第三部を読んだ方への回答

 ここまで読んでこられた方はお疲れさまでした。番外編もこの章で終了です。

 さて、番外編の本編に入る前に「番外編を読む方への質問」と称して以下の質問を投げかけました。


「良き読者」とはどうあるべきか、以下の10項目から4つ選んでみてください。

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1 読者は読書クラブに属すべきである。

2 読者はその性別にしたがって、男主人公ないし女主人公と一体にならなければならない。

3 読者は社会・経済的観点に注意を集中すべきである。

4 読者は筋や会話のある物語のほうを、ないものより好むべきである。

5 読者は小説を映画で見ておくべきである。

6 読者は作家の卵でなければならない。

7 読者は想像力をもたなければならない。

8 読者は記憶力をもたなければならない。

9 読者は辞書をもたなければならない。

10 読者はなんらかの芸術的センスをもっていなければならない。


これに対するナボコフの答えは以下のとおりです。


7 読者は想像力をもたなければならない。

8 読者は記憶力をもたなければならない。

9 読者は辞書をもたなければならない。

10 読者はなんらかの芸術的センスをもっていなければならない。


 上記のとおり、10項目のうち下4つがナボコフの回答でした。すなわち「良き読者」には①想像力、②記憶力、③辞書、④芸術的センス、が必要だというのです。

 自分がナボコフの『絶望』を初めて読んだとき「なんだこの作家は」という、読書歴も相半ばながらそれまで読んできたどの作家にも感じなかった衝撃を受けたことを覚えています。それまで読んできた面白い「物語」とは違い、「小説」の可能性に初めて気づいた作品がナボコフの『絶望』でした。

 彼がコーネル大学でロシア文学の講師をしていたとき、学生たちに求めた読書スタイルは娯楽としてではなく「学び」のスタイルでした。すなわち通常人々が読書に向かう姿勢とは違い、小説を読むための筋肉を使うような、ストイックとも呼べる読書術を彼は学生たちに教えていました。また彼はこのように言っています。「私は何度でも繰り返す、本を背筋で読まないなら、読書なんかまったくの徒労だ」と。

 いかにナボコフ好きの自分も「まったくの徒労」とまでは思いませんし、彼の言葉のすべてを十全に理解し実践することもできないと思います。しかし、自分が『絶望』によって得たものが「本を背筋で読む」という意味であったのなら、この言葉の半分は疑いようがなく正しいといえます。

 ここでもう一度、彼の回答を確認しましょう。


7 読者は想像力をもたなければならない。

8 読者は記憶力をもたなければならない。

9 読者は辞書をもたなければならない。

10 読者はなんらかの芸術的センスをもっていなければならない。


 どんなに無理かろうと、自分自身の理想としてはやはりそこを目指したい、理想を目指してもっと読書を楽しみたい、そしてさらに数多くの作品の奥深さを心の底から味わいたいものです。

 番外編を読んで、理想は違えど本を愛してやまない読者がひとりでも増えてくれるのなら幸いです。


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 以上をもって番外編となりましたが、いかがだったでしょうか。設問の関係もあり、あまり踏み込んだ内容には触れられないものもあったのが名残惜しいところですが、非常に楽しく回答させていただきました。

 また、この番外編だけでなくエッセイ全体を通じてたくさんの本や作品を紹介してきたなかで、そのうちの一作を購入・読了したとの報告も受けました。あまりにも良い本だったのでもう1冊取り寄せて別の方にもお譲りしたというお話もうかがい、あまりに嬉しいご報告に万感の思いであります。

 この作品自体はここで一旦「完結」とさせていただきますが、またなんらかの機会に「連載」に戻し、まったく異なる趣旨で新たな試みに取り組んだり、違った質問に答えるかたちで再開するかもしれません。そのときは今回のようにまったりやっていけたらと思います。

 数ヶ月間の連載にお付き合いいただき、まことにありがとうございました。

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