第13話 鬼神の如く

「『・・・・・・あっ!!』」

武装警羅隊隊長、マサキの近くに簡辛ガンシンが倒れているのを忘れ、炎の球体を落下させてしまう


やばいやばいやばいやばい・・・!!


『取り乱すな!あの簡辛メスなら大丈夫だ!!信じろ・・・』


信じろって何を信じたら良いんだよ!

簡辛ガンシンは、毒手の毒で身動きが取れないんだぞ!!


炎が直撃することは、ないだろうけど・・・

この火力だ!とんでもない爆風が簡辛ガンシンを襲うだろ!!


そんな危機的状況で一体何を信じたら良いんだよ!簡辛ガンシンの生命力にか!?


『・・・・・・運だ!!』


―――運かいっ!!


「・・・アレを食らったら終わりだな?」

マサキが空を見上げながら、急降下してくる炎の球体に危惧する


「スミレ、マチマサ!巻き添えを食わない場所まで離れて・・・―――あれっ!?」

振り返ると既にスミレとマチマサは、マサキ隊長を1人置き去りにして避難完了している


「日頃は、10分前行動しろって言っても聞かないクセに!こんな時だけ・・・まー、アレを落とされたら地形が変わり地図を書き換えないといけない!それだけは、阻止しねーとな・・・!!」

マサキが金棒を両手で握り締め、外国人4番バッターのようなフォームで構えて、炎の球体を野球のように打とうとする


「花は、桜木!漢は、マサキ!!振れば必ずホームランッ!!」

自分よりも何倍も大きい炎の球体を身体に受けながら地面に衝突させないように金棒で打ち返そうとする


「・・・う、うう、うおぉぉぉーーー!!―――グワラッゴワッガキーーンッ!!」

マサキが雄叫びを上げながら見事に炎の球体をチェンに向かって打ち返す


・・・ア、アイツ!

何て怪力してやがんだ!?


あの炎の球体を跳ね返すとは・・・


『・・・・・・想像通りだな』


・・・冷や汗、出てるぞ!

全てを焼き払う火力って言ってたもんな!!


「・・・ゲ、ゲロ~!何を呑気に立ち尽くしているゲコ!?このままじゃ激突するゲローー!!」

大騒ぎするジャクシを無視して、跳ね返って来た炎の球体を龍人化したチェンの鋭く伸びた爪と風の刃で細切れにして相殺する


「『―――っ!!』」

「これは、随分、世話になった部下の分・・・―――だっ!!」

地上でフルスイングし炎の球体を打ち返した筈のマサキが炎の球体の影に隠れて跳び上がり、意表を突いたチェンの顔面へ力いっぱい全力で殴り付ける


・・・へっ!

今さら普通の殴打か・・・!!


これまでどれだけの数の打撃、斬撃、銃撃を受けて無事だったと思ってい・・・


―――るっ!?


「『・・・・・・!!』」

マサキに殴られた衝撃が凄すぎて、気が付いたら地面へと叩き落とされていた


オイオイオイオイ・・・!!


―――ウソだろう!?


今まで龍人化での戦闘でダメージを負うどころか土煙すら付いたことは、ないのに・・・


あのマサキという男!只者じゃない!!


「・・・あれ?おっかしいな・・・!結構、本気で殴ったのに・・・!!」

チェンを殴った手応えの無さにマサキが頭を掻きながら首を傾げる


・・・ロン

み、見ろ・・・!!


マサキのあの焼け焦げた制服から見える背中を!

鬼の模様の悪魔デビルズ刺青モンモンが彫られている!!


「『今日は、良い日だ!強者に恵まれている!!久々に全力を出せる相手かもしれん!!』」


日頃、ロンは、己の力が強大過ぎるが、故に実力の半分も出せずに退屈していた!

その全力を出せるかもしれない相手に出会い、興奮している!!


「『―――幻滅させるなよ!!』」

チェンが膨大な風を操り、両手で旋風を作り出し、風速、風力をコントロールし先程とは、比べ物にならない回転速度の竜巻を生み出し、空中で身動き取れないマサキとジャクシに向かってブッ放す


「・・・こ、これは、まともに受けたら一溜まりもねーな!!」

「―――オォォォーーイ!!俺様は、関係ないゲコ!?」

凄まじい暴風と轟音と共に上空へ昇って来る竜巻は、範囲、威力を増しながら押し寄せて来る


「・・・岩や鉄板が塵と化す破壊力!・・・俺も・・・ガマシールドを使うしかねーのか?」

「揃いも揃って戦闘狂は、同じ思考回路してるゲコ!?俺様は、巻き添えを受けるのは、ごめんゲロ!!―――回避させてもらうゲローー!!」

チェンにぶつける為に口の中で限界ギリギリまで巻いていた舌を瓦礫の先端に巻き付けて脱出しようとする


「―――よしっ!!」

「・・・こっちも準備OKだ!!」

「いや、何ちゃっかりしがみついてるゲコ!?離れるゲロ・・・!!」

どさくさに紛れてジャクシの身体にしがみついたマサキを殴り付ける


「・・・止めとけ!時間の無駄だ!!そんな腰の入っていない腕だけのパンチが俺に効く訳がない!!」

マサキが殴られ続けながらも平気な顔で指摘する


「それより今は、回避が最優先だろ?」

「―――ちくしょぉぉぉーーー!!お前ら覚えてろゲコーー!!」

ジャクシが舌を一気に巻き戻し、巻き付けた瓦礫の先端へと移動し巨大な竜巻を紙一重で回避する


「『ほぅ~・・・竜巻アレを躱すか・・・!!』」


感心してる場合じゃねーだろ!ロン!!


