さよならのレプリカ

さよならのレプリカ

著・雨籠もり

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919056180


 遠い昔に白花展望台で出会った白髪の少女が残した録音の続きがないのを知りながら、今夜も通話して続きを待っている僕の物語。


 懐かしくも悲しいお話だった。

「白花展望台には名も無い小さな白花が群生している」とあるけれど、名もない花なら新種だ。密林の奥地などにいけば、名もない生物を発見できるかもしれないけれど、近所で名もない花に出会うことはない。

 名も知らぬ白花としたほうがいいのではないだろうか。

 この物語の世界が、地球とはよく似てるかもしれないけれど全くべつの惑星を舞台にしたものだったなら、そういう表現もありかもしれない。

 夏の深夜。

 隻腕を気味悪がられ、白花展望台に避難していた僕は、白い服を着た長い長い白髪の少女に出会う。

 暗くて見えない。群生している白花が風にふかれて飛んでいくのも、暗くて見えないはず。それとも、夜になると白く発光するのだろうか。だとすると、名も知らぬ白花というのも新種だから、うなずける。

 少女も、白く発光しているということかもしれない。だとすると、この時点で彼女は亡くなっていて幽霊なのだろうか。

 外灯が近くにあるのかもしれない。だとしたら、外灯に照らされて少女の姿が浮かび上がる、という描写がほしい。

 透き通るような綺麗な肌を持ち、青空を掬って流し込んだかのような蒼色の瞳をした彼女は、僕を怖がることもなく「君も一人ぼっちなんだね」と吐露する。

 彼女はなぜ、一人ぼっちなのだろう。やはり幽霊なのだろうか。

「僕が歩くに連れ家々の光は次々に失われ、やがて街灯だけが僕の道標となる」と書かれているので、公園へ続く道に灯りがあるのがわかる。

 夜な夜な二人は、展望台に絵本を持ち寄っては読み聞かせ合ったという。勝手に家を抜け出す子供を、親は心配しないのだろうか。

 夜の公園で絵本を読み合うのは難しい。外で本を読んだことがあるけれど、外灯の真下でないと細かな字を読むのは大変だ。

「灯台の灯りが弧を描く。僕らのことを、満月の円が切り取ってしまう」と書かれている。遠く離れたところに灯台があり、その灯りが二人を照らしたということだろうか。

 周囲の展望が見渡せる高台だとおもっていたけれど、ひょっとしたら展望台に灯台があるのかもしれない。その灯りの御蔭で、なんとか絵本などが見えているのだろうか。描写がないのでよくわからない。

「同じ一秒に祈りを託すなら、君ともっと話すことに託したいんだ。流れ星よりも確かなものに。私だけが信じられるものに」

 彼女は僕に携帯電話を渡す。幽霊ではなかった。

「君にはもう、会えなくなる。引越しだと思えば分かりやすいかな。でも、私と君が離れ離れになったとしても――ここに来れば、電波は届くから、話すことは出来る。読み聞かせは出来るんだよ。まるで傍にいるみたいに」

 僕は、この携帯電話を持って夜な夜な展望台へと足を運んでいた。通話の読み聞かせの日々を過ごすうちに、彼女に恋をしていたことに気づく。

 彼女が「死について考えたことがある?」と突然訪ねた夜があった。これはいつのことだろう。展望台で直接会っているときだろうか。話の流れから、通話しているときにそんな話をしたのだと思われる。

「携帯電話は途切れ途切れにしか繋がらな」かったのにある時から、「ノイズすらない彼女の声がはっきりと聞こえる」ようになった。

 そこから畳み掛けるように「彼女の着ている白い服が入院服であること」「彼女の引越しが、一般病棟から集中治療室への移動であるということ」「彼女の肌の白さや、髪の毛の白さが、投薬される薬の副作用であること」に気づいたのは、いつからだったか? と自問する。

 聞いていたのは、あらかじめ録音されていた音声だった。

「僕が再び読み聞かせに電話を掛けると知っていて、自分がいなくなったその後の為に声を残したんだ。死の恐怖に打ち震えながら。大病と闘いながら」

 わかっていながら、僕は展望台で電話をかけて彼女の声を聞く。

「……君に出会えて、本当に良かった。本当に良かった。それじゃあ――またね」

 またねがないこともわかっていながら、僕は展望台でその先を待っている。

 残酷なようだけど、罪作りなものを残したかもしれない。

 この録音のおかげで、僕はわかっていながらその先を期待し、思い出にとらわれて一歩も動けなくなっている。

 話の展開がうまい、と思った。

 

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