第19話 作戦開始

2020年7月10日 3:00

「こちらバルカザロス特別便1号、新世界グラウンドへ。滑走路への進入の許可をリクエストする」

「こちら新世界グラウンド 滑走路21Rへの進入を許可する、進入後滑走路で停止せよ」

「ラジャー、バルカザロス特別便1号滑走路への進入を開始する」

B52-Hの巨体がゆっくりと誘導路から滑走路へと進入する。そしてその後ろにもB-52、B-1Bが列を成している。

「こちらバルカザロス特別便1号、滑走路上で停止した。離陸許可をリクエストする」

「こちら新世界グラウンド、離陸を許可する」

「ラジャー、これより離陸を開始する」

スロットルをあげるのに比例し、エンジンの唸る音が大きくなる。

「V 1....V2...」

窓の外の景色が速く流れていく。

「Vr!」

機首引き起こし速度に到達し、操縦桿を引いて機体を空に向ける。

B-52Hの巨体が陸から離れ浮き上がる。

「ギアアップ」

ランディングギアを格納する音がコックピットの下から聞こえてくる。

「こちら新世界グラウンド、無線周波数を新世界管制の変更せよ」

「ラジャー、こちらバルカザロス特別便 1号、周波数を新世界管制に変更します。

こちらバルカザロス特別便1号、新世界管制へ」

「こちら新世界管制、バルカザロス特別便1号へ 高度6000フィートまで上昇、方位268に機首を向けよ」

「バルカザロス特別便 了解」

「その後ポイント シエラルにて高度12000フィートまで上昇しバルカザロス特別便 2、3、4、5、6、7、8号、護衛機のファルコン バルカザロス定期便1、2、3、4、5、6、7、8号と合流せよ」

「こちらバルカザロス定期便1号、了解しました」

「こちら新世界管制、当該空域には現在、貴隊を除き航空機は皆無である。以後、当管制塔の管制を離れ任意のルートで飛行せよ。貴隊の作戦成功を祈る。Good luck.」

「こちらバルカザロス定期便、了解した。誘導感謝する。オーバー」

バルカザロス定期便1号以下 護衛機のF-16を含めた16機はバステリア帝国中部にて国連軍を迎え撃つべく派兵された8000万のうちの一集団、2000万に向かって飛行して行った。

1時間くらい飛んだであろうか。あと30分ほどで投下予定地点だ。

未だ、太陽は昇っておらず空は漆黒の闇に包まれている。

「機長、そろそろ沖の駆逐艦が敵航空戦力に向け、巡行ミサイルを発射する時刻です」

「そうか、そろそろ高度を落とすぞ。高度12000フィートから6000フィートまで下降」

「了解」

「こちらバルカザロス定期便1号より攻撃チーム各機へ、衛星写真で敵は長方形に密集して野営地を気づいていることが判明。特別便2、3、4、5、6、7、8号は我に続き一列に編隊を組め。護衛機のファルコンは先行して巡行ミサイルの爆撃判定と梅雨払いを頼む。」

「ラジャー、定期便1号、2号は先行して|BDA(爆撃効果判定)と生き残りのドラゴンの始末を行う」



投下予定地点まであと10分になった。

「機長!レーダーに感 多数 タクティカルトマホークが本機直下を通過します」レーダーナビゲーターが淡々と報告する。

洋上の駆逐艦群が地上で翼を休めている竜騎兵団たちに向かって放った物だ。

「こちら、バルカザロス定期便1号、巡行ミサイルの通過を確認、着弾まで30秒」

計器に塗られた蛍光塗料のみが光を放つコックピットの中は緊張が張り詰めた。

レーダーナビゲーターが巡行ミサイルの着弾のカウントを始める。

「トマホーク着弾まで、5 、4 、3 、2 、1 今っ!」

それまで暗闇だった地平線の先に幾つもの閃光が現れた。

「こちらバルカザロス定期便1号、現在目標地点上空を飛行中。巡行ミサイル全弾の着弾を確認。BDA良好、BDA良好。敵航空戦力全滅判定。敵航空戦力に動き無し」

トマホークによる敵航空戦力の殲滅は成功した。次は戦略爆撃機による通常戦力の殲滅だ。

「こちらバルカザロス特別便1号、敵航空戦力の殲滅は成功し、制空権を確保した。予定通り、投下を開始する。各機準備に入れ」

「投下ヨーイ、爆弾倉開け」

胴体中央にある爆弾倉が低い機械音を響かせながらゆっくりと開いていく。

「爆撃管制システムスタート!」

「進入コースよーし」

着々と機内では投下の準備が行われている。

「投下1分前」

「地上の目標を捉えました」

肉眼では外は殆ど見る事は出来ないが、機械の目がしっかりと捉えていた。

「管制システムオールグリーン」

「投下カウント、秒刻みに入ります」

「30、29.......5、4、3、2、1 投下開始」

ガコンッ

まずはパイロンに搭載された18のMk82通常爆弾が投下される。

それらは、不気味な風切り音を立てながら、地上でトマホークの来襲に混乱する軍団に向かって振り注ぐ。そして、1発が着弾する度に半径400の範囲に熱と爆風の絶対的な暴力を撒き散らす。

「続いて、胴内ドラムマガジン投下開始」

胴体内に納められた27が縦一列に小刻みに投下される

再び、風切り音を立てながら殺到する。

そして、後続のB52-Hも同様に通常爆弾をばら撒く。

当たり一面の地形を変える程の圧倒的威力の絨毛爆撃である。もちろん野営を張っていたバルカザロスの2000万は上陸戦同様密集していたため効率よく刈られていく。地上では阿鼻叫喚の光景が再び作り出された。一方、上空のB-52Hのコックピットに彼らの恐怖に慄く表情も絶叫する声も届かない。ただ、白と黒のモノトーンで彼らが吹き飛ばされるのが映し出されるだけだ。

