第9話 潜入

バルカザロス沖海戦から五週間たった日ついに、史上最大の前線基地が完成した。基地名は「UN Base New World <国際連合新世界基地>」である。既に航空兵力は総数700機を超えている。


正午、新世界基地にA310 MRTT輸送機3機が滑走路に降り立った。この機体はアメリカ軍には配備されていない。主にフランス、ドイツ空軍に多く配備されているものだ。中から出て来たのはドイツ連邦 陸軍 第一空挺団のチームだ。


本話での主人公である。ヨーゼフ・アッカーマン 曹長も、第一空挺団所属第27降下猟兵大隊の一員であった。ヨーゼフ・アッカーマン(27) 身長は190cm 体格はやはり空挺団員といったところだろうかガッチリとした筋肉質だ。


「ヨーゼフ!こことんでもないな」

後ろから声をかけてきたのは、ロルフ・フリーゲ軍曹だ。彼とは高校時代からの友である。

「まるで町だな寧ろ都市か、俺たちが生まれた町とは比べ物にならないな」

滑走路では輸送機がひっきりなしに行ったり来たりして、まるでどこかのハブ空港のようだ。飛行場の奥には団地のように兵舎が並んでいた。

(アメリカと日本の工兵部隊の力ってのはとんでもな...)

「おいっ、そこぼさっとするな!行くぞ!第二小隊移動」

小隊長に怒鳴られ我に戻ったが周りに圧倒されてしまって我を失っていた...


隊長に連れられ着いたには屋上に球状の白いカバーをつけたレーダーや衛星通信用アンテナをつけた一際大きな灰色の建物だった。


「30分以内に各自指定の隊舎に荷物を置いて再びここに集合しろ。我々の隊舎はここから東に500mのドイツ連邦軍エリアのA2棟だ迷うなよ」

「はっ!」

「では、解散!」

(返事はしたものの、なんなんだこの地図は。滅茶苦茶広いじゃないか。本気で迷うぞ。)

「早く行けっ!」

背後から怒鳴られ走る事を強要された。

(鬼小隊長めっ)

重い荷物が肩にめり込む、この広い基地の中で一つの建物を見つけ戻るのに30分は少しきつい。

アスファルトの上を走ると"A2"と大きく赤字で描かれた3階建ての白く横に長い建物が目に入った。

「あそこだっ!ロルフ、新築ピカピカだな」

ドアを開けると質素ではあるが決して殺伐としたわけではない、明るい内装であった。

部屋の中も流石に個室では無いがそこそこ広く場所が取られた6人の相部屋であった。

(ドイツの基地の隊舎より綺麗だこれから数ヶ月を過ごすには十分だな)

「ヨーゼフ!早く戻らないと30分過ぎるぜ、小隊長にどやされちまう」


息を切らしてさっきの場所に戻ると、小隊長に連れられ大きな建物の中に入った。

「お前たち、ここはドイツ連邦軍の本部だ。各国の本部はそれぞれのエリアに一つずつある。総司令部はアメリカ軍の本部の中にある覚えておけ。これから、この基地でのお前たちの最初の仕事の説明がある心して聞け。」


部屋の中は暗く照明を落とされていた。スクリーンの中に地図が映し出され、説明が始まった。

「新世界もとい、地獄の二丁目へようこそ諸君!!私はこの基地の司令のビュッセルだよろしく。では君たちの仕事を説明しよう。第27降下猟兵大隊第1中隊は明後日輸送機によってバステリア帝国深部に夜間、闇に乗じて小隊単位で空挺降下を実施してもらう。その時は一緒に車両と装備も担当する。1ヶ月は活動可能な装備を投下するが足りない場合は追加で落とす。アマゾンみたいに即日配達とはいかないがな。ははは」どうやら司令は冗談がお好きなようだ。

「そして、任務の目標は現地の住民、特にバステリア市民では無く非抑圧層、被差別層との接触出来れば友好的な関係を築いて来てほしい。間違ってもバステリア市民には気づかれるな。そしてバステリア帝国の経済、地理その他できる限りの情報を収集して来てほしい。」そしてスクリーンの地理が衛星写真に変わり

「そしてドイツ連邦軍の割り振られた地域がここだ」

衛星写真が一部が赤くマークされた

「マークされた地点をよく見てくれ。森の色を見てくれ。我らが故郷に生えている木と同じ色をしている。まるで、我が祖先が切り尽くしたシュバルツバルトのようだ。これがこのエリアがドイツ連邦軍に割り振られた理由だ。これで大体の説明は終わった。何か質問がある者はいるか?無いなら解散!」

大体予想はしていたが、やはり先行して偵察か...どんな人間が暮らしてるんだろうか?

