ちひしがれて現実が見えなくなったか?」


「なんだと!!!」


挑発的な笑みを浮かべる姉上に、激高する兄上。増々ヒートアップしていく二人の喧嘩に、心底うんざりする。


そしてそんな二人に唯一声を掛けれる人が一人だけ。


「まあまあ、食事の席でそう声を荒げるものではございませんよ二人とも。」


王妃インク様だ。


ちな兄上の母上で第一王妃。


「・・・・すみません母上。柄にもなく熱くなってしまったようです。」


「ふふふ、分かればいいのよ。ねぇツーちゃん、貴方も難しいお話は食事の後にしない?」


「‥‥そうすることにします。」


母親ということもあって兄上の怒りは風船のように萎み、姉上も第一王妃に噛み付くのはお門違いだと分かっているのか渋々席に着く。


兄上、第一王子ワーンは隣国の帝国の末姫を母に持つ王位後継者。そして末姫である第一王妃インク様はそれはもう優秀で所作や気品は勿論のこと、政から人脈に至るまで一級品の腕を持つ。



兄上もそんな完璧超人の手解きを受け、今は王の仕事を一部任されている程だ。家柄も申し分なし、能力も上々、順当にいけば次の王になる男だろう。


ただ彼は姉上と仲が悪い。すこぶる悪い。めちゃくそ悪い。エルフとダークエルフより仲が悪い。仲が悪すぎて逆に仲が良いんじゃないかと疑ってしまうほどだ。


「・・・・王妃様はこんなにも立派だというのに、兄上は何とも情けない。やはり王位に相応しくないのでは?」



だからほら。例え王妃が口出ししても兄上と姉上の喧嘩は完全には止まらない。姉上はもう口を開いて嫌味を炸裂させている。



「はっ、戦いしか能がない奴が王を語るなんて片腹痛い。お前は騎士として国を守っていると言ったが、それしかできなかったの間違いだろう。」


今度は兄上が挑発的な笑みを浮かべ、姉上の顔が朱く染まる。


「それは私への侮辱と捉えてよろしいのか兄上。」



「これはまた心外な。俺は只事実しか述べておらん。そう思うのはお前がそう自覚しているからだろう。」


兄上はそういって小馬鹿にするように肩をすくめ、それを見て額の青筋が増々浮かび上がる姉上。こえええ。


「どうやら兄上は私の今の職種を知らないらしい。」


「騎士団を構成する七つある騎士隊の一つの長だろう?お前こそ私の今の立場を知らんようだ。」


第二王子であるツー姉上は『赤火』騎士隊を率いるゴリゴリの武闘派だ。巷では『姫騎士』なんて呼ばれてる。なんでも戦う姿が可憐で美しいからだとか。俺は見たことないから分かんない。


誰だか知らないが姫じゃなくて王子って呼べよって思ったけど呼び名に『姫』が付くのは良いらしい。解せぬ。


・・・・いや『王子騎士』はダサいな。確かに『姫騎士』の方がいいか。


ともかく。


ツー姉上の母は王国の公爵家で、第二王妃を務めている。自他ともに厳しいことで有名な第二王妃はこりゃまた優秀な人で国内にある縁故に限れば第一王妃に勝るとも言われている。それぐらいおっかない人なんだ。


そんな第二王妃様は今は食卓にいない。今日は調子が悪いのだとか。多分面倒だからブッチしただけだろう。そういう方だ。


「どうしたツー?人に散々言っておいて私がどこで働いているのか知らないのか?」


「‥‥机上の空論をこねくり回す無能な人間だろう。」


「おや、我が愚妹は『立場』や『勤務地』という意味を知らないらしい。具体名も言わず、存在しない人間のことを口に出すとは。どうやら王国語からやり直してみる必要がありあそうだ。」


「なんだと!!!」


「そういえば先ほどの問いには答えぬのか。もし忘れていたのならもう一度言ってあげよう。『お前に騎士以外の何ができるのだ?』。ホレ答えてみよ。」


「……。」



そしてその娘さんは今兄上に盛大に煽られていますけど大丈夫ですか?


「どうした?何も言い返さんのか。それとも何も言い返せないか?ああ、それとも己の無能さに打ちひしがれて現実が見えなくなったか?」


姉上に言われたことを根に持っているのか、兄上は蔑みと愉悦の表情を顔に浮かべながら姉上に問いかける。


それを聞き姉上は不快そうな顔をしながらも口を開く。


「・・・いやいや、実力に乏しいものからよく因縁を付けられるのでな。兄上の今の口上はそういう奴等と一言一句同じであったのでそう捉えてしまうのだ。」



「ははは、なんだそれは。因縁ではなく事実ではないか。」



煽りますねぇー。



ところで。




俺、帰っていいかな?


関係無いよね、俺??

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