第22話 戦後処理 ①

皇城に星条旗と日章旗が翻ったのち、国連軍は拘束した軍務大臣に強襲揚陸艦上から無線を経由し通信球を通じて全軍の行動を停止、武装解除を指示させた。

これを機に、国連軍もバステリア国内での一切の戦闘行動を停止した。

バステリア帝国の事実上の降伏である。ここからは、降伏の条件の確認、調印となるが無条件降伏になる事は間違いない。



1ヶ月後に降伏文書の調印式が行われるのだ。その準備の為に停戦から2日後、参加国の外務省職員達がバルカザロスに乗り込んできた。日本の外務省職員の中には、バステリア帝国に使節団の一員として派遣された菅野の姿があった。彼は、一連の事件で新設された新世界課の課長にまで昇進し、今回は数十人の部下を連れてバルカザロスを再び訪れるのだった。

「2度と来たくなかったが、また来る羽目になるとはな」

菅野が乗った航空自衛隊所属のC-130がバルカザロス外縁に作られた未舗装のの滑走路に降り立ち、今機体から降りてバルカザロスの地を踏んだところだった。

仮設の空港からは、高さ20mほどの巨大な城壁に囲まれたバルカザロスの街と皇城が見えた。


外から見るとかなりでかいな...、街を眺めながら、物思いに更けていると、陸自の高機動車が迎えに来た。

中から、迷彩服三型に身を包んだ指揮官らしき自衛官が出て来た。

敬礼とともに

「遠路はるばるご苦労様です。外務省の皆さんを宿舎までご案内します」

「外務省の菅野です。お世話になります」

「それでは、早速車に分乗して下さい」

促かされるまま車に乗り込んだ。本当ならば、立場的に運転席の後ろの席に座るべきなのだが、敢えて助手席に座った。

座って間も無くすると菅野達が外務省職員を乗せた高機動車の車列は、城壁内に向かって進みだした。

「菅野さん達が止まる宿舎は中々豪華ですよ」

運転席でハンドルを握る自衛官が話しかけて来た。

「まさか、お城だったりします?」

と冗談半分に言ってみたのだが

「惜しいですね。貴族の屋敷です。空き家になっていた屋敷を接収して日本の公館として使っているんですよ」

少しづつ城門が近づいて来た。門には日米の国旗と国連旗が掲げられていた。

「それは中々贅沢ですね。他の国はどうしてるんですか?」

「そうですねー、仏独英露中は同じような感じですけど、米軍は港に空母と強襲揚陸艦を留めてそこを宿舎代わりに使ってますよ」

「さすが、アメリカ。警戒が強いですね」

そして、城門に着いたのだがそこは検問所になっていて、米兵と自衛隊員がアサルトライフル片手に検問をしていた。

菅野達は直ぐに通れたが、バステリア市民と思われる人達は長蛇の列をなし、自分達の検問の番を待っていた。

「あれだけ並んでたら彼らは入城までにかなり時間がかかりそうですね」

「皇帝もまだ捕まってませんし、不穏分子を街中に呼び寄せるわけにもいきませんからね。しょうがないですよ」

城門を潜り抜け、バルカザロス市内に入城すると、そこはまるで中世のヨーロッパのような街並みであった。建物はレンガ造り、道路は石畳が敷き詰められ、馬車が行き交い、道を行き交う人々の格好も正にそれであった。

菅野達はそんな所にいる自分たちが場違いに思えた。

「凄い....,こんな風景を見れるなんて!」

「菅野さんいい反応しますね。初めて、ここに来た人はみんな同じような反応をしますよ」

菅野達を載せた車の車列は、石畳で出来た、大通りをゆっくりと走り抜けた。窓の外に目をやって見るとやはり、バルカザロス市民の顔に活力は見えなかった。街は綺麗だが、住人の面持ちは暗く、街に活気は無かった。

「当然と言えば当然ですが活気が無いですね」

「いやいや、これくらいで丁度いいですよ。ここの住民を落ち着かせるの大変だったんですから」

「入城した時はどんな感じだったんですか?」

「入城した時ですか?そりゃもう、ぞっとする程敵意剥き出しでしたよ。元々、バステリア軍がどこかに攻め込んで入城した時は略奪やら何やら無茶苦茶してたらしいですから、同じ目に合うと思ったんでしょうね」

「なるほど、それはそれは。よっぽどの事をやって来たんでしょうね」

「おっと、菅野さん着きましたよ」

バルカザロス市の市街地を抜け、バルカザロス中心部の閑静な高級住宅街のど真ん中、そこにあったのは広いロータリーを持った。ロココ調の白亜の三階建ての宮殿であった。

そして、そこを守っているのはその場には場違いな現代の装備に身を包んだ陸自隊員であった。

門の前に車両進入防止用のゲートを設置し、簡易的な検問所が設置されていた。

菅野達を載せた車列が近づくと検問所のバーが上がり、菅野達はそのまま公館敷地内に進入して、玄関の前に付けた。

「ここまで、お世話になりました」

「それではお気を付けて、後は頼みましたよ」

「もちろんです!」

車から降りると、玄関から菅野達を送って来たのとは別の自衛官が近づいて来た。

「お待ちしておりました。ここの警備を預かっている佐倉二尉です。早速お部屋にご案内致しますが、荷物などは有りますか?」

「それでは、あそこにある物をお願いします」

それは、車から降ろされた通信機材や、パソコンプリンタその他の商売道具だ。量としては、60サイズの段ボール20箱だ。

「了解しました。1分隊!その荷物を外務省の部屋に運べ!」

「はっ!」

二尉の後ろで待機していた隊員達が一斉に動き出し機敏な動きで段ボールを抱えて行った。

「それでは、皆さんをご案内します」

長い廊下を3分程歩き案内されたのは、100人程度が収容できそうな大きなホールだった。天井からはシャンデリアが吊るされており端々に見られる装飾もかなり豪華なものであった。

