三猿詩集

倉井さとり

やあ

やあみんな、僕は身体からだおじさん

こんにちは? うん、こんにちはだよね、こんにちは

え? 僕の生態せいたいを知りたいって?

うん、いいね、君のその、生真面目きまじめ貪欲どんよく

僕の若い頃にそっくりそのままだ

だから身体からだおじさんの僕としては、投げキッスをせずにはいられない


まず僕は、フレンチトーストが大好き

フレンチトーストはれているほどいい

見た目もいいし味も最高

僕はそう思ってる、願ってる昔から


そして趣味は、人間観察にんげんかんさつ、人を見る、じっと見る、じっとね、じっと

そう、それによって自分自身への鑑識けんしきを深めていくんだ

君、呑み込みが早いね、うねっているのがはっきりと分かる、その喉仏のどぼとけ

君はもしかしたら、将来、僕の同業者になるかもしれないね

うん素敵なことだね、身体からだおじさんは何人いたって困ることはないのだから


さてお次に、僕の大好きなことは、自分自身の体温を感じること

ああ、僕は恒温動物こうおんどうぶつなんだってしみじみしながらね

この熱は、フレンチトーストやらホットミルクが作り出している、そんな事実とともに己の身体からだを抱き締める、そうだねって、強く強く抱き締める、ああこれはフレンチトーストのぬくもりなんだって、なるほどねって、これはホットミルクの温熱おんねつなのかってね


――僕は自分自身が行う激しい抱擁ほうようのセクシーさに身震いする――


そして強く思う感じる腹の底から身体の隅々まで

僕は身体からだおじさんなのだと、僕こそは身体からだおじさんなんだって

それで僕はいつも、こらえきれずに声をらしてしまう


……ぅ……、ぁぁ……! ……ありたちにむさぼられるような、集団行動のきもちわるい歯応え……!


君の耳元だけに、とっておきの秘密をささやいてあげる

僕はこんなに成熟せいじゅくしているように見えて、じつはまださなぎなんだよ

僕の身体からだのなかには、より美しい身体からだおじさんに至るためのアプリケーションが、あらかじめ内蔵されている

真っ青なちょうが美しいのは、はねが青いことだけによるわけじゃない

君のそのものの、蝶々ちょうちょうむすびがあいらしいのは分かるね?

ありがとう、君のそのむさぼるような合いの手、素敵さ


僕も負けていられないね、……ああ、僕の皮膚ひふ感覚かんかくが、喜びいさんで沸きあがる

うれしい、うつくしい、後進こうしんたちの追随ついずいが僕の背面をソフトに刺激する

見てくれ、僕のはね、僕のあし、僕のやわらかい腹部ふくぶ、うん、いいね、君の眼差まなざしが、なめらかにうなずいてくれた


僕は幸せ者だ、自他じたともに、激しい抱擁ほうようのもと、隅々までぬくもってゆく

僕は何度だって叫ぶだろう、身体からだおじさんとしてのほまれを

僕は身体からだおじさんなのだと! 僕こそは身体からだおじさんなんだって!!

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