白百合十夜

白百合十夜

著・エスマ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917412336


 浮世離れした先輩が白百合を描かず死んだ理由を知ったとき、白百合は彼の死と恋を知った物語。


 悲恋、物悲しさがよく書けている。

 はじめの六行を割愛して、「明日死ぬとしたら何をしようか」の先輩のセリフから始めたほうが、物語の入りとしてはいいのではないかしらん。

 会話文の冒頭は、一文字あけなくていい。首は横に振る。誤字脱字がないか推敲をしてみてはいかがだろう。

「先輩はなんで白百合の花が好きなんですか?」

「俺の中で一番綺麗な花だからね」

「白百合の花は描かないんですか?」

「……描かないなぁ」

 このやり取りが伏線になっている。作中で語られるものに無駄はない。さりげない会話なのが実にいい。

「先輩はどこか浮世離れした雰囲気を纏っている」そうですが、その特徴を描写で書けたらよかった。

 二人の会話で、夏目漱石の幻想作品「夢十夜」がサラリとでてくる。物語の核のようなポイント。なにより二人は夏目漱石の作品を知っているのだ。私も高校のときには知っていたのだから、高校生の二人なら知っててもおかしくないだろう。

 ちなみに、夢十夜の第一夜に、死ぬ間際の女に「百年まっていてください、きっと会いにきますから」と頼まれ、女の墓を掘り、日が落ちるのを数えて待っていると白百合が伸びてきて、百年たっていたことを知る話がある。このことを言っているのだ。そして、この話の内容が、作品の内容に関わってくる。

「……じゃあ、待っててあげますよ」

 主人公がそう言うと、先輩はにっこりと笑った。

「じゃあ待ってて。俺はまだ白百合の花を描けないけど、その時が来たら白百合の花を描いてあげる」

 さりげなく告白の返事をしている。今生でなく来世でと約束を交わす先輩は、うれしかったのかもしれない。

 先輩が学校に来なくなる。余命少ないことを隠していたのを知ったのは彼の告別式でのことだった。

 浮世離れというのが、余命少ない先輩の行動のことかはわからない。病弱なところをさりげなく描いていたらいいのにと思った。あるいは、先輩の描くテーマ「明日死ぬとしたらなにをしようか」がそうなのかもしれない。だとすると、これでいいのかもしれない。

 先輩が亡くなってから、主人公は夢を見るようになる。

 丸い月が沈まない中でひたすら何かを待っている。

 主人公は一人美術部で、先輩の代わりに白百合を描き続け、気づけば卒業を迎えた。美術部の先輩のロッカーを掃除してみつけたのは、「恋」と題字された主人公を描いた絵だった。

 先輩が死んだことを実感し、なぜ白百合を描かなかったのかの理由も理解する。なぜなら、主人公の彼女の名が白百合だから。

 先輩にとって白百合は、一番綺麗で大好きな花だった。いつも美術部で一緒にいた後輩の主人公のことが好きだったのだ。絵があるということは、すでに白百合を描いていたことになるのだけれど、隠れてこっそりではなく堂々と白百合を描きたかったにちがいない。でも彼にはその時間がなかった。

 そして夢を見る。白い月を見上げながらなにを待っていたのかに気づいたとき、一輪の蕾がふっくらと白百合が花開く。そっと口づけをすると目が覚める。先輩がいつかもう一度白百合を描けるその日まで、ただ待っていようと思うのだった。

 悲しいけれど、いい話だ。

 組み立ても考えられている。うまいなと思いながら、こういう話が書けたらいいのに、と考えさせられた。

 

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