第9話 先輩をお誘い

 澪は中庭でいつも昼食を取っていた。向かってみると、ベンチに座りサンドウィッチを頬張っていた。


 隣には森心美がいた。おれが近づいていくと、こちらに気がついた。すると、用事を思い出したと言い、ベンチからそそくさと離れていった。背中がみるみるうちに小さく小さくなっていく。


「どーしたんだろ、心美ちゃん」

 今朝と同じく白々しく澪は言った。

「先輩、実はお教えしたいことがあるんですわ」

「なに?」

 おれは隣に腰を下ろした。

「実はですね、密室殺人が起こったんすよ」

「みみみ、密室!?」

「そそそ、そうです」


 おれは詳しい説明をした。朝倉刑事に呼ばれイミテーション・コインに出向き、殺害現場を確認し、容疑者たちから話を聞いたことを。澪は興味津々で、熱心に頷き聞いていた。喉に包丁が突き刺さっていたと言っても、動じることはなかった。


「密室か……」

 澪はサンドウィッチを口に含みながら言った。喉に包丁が、と説明したがどこ拭く風だった。たいへん美味しそうに食べている。


 サンドウィッチを食べ切ると、小さな足をブラブラさせ、

「凄いなあ、お母さんは探偵だもんね」

「おばはん探偵ですわ」

「おばさま探偵ね、おばさま探偵」

 丁寧ではあるが結局のところ、おばという文言を使っているので却下されるだろう。今度は澪が鼻で笑われかねない。


「おばさま探偵と、ちゃんとお話ししたかったんだよね。お会いしたことあるけど、挨拶くらいで会話はないからさ」

「先輩も、この一件に参加しますか」

「え、いいの!?」

「おかんに訊いてみたら、オッケーと言いまして。先輩が探偵志望やってこと話すと、後進をちゃんと育てるのも、大事なことやって。それをしようとしない奴は、大人として失格やって」

「かっこいいね、おばさま探偵!!」

「刑事にも言っておいてくれるみたいです。駄目とは言わせんと、えらく強気でしたわ」

「ありがたいなあ、ちゃんと勉強させてもらお。……お母さんは、密室のことでなにか言ってた?」

「それがなんも」

「そっか。でもいったい誰が犯人だと思う、けいとくんは」

「いや、まったくわかりませんよ」


 おれは手を左右へぷらぷらと振った。


「それに密室の謎を解かん限りは、特定は難しいんとちゃいます?」

「そうだねぇ」

 先輩は探偵のように顎に手を添え考えていた。

「社長さんを殺害できても、その部屋からの脱出は不可能……。スペアのキーも、社長さんが持ってた。Ketuは部屋の外では使えないし、なにより登録されてるのは社長さんの声、か……」

「密室にしたのは、自殺と処理されると考えたからですかね」

「多分ね。外部犯の可能性もあるのかな?」

「ないとは言えへんのと違います?」

「だよね。……密室かあ……お母さんは、なにか掴んでるのかな?」

「なんとも言えませんわ。普段通りの様子ですし」

「そっか」


 そのあとも澪と密室について話したのだが、あっという間に昼休みの時間が終わってしまった。放課後、校門前で待ち合わせ、家へ向かう約束をした。

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