VOL.3

 調布市の外れにある、

『東日映画撮影所』の入り口で、年老いた守衛は俺の提示した認可証ライセンスとバッジ、それから俺の顔を眺め、インターフォンで問い合わせ(これだけの作業をするのに、凡そ10分は待たされた)、やっと中に入れてくれた。

 撮影所なんてところに来るのは、本当に初めての経験だ。

 映画、とはいっても、今はもっぱらテレビドラマが主で、映画はごくたまに撮られる程度だという。

 それでも腰元姿や、浪人姿、或いは”その筋らしき”紛争をした役者に出会うと、映画好きの俺も、流石にガキの頃の映画少年に戻ったような気分になった。

 事務所に行くと、そこで再び受付で認可証とバッジを提示して、撮影所の所長に会いたい旨を話す。

 胡散臭がられると思いきや、

”所長は留守だが,俳優事務を担当している事務長なら会ってくれる”というので、俺は案内された通りに階段を昇り、二階の面会室に案内された。


『八杉真一・・・・ええ、確かにウチの撮影所で働いていましたよ。とはいっても道具係の助手でしたがね』


 事務長氏は面会室のソファに、向かい合って座ると、いともあっさりと答えた。

『女優の進藤美津子さん、ご存じですね?』

 事務長氏は、何を当たり前の事を訊くんだと言わんばかりの顔つきで答えた。

『勿論です。ウチの映画にも何本か出てますし、日本を代表する美人女優ですからな』

『では、その進藤さんと、八杉君の接点は何かありますか?』

 幾分含みを持たせながら吐いた俺の言葉に、向こうも何となく察したのだろうが、わざと素知らぬ顔をしながらこう言った。

『そりゃ、彼も一応撮影所ここの人間ですからね。映画やテレビドラマで一緒になったかもしれません。しかし考えてもみてください。かたやトップ女優、かたや一介の道具係の助手ですよ。まともに口なんか聞ける仲じゃないってことくらい、探偵さんだって想像がつくでしょう』

『”恋は思案の外”ともいいますからな。』

 事務長氏は俺の言葉に、いささか苦い顔をした。

『勘違いしないでもらいたい。私は別にスキャンダル漁りをするハイエナジャーナリストじゃありません。お客の依頼に応え、こうして足を運んできたんです。それ以外の事には全く興味がありません』

彼はしばらく俺の顔を見ていたが、仕方がない。とでもいうようにため息をつき、ソファから立ち上がると、

『本当に、それ以外には興味がないと?』

『ありません』

 彼は分かりましたと答えた。

 俺の方はポケットからICレコーダーを取り出し、スイッチを入れる。

『これからお話になる事は、全て録音させて頂きます。どうしても話したくない。不利になると思われることがありましたら、お話にならなくても構いません』

 俺の言葉に安心したのか、彼はゆっくりと話し始めた。


 思った通りだった。

 進藤美津子と八杉真一とは不倫関係にあったのだ。

 ただ、はっきりと現場を見たものは、所内の人間には誰もいない。

 しかしこうした世界は結構察しのいい連中が集まっていたりするものだから、

”ああ、なるほど”という感じで、何時の間にか広まっていったのだという。

 

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