明けない夜のヒミツ

明けない夜があったなら

それはひとりきりだからかな

誰かと会うとかじゃなくて

自分はひとりきりだと思って 誰かとの思い出も忘れて

さむさにふるえることさえできないで

くももその動きをとめてしまって

まるでこのひざをかかえる両手のように


夜が明けない ひとすじの光の気配だってない

星はまたたくこともせず 地図みたいに迷路めいろみたいに

流れ星は後ろの正面で流れてる 願いごとの準備ができていないから

洒落しゃれしてくれたのに 笑ってくれたのに またねって言ってくれたのに


とけない魔法があったなら

それはふたりでとなえたい

なにかをるとかじゃなくて

なにかを消すとかじゃなくて なにかを忘れるとかじゃなくて

願いをかたちにすることもできないで

風もその動きをとめてしまって

まるでこのひざにうずめたがおのように


ときがとけない ささくれひとつのすきますらない

涙はひろがることもなく 湖水こすいのように月のように

流れ星はこぼれそうでこぼれない 願いごとの準備ができていないから

ってくれたのに 語ってくれたのに 心をさらしてくれたのに


あらしの前の静けさだったのかな いまとなっては分からないよ

あたしはひとりきりでいるのが好きなわけじゃないのに

微風びふうき先を知りたくて いずみに指をひたしたけれど

冷たくて 冷たくて こごえるみたいに冷たくて

風も感覚もなんにも分からなくて ただずっと指の先がじんじん痛いだけだった

そんな痛みでさえもどころにしなきゃいけないなんて

嫌だけど 嫌だけど こんなあたしは嫌だけど

それでも君を探したあかしだから手放せないよ

あらしに指をなじられて とれてしまいそうなほど痛くても


明けない夜が明けたなら

それは夢を見ていたのかな

とんちみたいな話だから

朝の光にとけるくらい 頼りないものだったなら

うしなった覚えのない色彩しきさいたちが

目をこするたびに消えていくようで

まるでおまじないでとんだ痛みのように


好きが言えない かがみの前では言えたはずなのに

君はまたたくこともせず まとみたいに太陽みたいに

流れ星は次から次にこぼれていく 願いごとの準備はもうできているから

嵐がすぎさったから 風が吹いたから 明けない夜が明けたんだから

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