「よし、仕事の準備に掛かろう。電気は通っているな?」

「自衛隊が繋いでくれているようです」

施設科が外に発電機を設置しているて、そこからケーブルが延ばされているのだ。

「それじゃあ、用意されたそれぞれの仕事机にパソコンを置いて、部屋の端の大きい机にその他の機材を設置してくれ」

この部屋には既に事務机が並べられていて、一見すると唯のオフィスの様に見えるが、ふと目を他にやると貴族の屋敷だった事を思い出される作りになっているというなんともミスマッチな光景だ。


1時間程で菅野達は準備を整えて、仕事に取りかかった。

まずは、アメリカの国務省の職員と共にバステリア帝国の対して請求する賠償額の決定だ。最低限支払ってもらわなければならない額は既に上から通達されている。これからどれだけ巻き揚げられるかが外務省職員達の腕の見せ所だ。そして、もし支払い能力が無かった場合の代替案。これが最初の仕事だ。

「それじゃあ、アメリカ国務省職員とのテレビ電話会議は1時間に開始するからそれまでは各自の仕事をしていてくれ」

それぞれ、テレビ電話会議に向けて準備するのだった。


かくして1時間後テレビ電話会議が始まった。

自己紹介も程々にお互いに本題に入った。

「アメリカは参戦国全体に対する賠償額はどれぐらいが妥当と考えますか?」

「我々の案は1兆4000億ドル位が妥当と考えています」

「ベトナム戦争の戦費の倍、金に換算すると330万トン.....ですか。ハナから賠償金で支払って貰うつもりなんんて無いって事ですか」

「そんな事ありませんよ。Mrカンノ。即支払って貰えれば即撤退しますよ。 まぁ、そもそも我がアメリカ合衆国に無謀な戦争を吹っかけて来た彼らが悪い。まさか日本は戦費さえ回収出来たら良いとか言うのですか?」

「そのまさかですよ。上から通達された最低限のラインは2000億ドルなんですから。まぁ、しかしこの様子では、賠償額の話し合いをしてもしょうがないみたいですね。それでは代替案について話し合うとしますか」

「ご理解感謝するよ。それでは我々の本当の賠償請求の案を聞いて貰いましょう。まず、彼らには侵略戦争によって獲得した全ての領地を放棄させる。少しバステリア帝国の歴史を調べたのですが元々、バステリア帝国は、バルカザロス王国 実際は直接民主主義の共和制だったようです。名前から想像つくと思うが、彼らの元々の領地は今我々がいるここバルカザロスだけでした。つまり都市国家だったと言う事です。そして今に至るまで少しづつこの大陸を自領に収めていき、三代前の皇帝で遂に大陸を制覇したようです。三代前の皇帝が大陸を制覇した後は、近隣の島国に手を伸ばし、今現在132の島がバステリア帝国の支配下に有ります。で、何が言いたいかと言うとバステリア帝国には、賠償金を4000億ドルに引き下げる代わりにバルカザロス以外の全てを放棄させるて、今回の参戦国で放棄させた領土を分け合うと言う事です」


「なるほど...、賠償金だけでも充分釣りが出そうですが。では、8億 いや7億人のバステリア市民と12億の被支配層の生活はどうするのですか?結局我々が面倒を見ることになりそうですがその辺はどうされるお積りで?」


「その件なんですが、被支配層12億の内の殆どが元狩猟民族ないし大陸外のバステリア領から連れられて来た民族だったんですね。大陸外の領地についてはバステリアが統治に使っていた建物をそのまま利用すればどうにか、国家の再建は可能らしいですし、島毎の食料の備蓄もかなりの量が有るようですので、我々がしなければならない支援はそう多くないでしょう。そして、問題は大陸内に残るバステリア市民7億人と元々大陸内でバステリア以外の農耕文明を形成していた4億人です」

「その4億人については聞きましたよ。彼らこの100年の間に元々の半分程度まで数が減らされていたそうですね。それでは元あった国家を再建するのは厳しそうですね。いずれは独立して貰わなければならないですけど。話は変わりますが食料の方は確かバステリアの主食は小麦で殆どが冬小麦でしたよね。そうなると後2ヶ月で耕作の時期になりますね。向こう2年分の食料は港湾で輸出用に保管されていたのを差押えたのと国内貯蔵分で充分としてそこから先はどうしましょうか。奴隷解放に伴って労働力は急激に減少するでしょうし」

「小麦の生産に関してアメリカは既に穀物メジャーの5企業にバステリア活動を許可し耕作機械を持ってこれるだけ船に積んで輸送しているところです。それでも、アメリカの管理に置かれる予定のエリアの元々に生産量の20パーセント程しか期待できませんがね。まぁ、来年になれば元々の生産量の90パーセントを生産出来るでしょう。フランス、イギリスも大規模な耕作には慣れていますし。大丈夫なんじゃ無いですか?中国とロシアはお得意の人海戦術に出るんでしょうしその辺は問題無いでしょう」

「日本では企業的穀物栽培というのは殆ど行われていませんからね。向こう一年はは元々農奴だった人を適正な労働賃金で雇うしか無いでしょうね。 とにかく、賠償金4000億ドル相当の金又は貴金属とバルカザロスを除く領土、これを要求するという事で問題無いでしょう。では、統治形態の話をしましょうか」

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