遮るものが全くない平野、死んだ者は自分が死んだ事も自覚せずに逝き、生き残った者の多くが手足を吹き飛ばされたりしていた。

ものの数分で、2000万もの威容を誇っていた軍団は消し飛ばされ。地上から姿を消した。


「全弾投下完了。BDA良好。敵地上主力部隊 壊滅判定」

「HQ、HQ こちらバルカザロス特別便1号ミッションコンプリート。敵地上主力部隊の壊滅を確認。こちら被害無し」

「こちら新世界基地 統合作戦司令部 ミッションコンプリートを確認 ご苦労 。基地へ帰投せよ」

「ラジャー、バルカザロス特別便 RTB!基地へ帰投する

B-52とF-16の編隊は機体を傾け何事も無かったかのように、元の巣へと戻っていった。


国連軍が新世界基地 統合作戦司令部の一室では、今までの作戦の進行を全てリアルタイムでモニターしていた。この部屋にはその為の大型スクリーンと数十人のオペレーターが控えていた。モニターを見易くするために部屋の中は薄暗くなっている。

この一室には、各国の軍の指揮官が一堂に会し戦況を見守ってた。

ムー共和国から派遣された観戦武官もその場にいた。彼の名はフリューゲル・マイダッハ。階級は、海軍中佐だ。年齢は42歳、去年まで巡洋艦で副長を任ぜられていたが、艦長になる為の訓練の一環として海軍参謀部に配属されていた。そして今回、戦況の把握に長けていた彼に白羽の矢が立ったのだ。

そんな彼の眼前に広がる光景はおおよそ、彼にとっては非現実的な物だった。

世話役として就いている女性士官が色々説明してくれるが、全く理解出来ない。正しくは彼女の言葉と自身の知識の擦り合わせが追い付かないのだ。

「現在、我が軍はバステリア帝国軍の地上主力部隊に対して、戦略爆撃機60機を用いて夜間絨毛爆撃を敢行しております」

「8000万の敵に対して爆撃機60機と言うのは少々不足では有りませんか?」

「いえ、この60機の中には、正規の攻撃隊が敵を打ち損じた時の予備機も多数含まれているので実質32機での攻撃になります。今回、使用するMk82通常爆弾は1発で半径400メートルの範囲に被害を与えます。事前の偵察で敵は20平方メートル当たり100人程度の密度で密集しているので正確に落とせば十二分な投下量です」

そもそも200Kgクラスを45発も搭載できる事が驚きだ。ムー共和国の戦略爆撃機では実用的な搭載量は4.5tと言うのにその倍か。

「ですが夜間での爆撃では正確な攻撃は難しいのでは?」

「我が軍の爆撃機には全て夜間でも使用可能な照準装置が付いているので、昼間と同じ精度での攻撃が可能です」

なんと、昼夜での精度の差がないだとっ!?夜間では圧倒的に有利になるでは無いか!

「なるほど...それはにわかに信じ難いですな」

「それでは、そろそろB-52の爆撃が始まります。中央正面のモニターをご覧ください」

正面の巨大なモニターが4つに区切られ白と黒の画面に写し変えれた。

「これは?」

世話役の士官に尋ねると驚きの答えが帰ってきた。

「こちらは、現在、出撃中のB-52の照準装置が捉えている映像になります。夜間ですので、暗視装置を介している為映像に色はつきません」

なんと彼らは、夜間の高高度から地上を鮮明に映し出す暗視装置と、それをリアルタイムでモニターする技術を持っているのだ。


画面の端に各機の情報が映し出されている。

17号: <爆撃管制システム起動>

「爆撃開始1号は、目標チャーリーに向かった。バルカザロス特別便 17号の編隊のようですね」

17号:<胴体弾倉開放>


17号:<目標ロック>


画面にムー共和国の宿敵である。あの忌々しい大軍団が映し出された。


17号:<翼下パイロン 投下開始>

17号<残弾44>......

1発目の爆弾が地上に辿り着くと一瞬巨大な火の玉を作り出しその後にいくつもの爆弾が続くのが見える。

17号<残弾27>

17号<胴体内回転弾倉 投下開始>

遠く離れているにも関わらず、こうして戦場を見ているのは不思議な気分だ。こうしている間にも、我々が倒す事が出来なかったバステリア帝国の大軍団が地上から消滅していく。 宿敵がやられているという喜びよりも、何かとんでもないものを見てしまったとい恐怖で背筋が冷え上がるのを感じた。

17号:<残弾0 全弾投下済>

画面には殆ど動くものが無い、月の様にクレーターだらけになったバステリア帝国軍の宿営地だった場所が映し出された。

『こちら、バルカザロス特別便17号 ミッションコンプリート。帰投の許可を』

『こちら新世界基地、任務完了を確認。帰投せよ』

『Rager!RTB』


その後、15分も経たないうちにバステリア帝国軍主力8000万の大軍団が軍隊としての機能を喪失した。

室内にオペレーターの無感情な声が放送された。

「作戦第1フェーズ、全行程完了。全爆撃による成果、作戦続行基準をクリア。作戦第二フェーズ、通常プランαへ移行。バルカザロス沖に展開した日米連合艦隊、現時刻をもって上陸を開始します。バルカザロス上空の空挺団、10分後にバルカザロス外縁に降下開始します。作戦第二フェーズB、米英仏独軍、空爆地点、各地域中域都市への侵攻を開始します」


淡々と流れるアナウンス、しかしその感情の変化の無い声で読まれる内容によってフリューゲル中佐は大国の終焉という歴史の転換点に立っている事に気付き、彼の拳を握るその手には自然と力が入った。





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