第9話 従妹の証人


「な、夏生!」


「はーーい」


「な、なつきちゃーーーん!」

 突然部屋に入ってきた従妹に驚く俺と妹、ただしその態度は180度違った。

 俺は後退り、妹はソファーをウサギの様に飛び越え夏生に抱き付く。


「なつきちゃん、帰ってきたの!」


「うん」


「嬉しい、会いたかったよおお」


「私も~~」

 抱き合う二人を呆然と見つめる俺……。

 従妹の夏生、親父の弟の娘、妹と同じ年の中学3年生……。

 あの俺と妹の結婚式での証人兼撮影役。

 

 赤い髪にボーイッシュな顔立ち、高い身長に長い手足、彫りの深い顔はどことなくエキゾチックで、イタリア人の母を持つハーフ。

 

「秀兄ちゃんもほれ!」

 夏生は妹を抱きつつ、片腕を大きく広げ俺の入るスペースを作るって、入らねえよ!


「な、なな、夏生、いつ帰ってきた」


「えーー? 今日だよ」


「今日って、親父はどうした?」


「うん? まだイタリア」


「イタリアって、じゃあお前一人か?」


「そだよ? とりあえず入学準備で帰ってきた」


「入学準備って……まさかうちの学校に?!」


「えええ! 夏生ちゃんも同じ学校!」


「うん、一応願書は出してるけど、多分駄目だろうねえ、あんたたちの学校レベル高過ぎ」


「……まあ、一応進学校ではあるからなあ」


「夏生ちゃんなら行けるよ!」


「でも、一応近くの高校にも願書出してるし、まあ大丈夫だよ!」


「大丈夫って、何が大丈夫なんだよ?!」


「えーー? ここから通うって事がだけど?」


「えええ! 夏生ちゃん一緒に住むの?!」


「うん、当面はね」


「やったあああ!」

「ま、マジでか!」

 喜ぶ妹を尻目に俺は慌てて親父に確認のメールを送ると、直ぐに返信があった。


『なっちゃんが驚かせたいって言ってたから黙ってた、テヘ』


「テヘじゃねええええ!」


 夏生と一緒に住む? マジでか!

 これはヤバい事態に陥った。


「何を慌ててるの? ああ、大丈夫大丈夫、夫婦の営みの邪魔はしないから~~」

 満面の笑みでそう言う夏生……。

 まずい、これは非常にまずい事になった。


 なぜまずいか……まず妹は、夏生が大好きなのだ。

 俺に次ぐ、いやひょっとしたら俺と同じくらい夏生を好きでいる。

 勿論夏生もだ。

 そもそも妹が完全に俺の妻だって思い込んでいるのは、この夏生が妹を洗脳したと言っても過言では無い。


 夏生にはタブーという感覚が無いのだ。

 愛し合っていれば兄妹だろうと、従妹だろうと、同性だろうと、年の差だろうと、身分だろうと、なんでも許されると思っている。


 これはまずい、イタリアにずっといるものだと思っていた。

 

 妹と円満に離婚して、普通の兄妹に戻る……それが俺の現在の目標……いや、さっきキスしようとしてただろって突っ込みはいらない。


 自分の弱さはわかっている。妹に対して過保護なのも、だからこそ、今夏生に帰って来られるのはまずいのだ。

 俺の決心が揺らぎ、妹の思い込みが益々激しくなってしまう。


「とりあえず、続きをどうぞ」

 とりあえずハグしまくった夏生は、妹の肩を持ちクルリと反転させると、俺に向かって強く押し出す。


「きゃああああ!」

 妹はソファーの背もたれに下半身を取られそのまま俺に飛び込んで来る。

 

「あ、危ない」

 俺は慌てて妹を抱き止めた。


「ほれほれ、続き続き」

 そんな状況にはお構い無しで、目を爛々と輝かせ、俺達を煽る夏生。


「続きって! す、するか!」


「キッスキッスキッスキッス」


「もう、しょうがないなあ夏生ちゃん、じゃあダーリン、ちゅううぅぅ」

 仕方ないと言いつつ、乗り乗りで唇を尖らす妹。


「しねえから!」


「ええええええ! さっきしてくれようとしたじゃない!」


「チョコ食っただけだ!」


「ぶううううううう!」


「お、任せ、お、任せ」

 夏生もうるせえ、お前は勉強してろ!

 てか、お任せってなんだよ!


 これで、結婚式の首謀者が再び集結する事になった。

 一体俺は妹と離婚出来るのだろうか?


【あとがき】

 先が気になる方は、ブクマ、★レビューを是非とも宜しくお願い致します。

レビューといっても文字を入力する必要はありません、最終話の下に☆星がありますので、クリックするだけの簡単なお仕事で、作者が超喜び、木に登って書きまくります(。´Д⊂)

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