完璧な世界

完璧な世界

著・綿貫 ソウ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893427618


 エヌ氏は全ての人が幸せな「完璧な世界」を求めて百年後の世界へ向かい、幸せな空気によってAIに管理された全人類が平等に幸せとなった完璧な世界をみてきた物語。


 星新一のようなSF短編。

 極力描写が省かれている。未来センターの建物がどういう具合なのか、タイミマシンはどんな形をしているかなど、細かいことはどうでもいいのさという具合に割愛されている。そういう作品として楽しむのだろう。

 百年後の未来にたどり着くと、「どうやらそこは住宅街のようで、アパートなどが整然と立ち並んでいた」「ビルのような高いものはなく、平屋が立ち並んでいる。僕らの時代となんら変わらない、平凡な風景だ」とある。

 百年後はそうなのだろう。

 一体の人型ロボットがやってくる。どんな形をしているのだろう。色は? 大きさは? ロボットだとわかるような機械的な見た目をしていたのだろう。

 散歩していた老父と話したあと、すぐに走り去ってしまう。百年後の老父は脚が速いらしい。あるいはエヌ氏には老父に見えただけで、実際は違うのかもしれない。

 文明は発達してないし、言語すら同じ。いじめもある。コンビニ、病院、牢獄。百年後も変わらない世界らしい。

 囚人にも、「ここはどこですか」と質問している。

 どうやって会って話を聞けたのか気になる。

 挙句の果てに、殺人をしてしまう。殺人をして、逮捕されて囚人に会って「ここはどこですか」と聞けたなら、話の流れですんなりといく気がした。

 はじめの出会った人型ロボットに逮捕され、「過去からきた」と打ち明けると拘束を解除される。

 百年後の未来は、タイムトラベラーを現行法で裁いてはならないと周知されているのかもしれない。つまり、タイムトラベルが認知されているということになる。

 二×××年、世界政府は公平で最善な世界になると判断して、AIに世界のすべてを任せたことがわかる。幸せになるための方法を考えたAIは、科学物質「幸せな空気」を開発。大気に充満させ、その空気を吸うだけで幸せホルモンが分泌、すべての人間は幸せにだという。

 心の安定をもたらすセロトニン、意欲みなぎるドーパミン、優しい気持ちになるオキシトシンが三大幸せホルモンである。

 日光を浴び、一定のリズムで身体を動かすことで分泌されるセロトニンの九十パーセン以上が腸で生み出されている。

 ドーパミンは目標が達成されれば分泌され、そのご褒美が与えられるとさらに分泌される。オキシトシンは、スキンシップや優しい行動により分泌される。

 他にもランナーズハイの状態や美味しいものを食べたときに分泌されるベータ―エンドルフィン、乳酸発酵した漬け物やきのこなどに多く含まれるため食事に取り入れるギャバ、

大きな声を上げて力を振り絞ることで出るアドレナリンも、幸せホルモンだ。

 幸せ空気を吸い込むことによって、それらの幸せホルモンを分泌させて全人類を幸せにしているという。幸福になってもいじめはなくならないのだろうか。

 ロボットは言う。

「そもそも、個体によって『幸せ』の量が異なるのは不平等デス。運動や勉強ができない、夢が叶わない、そんなのは産まれる時に決まります。そんな世界、完璧じゃありませんよ」

 幸せな空気を吸ったからといって、個体によって体内で分泌される幸せホルモンの量も異なると思うので、平等とはなかなかいかないのではと思った。  

 食事の栄養ですら、産地や管理、調理方法や個人差で栄養摂取量が異なるので、完璧というのはなかなか難しい。

 それでも、完璧な世界とは「全ての人が幸せな世界」だとおもって未来にいってみてきたのだ。エヌ氏神てきた未来はたしかに、完璧な世界であったのだ。

 ちゃんとオチがついている。考えられた作品。

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