ボクは店先に並んだ時、ずっと君を待っていた。

ボクは店先に並んだ時、ずっと君を待っていた。

著・かんなづき

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921645402


 購入時に「今日から、ずっと一緒ねっ」と言われたぬいぐるみが、共に過ごした彼が亡くなっても帰りを待ち続ける物語。


 等間隔にあけて書かれていて読みやすかった。

 前の文章の後半部分を次の文章の前半と同じことが書かれていて、輪唱のようなリズムをつくっている。詩的な作品に感じた。

 店で購入したぬいぐるみ視点で綴られていることがわかると、付喪神が浮かんできた。長い年月をたった道具などに神や精霊が宿った、日本に伝わる妖怪である。

 とはいえ、店で売られているぬいぐるみが付喪神になったわけではない。このお話は、トイストーリーシリーズのように、人形やぬいぐるみなどの玩具たちは人間の見えないところで活動しているのだろう、と思った。これもすぐに違う、とわかる。ぬいぐるみはしゃべらないし、夜な夜な動き出すこともしないからだ。

 ぬいぐるみ視点で、購入してくれた男の子の成長が語られている。

 ぬいぐるみはダニの温床になる、といって子供から遠ざける親もいると聞く。親戚の親はそうだった。

 ぬいぐるみには、一平方メートルあたりおよそ四百匹のダニがいると言われている。ダニ対策で思い浮かぶのは乾燥・洗濯・掃除だろう。けれど洗濯してもダニは行き続けるし、掃除機で吸引してもすべてを除去できない。天日干しは、ダニを死滅させる効果は一応あるが、アレルギーの原因となるダニの死骸やフンは残ったまま。

 ダニは熱に弱い。スチームアイロンや熱湯をかけ、コインランドリーの乾燥機を活用すればダニを駆除できるだろう。

 ただ、熱に弱いものや水洗いできないぬいぐるみもある。

 ご飯をこぼしったとき、洗濯して天日干ししている。水洗いできるぬいぐるみだったのだろう。

 しっぽの付け根から中身の綿が出たことがある。手縫いで直してくれたのだろうう。犬や猫のようなぬいぐるなのかもしれない。

 ぬいぐるみ視点で、男子の様子が語られていく。

 まるで盗撮しているみたいな、他人のプライベートを覗き見しているような気になってくる。

 ベッドに倒れるとともにぬいぐるみに顔をうずめている。クッションくらいの大きなぬいぐるみなのだろう。そのとき男子が肩と息を震わせているのに気づいたとき、将来に悩んでいること、恋人に振られたことなどを知ったとある。

 ある種の特殊能力をもっているぬいぐるみだ。そもそも意志を持っている段階で、普通のぬいぐるみとは一線を画している。ウッディーやバズ・ライヤーたちのように喋ったり動いたりしないけれど、それでも必死に励ましの言葉を考えている。

 大学生になっても、ぬいぐるみを実家においておくこともなく、アパートに持ち運んでいる。ピーナッツにでてくるライナスがいつも肌見放さず毛布を持っているのと同じく、彼にとってぬいぐるみが安心毛布なのだろう。

 幼児はなにか執着することで安心を得ている。成長とともに執着から離れてるが、大人になって再び執着することもあるという。

 彼もまたそうだったのだろう。

 だが、大学三年のときに何かしらの病気となり他界してしまう。

 ぬいぐるみは従妹の膝上にいた。

 彼が愛着をもって大事にしていたのだから、一緒に火葬させてあげればよかったのにしていない。ぬいぐるみの大きさが問題だったのかもしれない。顔を埋められるくらいの大きさがありそうだから。

 火葬場によっては、ぬいぐるみは一切禁止されているところもあるという。

 亡くなったあと彼の母親が、いつも寝ていたベッドの枕元にぬいぐるみを起き、抱きついて泣いた。

「もし、あの子の我が儘を聞いていなかったら、私には何も残らなかったっ……。あの子がいつもあなたを抱き締めていた理由、今ならとってもよくわかる……っ」

 ぬいぐるみは、彼に会いたくなると帰ってこない帰りをいつまでも、ずっと待つのだった。

 悲しいお話だ。私は、逆のセリフを聞いたことがある。「形あるものを残したくない。それを見る度につらい日々を思い出すから……」

 彼の闘病期間は短かったのだろう。あっという間に亡くなってしまったから、母親はあのような言葉を吐露したのだ。

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