第37話 前哨戦③

「Move! Move! Move!」


時代遅れの武器を持ってる部隊とはいえ二個中隊を相手に、一個分隊が正面切って挑んでも勝てない。だから、一波攻撃を加えたらすぐに逃げる。 

そして現在は敵から逃げている最中である。


ハンビーとMRAPに乗り込み距離をとる。 


背後では態勢を整えた敵部隊が密集体系でこっちに向かって銃をむけ発砲しようとしている。


ドパァァン


派手な光と共に100近い弾が飛んでくる。


「ファァァッァ○ク! 撃ってきやがった!」


運転席の軍曹が興奮しつつ叫んでる。


車両の後部に当たり金属と金属が当たり砕け、ガラスが割れる音が聞こえる。

防弾装備のMRAPやハンビーに乗っていれば怖くは無いが生身だったら蜂の巣になっていただろう。


「畜生め、LAVか迫撃砲が使えればあんな連中直ぐにでも神の下に送ってやれるのに」


車内全員の言葉を代弁してくれる親切な伍長もいる。


実際、艦砲さえ無ければもっと派手に正面から叩き潰せるのになと思う。


だがこの調子なら2、3時間後には上陸部隊を壊滅まで追い込める筈だ。


『こちら第3偵察隊3リコンより島内全域の部隊へ、敵の増援らし客船型の船舶3を確認....いや訂正する。

敵増援の船舶3を確認。旗を揚げ変えた

ゲイル公国海軍旗だ。 繰り返す....』


まじかよ..... 希望が持てた現状を覆すこの無線を聞いてこの言葉しか出てこなかった。

そしてこれは声にならず、表情だけ青ざめたようだ。


「サンプソン軍曹大丈夫ですか?」


部下からの問いかけに大丈夫だとジェスチャーで示す。


A小隊プラトーンAより第3偵察隊3リコン、増援は上陸部隊か?」


第3偵察隊3リコンよりA小隊プラトーンAへ、敵は恐らく歩兵部隊だ。甲板上に完全武装の兵がびっしり並んでいる。オーバー』


「神の試練もここまで来ると最高だな。甲板に兵が待機してるって事は、あと3、40分後には上陸開始だろうな。

伍長!海軍の支援を受けられるまであとどのくらいかかる?」


「順調に移動していれば、あと30分後には巡航ミサイルの支援を受けられます。1時間後には爆装したF-16、5時間後にはMEUの支援を受けられるようになるかと」


「船はいつになったら沈めてくれるのだ?」


「F-16に対艦ミサイルを搭載するように要請すれば1時間後には....多分」


「畜生!なんでこの辺りに戦闘機がいないんだ!?」


「大陸内でバステリア帝国残党掃討の大規模な作戦が発動中だからでは無いでしょうか」


「本当にタイミング悪いな」


話しているうちにも車列はぐんぐんと遠ざかり次のキルゾーンへと近づく


背後では別部隊による攻撃が継続され5.56mm弾の軽い弾けるような銃声と.50calの重く低い発砲音が入り混じって聞こえる。


その後A小隊は配置につき小休憩をとっていた。


隊員たちはあまり美味しくないMREレーションをもそもそと口にしている。


自分もOD色の包装をピリッと破り食べることとする。


何度食べても微妙な食感だ。


他国との合同演出でレーションの交換をしたがアメリカ軍うちのは群を抜いて美味しくなかった。


逆に日仏伊のレーションは味に拘りを感じて美味しかった。


「お前知ってるか?俺たちの敵は魔法使いらしいって」


部下の1人が新兵に話しかけている


「敵は小銃を持った部隊と無線で聞いたのですが?」


「違うね、それは“小銃らしきもの”だね。

俺はちょっと前までバルカザロスにいたんだが、そこでちょくちょく変な光を放つ魔道具とかいうやつをみたよ」


「確かに新世界側こっち側に来る時そんな資料を見ましたが、まさかと思いましたよ」


「魔道具は見つけても絶対触っちゃ行けねぇ、特に光を放つ作動中の物はな。

あれは高濃度の放射性物質だからな」


興味深い話ではあるが、そろそろ準備をしなければならない


「少尉、そろそろ時間では無いでしょうか」


「そうだな、諸君。次の攻撃が終われば空海軍から支援を受けられる。この攻撃の成果によってF-16の攻撃目標が歩兵部隊か、沖の敵艦かが決まる。

最良はここで敵の第1陣を壊滅に追い込み、ハープーンを戦闘艦に撃ち込んでもらう。

だが、敵第一陣が健在の場合は、JDAMを投下してもらう事になる」


『こちらB小隊、敵部隊がポイントTタンゴを通過中。オーバー』


「A小隊了解した」



「よーし、ハンビーとMRAPのLMGの射手を残して全員降車!配置につけ」


小隊長の号令に従い全員が動き出す。


「突撃破砕線はあの岩の間に設定、LMGはこっちにこい!」


道が谷を通っていて、その道を上から撃ち下ろす配置になっている。


敵の戦列を組んで移動するなら道から外れて移動するとは考えづらい。

となるとこの道は通ると思うのだが、どう考えてもIEDやアンブッシュを仕掛けるのに最適なこの地点を通るのか?