『口を挟むな!次の手は、用意済みだ!!』


挟みたくもなる!さっきの簡辛ガンシンの件を忘れたのか!?


「・・・よしっ!ガマ、ここで降ろせ!!」

「無茶言うなゲロ!勝手に掴んで来て、途中で降りたいなんて俺様は、タクシーじゃないゲコ!!」

マサキの無茶な要求を拒否する


「俺は、降ろせと言ってるんだ・・・!!」

「―――ゲ、ゲコッ!!」

ジャクシにしがみついていたマサキが力を入れて鯖折りにして、苦しんだジャクシが舌を離して落っこちてしまう


「地上戦なら負けねーぞ!!」

「『―――地獄ヘル業火ファイヤー!!』」

マサキが地上に着地する寸前にチェンが大量の空気を吸い込み、そのまま火を織り混ぜた息吹きを火炎放射の様に吹き出す


「・・・そんなもん・・・―――食らうかよっ!!」

着地したと同時に腕を地面に突っ込み、地中から分厚い岩盤を引き摺り出し、チェンの炎を防ぐ


「こんな浮世離れした妖怪大戦争に俺様を巻き込むんじゃないゲコーー!!」

隙を見計らったジャクシが蛙跳びで逃走する


「・・・ま、待て!どう見てもお前の方が一番妖怪染みてい・・・―――ぐはっ!!」

「『よそ見とは、余裕だな?』」

油断して隙を見せたマサキの頭上へ瞬時に飛行し、後頭部を鷲掴みにして地面へと叩き付ける


「『このまま地の底まで頭を下げて謝罪するなら楽に死なせてやる!!』」

「・・・そうか・・・それは、残念だ!」


・・・ん?

何だ観念したのか・・・!?


「俺は、身体が硬くて頭を下げたくても下げられねーんだよっ!!」

「『―――っ!!』」


・・・なっ!

―――何ぃぃぃーーー!!


龍人化したこの肉体で頭を押さえつけているのに・・・

この腕力を上回る力で立ち上がっただと!?


「・・・だから汗をかきながら長生きするわっ!!」

「『無理な運動は、身体に良くない!早死にするぞ!!横になって楽になれっ!!』」

起き上がったマサキの頭をそれでも掴んで離さないチェンが逆立ち状態になりながら、その手の平から凄まじい勢いで風を放出して、マサキへ吹き当てる


「―――んんっ!!」

マサキ周辺の地面が沈み込む威力の風圧を受けるがマサキは、体勢を崩さずに仁王立ちしている


「・・・何だ!その微風は?それなら冬場のアパートの隙間風の方が100倍堪えるわっ!!」

「『―――っ!?』」

腕力と風圧で押し潰されるのを全力で耐えたマサキが垂直に跳び上がり、頭を押さえつける腕を折り曲げて、そのままチェンの顔面へ頭突きを入れる


・・・な、何だ!コイツ!?

デタラメな怪力じゃねーか!!


無茶苦茶な攻撃しやがって・・・!!


「また飛ばれると厄介なんで・・・―――ねっ!!」

宙に浮かぶチェンの足首を片手で掴み、勢い良く地面へと叩き付ける


「オラオラオラオラ・・・!!」

掴んだ足首を離すことなく倒れるチェンに追い打ちで何度も殴りつける


・・・や、やばい!

何て衝撃だ!!


1発1発とんでもない破壊力をしてやがる!

このままじゃ肉体が持たない!!


―――オイ、ロン!!


この猛攻を防ぐ術は、ないのか!?


『・・・・・・おかしい』


・・・何が?


『攻撃は、大振りで単純!見切るのは、造作もない!!―――まるで素人の喧嘩だ!!』


・・・・・・


―――はぁぁぁーーー!?


・・・えっ!何言ってんの?

そういう考察は、安全圏に入ってからにしてよ!!


今、俺の肉体は、ボコボコにされてんだから!!


「『―――貴様!さては、武術初心者だな!!』」

「・・・あぁ~・・・そうさ・・・この背中に鬼の悪魔デビルズ刺青モンモンを彫られる前までの俺は、喘息持ちの虚弱児だった!そんな俺を変えたのは、奴との出会い・・・―――あの日も今日と同じぐらいの暑さだったな・・・」


―――いや、ちょっと待てぇぇぇーーー!!


何で人をサンドバッグにした状態で過去編に入ろうとしてんだよぉぉぉーーー!!!


「―――熱っ!!」

チェンの全身が炎に包まれて、あまりの熱さに手を離し、マサキの激しい猛攻と過去編の突入を同時に阻止する


龍人化でいられるのも残り1分ちょい!

それまでに決着つけるぞ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る