【ロングストーリー部門】

【奨励賞】 罪深き小説

罪深き小説

著・西間 湊

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921168654


 嘘を付きながら生きられなかった委員長を救えなかった主人公は、贖罪を込めて彼女を、世界一幸福で美しい少女として登場する小説を書こうと決意する作品。


「高校生はみんな嘘つき」と言い切る主人公は嘘をつかない。ただ、隠していたネット小説を委員長に知られ、バラされたくなければ一緒に遊ぶように脅される。

 漫画喫茶で「相手を決めつける」欠点があると指摘される主人公。委員自身も同じだと告白を受ける。

 ホテルでは、弱者に寄り添っているから主人公の小説は好きだと告げた委員長は、好きか嫌いかを問いかけてきた。好きと答えるも、寂しかったから肯定してもらえて安心したからだといわれ、主人公は困ってしまう。

 翌日、委員長は置き手紙を残して消えた。人間不信は治らず、嘘をつきながら生きられないから主人公と関係性を結ぼうとしたけど駄目だった、と綴られていた。

 委員長を救えなかった主人公は贖罪を込めて、世界一幸福で美しい少女として小説を書くことを決意する。


 読んだとき、冒頭の「高校生はみんな嘘つきだ」と言い切ったところがスッキリしなかった。

 中学生でも小学生でも似たような光景は見られるし、大学生や大人だって嘘を付く。よくよく考えてみると、登場人物や舞台が高校だからはもちろん、主人公の性格をうまく表現した言葉だ。この言い切りでなければならない、と思えてくる。

 小説を書いてることを周囲に知られたくないのに「言いふらしてやる」という委員長の発言は脅迫だし、義務のない強制で遊びに連れていかれるのも強要罪にあたるでしょう。

 漫画喫茶に連れて行かれた主人公は、委員長に恋愛漫画を読まされる。自分が書いたと答えてはすぐ「嘘」と云う委員長。主人公の欠点は「相手を勝手に決めつけるところ」と指摘し、委員長自身も同じだと告白される。

 勝手な決めつけ、つまり判断する行為は頭の中にしかない妄想だ。妄想という虚構が悩みを作り出すのだから、勝手な思い込みはやめたほうがいい。でなければ、いつまでたっても悩みからは解放されない。やめると作家は書けなくなるのだから、諸刃な剣だ。

 二人は共に人間不信だが、委員長は平気で嘘をつく。その差異がクラス内の評価を真逆のものにしている。この事実は小説のネタに使えると主人公は思った。

 主人公は、妄想を小説という形に変えて消化させられる点が、委員長と違うところ。ようはインプットとアウトプットができている。小説を書かない委員長は、だからアウトプット、行動に移すのだろう。

 委員長はまっすぐ主人公の目を見て自分を語った。相手の目をまっすぐ見て語る人間は世の中には結構いる。女性の場合、嘘をつくときだ。

 委員長と二人、ホテルで宿泊する。シャワーを浴びた主人公の目に、委員長が窓枠に片足をのせて外に向かって身を乗り出していたとある。

 一般ホテルは窓が開かないところが多い。説明からラブホだと推測。ラブホだと開くところもある。

 委員長は、弱者に寄り添っているから主人公の小説が好きだと告白した。本物を本物と認めることができず、偽物と決めつけ、偽物を否定する委員長は、本物も偽物も受容できないのかもしれないと主人公は思う。

 この辺りが、後の展開の伏線になっているのだろう。

 好きか嫌いか問われて好きと答えるも、寂しいかったから肯定されて安心したから好きだと答えたのでしょ、と聞かれて主人公は困ってしまう。

 翌朝、置き手紙とともに委員長は消えた。人間不信は治らず、嘘をつかずに生きられず、主人公との関係性に期待したが叶わなかった。プラトニック的より友情的関係かな。

 あるがままを受け取ることが出来ず、委員長は何処かへと消えた。村上春樹の小説みたいだと思った。

 クラスのみんなは委員長のことを心配していないとはいえ、あまりにその後がなさすぎる。これも高校生の嘘なのだろうか。

 ラストにごちゃごちゃ書かないほうがいいし、作品としては集約されるのはわかる。読み手としては、ぽーんと放り投げられたような、もやっとさが残る。

 作り手からすると思うつぼ、なのかもしれない。

 上げて下げて上げて下げてと感情の起伏、ストーリーがうまく、見習いたいと思った。

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