不安がよぎる。


伏せた姿勢で銃を構えていると、地面が振動するのを感じる事が出来る。


今までに感じた事が無いような振動が伝わってくる。装甲車の重い物が動く振動ではなく大人数が同じ歩調で歩く振動だ。


『こちらB小隊、現在交戦しつつ敵をポイントZズールーまで誘引中、敵は現在ポイントKキーロフを通過。オーバー』


「来るぞ!まずはB小隊がここを通る、誤射に注意」


歩兵部隊を引きつける為にノロノロと人の歩く速度に合わせて動くMRAPが見えた。

車体が傷だらけだ。

かなり撃たれた事が分かる。


「B小隊へA小隊より、そちらのMRAPとハンビーを確認した。全速力でそこを離脱することを勧める」


『了解全速で離脱する』


MRAPが速度を上げ敵を振り切りそのまま谷を駆け抜ける。


『A小隊、射撃用意』


ACOGサイトを覗き狙いをつけセレクターをセミオートに合わせる。


谷底を通過する敵を上から見下ろすポジションだ。


4倍の倍率で拡大されたスコープでは敵の表情まで見える。


『Aim』


大きく息を吸いゆっくりと吐き出す。


『Open fire!』


谷の上に配置された隊員が一斉に撃ち下ろす。


セミオートで撃ち出される5.56mm弾の発射音と、LMGからフルオートでばら撒かれる5.56mm弾の発射音、そして車載の.50calの重い射撃音が鳴り響く。


谷が音を反響し実際の弾数よりも多く、派手に聞こえる。


谷のなかでは密集体系で身を隠していない兵たちが体中を貫かれバタバタと倒れていく。


指揮官もA小隊の放った弾丸に撃ち抜かれ統率が取れなくなった戦列は統制を喪い各々が反撃を試みるが連射の効かないその武器では効果的な反撃は無理な話だった。


組織的な反撃が止まったあとは一歩的な虐殺と化し死体の陰に隠れる生き残りを.50calで死体ごと撃ち抜くだけであった。


撃ち方始めの号令から決着までものの5分もかからなかった。


誰一人立っている者が居なくなった事を確認し号令が発せられる。


『Cease fire! Cease fire!』


号令に合わせて発砲音が鳴り止む。


「クリアリングを行う、全員起き上がって前進するぞ」


匍匐の状態から立ち上がり銃を構えた状態で横一列に並びジリジリと死体の山に近づく。


はっきりと見えてきた死体の中には、頭を抜かれた綺麗な死体もあるが、HMGで胴体を撃ち抜かれ上半身と下半身が離れているむのもが多い。


「こんなんじゃ生きている奴なんかいないんじゃぁ...」


隊の中で1番新入りのやつが呟いたのが聞こえた


「気を抜くな、この瞬間が1番危険だ。人差し指一本動かせるだけで、瀕死のやつでもお前を殺せるんだぞ!」


サイトを覗きながら、気を抜いた阿呆に喝を入れる


!?


視界の端で何か動いた気がする


「F◯ck!」


セレクターを素早くfullに変え引き金き、何かが動いた辺りにばら撒く。


どうやら最後の力を振り絞りこちらに一発撃ち込もうとしたようだ。


「おい、どうした?」


「武器を動かそうとするやつがいた!」



その後は複数息のあるやつがいたが、意識も混濁してるようだったので放置することになった。



「第1陣は片付けたな、これでF-16に沖の船を叩いて貰えそうだ」



**************************


沖の情報収集船では、現状を把握出来ていなかった。


部隊を直接モニターする設備が無い以上部隊との無線交信によって状況を把握するからだ。


「通信兵、途絶した部隊との通信は回復したか?」


オーグレン中尉は苛立っているのを隠し冷静を装いながら尋ねる。


内心は穏やかで無く、交戦した部隊からの情報が無いことに焦りと怒りを感じていた。


自由主義の国は個人主義であり、兵士たちも身の危険を感じればとっとと逃亡するというのが国内では通説であるがこれを私もある程度は信じていた。


わが軍の勇猛さの根底にあるものは皇帝への忠誠であるのだ、当然個人主義の兵隊に負けるわけがない。


敵国との技術力の差についても当然中央世界の覇であり盟主であるわが国が圧倒的に有利であることは客観的に評価しても明白なはずだった。 


もし、そうでなければ我が国の諜報部がマークしないわけがない。


しかし目の前に流れてくる情報はなんだ?


一個中隊相手に既に400名の大部隊が壊滅ないし全滅の通信途絶という結果だ。

空から偵察を出そうにも一瞬で撃ち落とされる始末だ。


しかしまだ希望がある、民間輸送船に詰め込んだ総兵力1400のゲイル公国陸軍部隊を投入すれば形勢が逆転するかもしれない。


かくなるうえは、この情報収集船に乗船しているメルト皇国軍人が直接指揮を執るという手もある。皇国軍人が指揮を執るということはメルト皇国がゲイル公国の旧バステリア領への侵攻の直接関与の証拠を残しかねない。


しかし、世界に正面からメルト皇国を批判できる国などありはしない。

皇帝の顔に泥を塗った国、民族例外なくは軍事圧力、経済制裁の前に屈している。


「観測員! ゲイル公国の増援部隊の揚陸はどの程度進んでいるか?」


「現在すでにビーチに上陸は完了していますが、指揮系統の構築並びに部隊編成の途中であります」


「どのくらいで戦闘を開始できるか?」


「10分といったところでしょうか?」


「なるほど、至急艦内で待機しているエリオット陸軍少尉をここに呼んでくれ。ゲイル陸軍部隊の指揮をとらせる。


ゲイル公国陸軍にも伝えろ!わが軍の士官が指揮をとる、有償軍事援助協定 5条に従い指揮権の一時委譲を要求すると」


「ん!?なんだこれは!!?」


電探員が何かに反応してる。


「どうした!?」


「レーダーに感あり。 航空機らしきものが3、こちらに向かってきていますが早すぎます。亜音速と思われます」


「三機だと!?そんな寡兵でなにができる?」


「まもなく目視範囲に入ります!」












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