革命前夜

革命前夜

著・つぎはぎ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917625966


 ミレニアム星人の星破壊番組で壊された地球から脱出した権力者たち旧人類と心を持つロボットである新人類が十万年後、第二の地球で出会う物語。


 読後、ややさびしく感じた。

 虚構や欺瞞を暴きながら浪漫や希望を見出すには、コロナ禍という出口の見えない暗闇の中では難しいのかもしれない。少なくとも私はそうであって、万人がそうではないだろう。

 現在過去未来というお話の流れで書かれているところからも、よく考えて作られていることが伺える作品だ。

 一文が長すぎるところは句読点で区切り、おかしい表記がないか音読して推敲と添削を……というのは後回しにする。

 むかしどこかで見たようなSF話が織り交ぜられている。

 SF作家はH・G・ウエルズやジュール・ベルヌなどヨーロッパで多かったが、世界初のSF小説雑誌「アメージング・ストーリーズ」が一九二六年に創刊されて以降、アメリカでのSF作家が増えていく。

 理由は、第一次、第二次大戦に参加した若者たちによるところが大きかった。田舎の少年たちに近代兵器の扱い方を教えるために漫画やイラストなど本を読ませ、さらに通信など科学や技術を教えたことにより、本を読む楽しさも教え、SFを読む土壌が育まれていったという。

 故に戦後、SF小説雑誌は爆発的ヒットとなり、現在までの漫画やアニメなどSF的アイデアは、ほぼ一九五〇年代に出尽くしているのだ。

 戦後日本のSF創成期から黄金期までをけん引した作家、小松左京は「SFとはなにか」という答えにくい質問に次のような言葉を残している。

「SFとは思考実験である。SFとはほら話であるSFとは文明論である。SFとは哲学である。SFとは歴史である。SFとは落語である。SFとは歌舞伎である。SFとは音楽である。SFとは怪談である。SFとは芸術である。SFとは地図である。SFとはフィールドノートである……。いや、この歳になった今なら、やはりこう言っておこう。SFとは文学の中の文学である。そして、SFとは希望である──と」


 人工知能研究の権威である主人公、柳哲夫は自室から古い望遠鏡をつかって宇宙を眺めているところから始まり、六行目に「明日、地球が消滅する」とショッキングなことが語られる。

「その事実を全人類が知ることとなったのは四年前の二一〇〇年だった」と続き、未来のお話なんだと読者はわかる。

 四年前、ということはお話での現在は、二一〇四年だ。

「私はその事実を二〇九二年の時点で知っており、それは地球の権力者も同様だった。ただ権力者はその事実を自分達が助かる方法を確立するまで、隠蔽することを決定した」と語られる。

 つまり、地球に住む全人類に公表された二一〇〇年よりも八年前には地球が消滅する事実を、主人公と権力者たちは知っていて、なおかつ「隠蔽することを決定した」と重大な告白がなされるのだ。

 地球を消滅させる存在の代表は、最後の方に名前が出てくるミレニアム星人。彼ら(?)から、二一〇四年に地球を消滅させることが告げられたが、標的はあくまで地球であり、「地球上の生物がどのような行動を取ろうが関与しないことを発言した」という。

 つまり宇宙人の彼らは、惑星を破壊したいけどそこに住んでいる生き物を殺したいわけではなかったのだ。

 権力者たちは、理由を聞かなかったのだろうか。理不尽過ぎるではないか。彼らに対して、地球にかわる第二の地球移住を交渉しなかったのだろうか。

 そもそも、どのようにミレニアム星人から教えてもらったのだろう。まさか大統領の電話に直接かかってきたわけではないだろう。

 宇宙から通信が入ってきて、それを解読したのだろうか。あるいはモノリスのような物体が落下してきたのか。それとも、直接地球に小型宇宙船がやってきて、メッセンジャーが伝えに来たのか。

 伝え方は、一方的な通告だったのだろうか。宇宙人の言葉をどうやって理解したのだろう。相手側の計らいで地球人にわかる言葉をつかって勧告してきたのだろうか。理解できる言語で伝えてきたとして、交渉や反論はできなかったか。

 できない理由はなんだろう。圧倒的な武力を前にして怖気づき、屈服して言いなりになるしかなかったのだろうか。

 自然災害的に起きることだと諦めたとおもわれる権力者たちは、自分たちだけが助かろうと情報を伏せたまま地球脱出計画を遂行。人類の英知を結集して人類が住める惑星へ移住するために宇宙船を建造していった。その責任者が主人公であり、完成すると彼は乗船を拒否。かわりに一人用の宇宙船を造ってもらう。

 彼らが第二の地球を求めて旅立った後、主人公は彼の保有している島で地球消滅まで余生を楽しむ選択をした。

 その島から、地球消滅を知った人類の行動を傍観する。秩序は崩壊され、欲望のまま生きるひどい有様だった。そんな中でも理性と秩序を保って生活する人々もいた。

 研究室で作り出した宇宙に浮かぶそれぞれの惑星の生活を覗き見る、そんなSF作品を思い出す。

 主人公はいつもコーヒーを入れてくれていた、アキというロボットを思い出す。彼が作り上げたロボットは人並みの心を持つまでになっていた。アキに可能性を見出し、人利用の宇宙船で地球を脱出し、第二の地球を見つける旅に出るよう促す。

「人間結構浪漫に弱いものでね、ゴールデンレコードも地球外知的生命体という浪漫に誘惑されて出来上がったものの一つだ。(中略)彼らは自身が生きているうちに絶対に成果はでないと理解しているのに、ゴールデンレコードを打ち上げた。未来に希望を託してね」

 アキの存在は彼にとって、一九七七年に打ち上げられたボイジャー探査機に搭載された異星人に向けたメッセージ、ゴールデンレコードだった。

「私は彼らと同じような心情を抱いている。自らが死んだとしてもその意志は形あるものとして残り、いつか誰かにその意志が届く。そういう浪漫に私という人間は憧れを抱いているのだよ。だから正直この願い事に私の自己満足以外の意味はないね」

 アキが乗り込んだノアの形状が描写されているが、色や形などイメージしづらく、いまひとつわからない。船内も同様だ。

 カウンセリング室にはアロマの匂いが充満している。

 人間には鼻から香りをかぐオルソネーザル経路と、喉からこみあがる香りを嗅ぐレトロネイザル経路がある。八割のレトロネイザル経路の香りで味を感じ取っており、舌で味わっているのは二割。

 このレトロネイザルは人間しか有していない。ロボットのアキはどう感じているのだろう。

 病気にもならず人類よりも優れた心をもった新人類としてアキは、柳哲夫に希望を託されて地球を旅立っていった。

 ミレニアム星人の、星を破壊する人気テレビ番組のために地球が消滅する。宇宙にも人気テレビ番組なんてものがあるようだ。

 そんなことで破壊されるのは理不尽である。

 権力者たちには伝えてあったのだから、ひょっとすると未来の地球では、環境破壊や社会経済など行き詰まっていたのかもしれない。かといって、全人類を他の星へ惑星移住させることもできないところに現れたのが、ウルトラマンの世界に出てきそうな名前の、ミレニアム星人だったのだろう。

 ネットワーク化された世界では、極秘に宇宙船建造が可能なのだろうか。製造過程での物資搬入業者あたりから漏れそうな気もする。そういった関係者たちも、惑星移民に参加することになっていたのかもしれない。

 それから十万年後、第二の地球に到達した権力者たちと新人類アキが出会ったところで終わる。このあと旧人類と新人類が対立するのか共存するのかはわからない。

 どこかで見たようなSFな展開は意図的だろう。よく書き込まれていると思った。

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