バステリア帝国攻略戦に参加すると聞いてワクワクしていたのだが、まさか任務に現地住民との接触まで含まれているなんて思いもしなかった。楽しみだ。



2020年6月21日 午前3時

俺たち第2小隊は米軍のC-130に乗っている。すぐ近くを車両と装備を満載したC-17グローブマスターも飛んでいる。機内は静かで、窓の外は漆黒の世界だ。基地を出発して2時間、そろそろ降下地点のはずだ。

「降下五分前!」

降下用意をしなければならない。簡易座席を折りたたみ、自分のパラシュートから出ているワイヤーを天井に取り付けられたレールに引っ掛けナイトビジョンを下ろす。そしてジャンプマスターのチェックを受ければいつでも飛べる。

「降下3分前!」

機体後部のカーゴベイが開き冷たい風が機内を満たした。後ろから覗く世界に光はない。暗闇だ。


「方位よーし、方位よーし!降下!降下!降下!」

機内に取り付けられた、降下を示すランプが赤から緑に変わる。

「Abstieg!<降下>Abstieg!<降下>Abstieg!<降下>」降下開始の号令がかかり列をなして暗闇に飛び込む。自分の番が来た。

「Abstieg!<降下!>」空中に飛び出し、姿勢を整える。なんども空挺降下はやったがこの瞬間は緊張する。背中のパラシュートが開き、体全体が上に引き上げられる感覚を感じた。ナイトビジョンに映る緑色の世界には他の仲間たちのパラシュートと広い草原が広がる。そのすぐ先には黒々とした森が広がっている。だんだんと大地が近づいてくる。背中を折り畳み足から着地した。すぐにパラシュートをたたみ、愛銃のG36Cを構えて周囲の安全を確認した。見た限りは自分達以外の動く者は見当たらないが、警戒は怠らない。

「第1分隊集合!」分隊間無線で指示が入った。身を低くしながら集まるといつもの見慣れたメンバーが揃っていた。

「あと、3分で米軍のC-17が車両と装備を落っことしてくる。俺たちの荷物は、一つ目にコンテナと最初の3台の車両だ。投下が始まったらすぐに荷物を追いかけて行け。ヨーゼフ、お前は1台目のAGFの運転をやれ。いいな?」小声で分隊長が一人一人に荷物の割り振りを伝える。

空からジェットエンジンの音が聞こえた。そして空を見上げると。車とコンテナの投下が始まった。ナイトビジョンの緑色の視界の中にはしっかりとその姿が写っていた。ヨーゼフのいる場所から100メートルほど離れたところに1台目のAGFが着地した。パレットの上に乗ったままのAGFに乗り込みエンジンをかけた。それまで静かだったそれは、息を吹き返したかのように腹に響くようなエンジン音を轟かせた。このドイツ連邦軍陸軍の"AGF"とは、AufklärungsundGefechtsfahrzeug:偵察戦闘車両と分類される車体上部にM2ブローニング重機関銃を搭載したメルセデスベンツGクラス車をベースにラインメタル社がゴテゴテに改造したものである。同分隊には他にフェネック偵察車が2両配備されている。他の隊員たちも荷物を回収して続々と車に乗り込んで来た。

「第1分隊全員乗車完了しました。」

「それでは第1ポイントまで移動する。太陽が昇る前までには移動を完了しないければならない。急ぐぞ!全車前進!」

ヨーゼフは、ゆっくりとアクセルを踏み込み車を前進させる。夜のうちに車で移動して、昼間は車を隠し基地がわりに使い周辺を探索する。これを毎日繰り返すのだ。ナイトビジョンを使ったとしても夜の森の中の道は走りづらい。自然と一行の足は遅くなるものだ。車内では周りの暗さと潜入という作戦の性質上どうしても緊張と沈黙がその場を支配する。


潜入開始開始から3日目の夜、小隊が列をなして森の中のを走っていた時であった。ヨーゼフの運転するAGFは列の1番前を走っていたのだが、突然の矢の雨が降って来た。ボディの装甲と石のような硬い物が当たる音がいくつも鳴り響いた。

「我々の住処に立ち入ろうとするのは何者か!またバステリア人か?」

これにヨーゼフは驚いた。いや驚いたのはヨーゼフだけではない。これを聞いたドイツ連邦軍の兵士全体が驚いた。なぜなら今ここで話された言葉が、ドイツ語だったからだ。分隊長が窓を開け

「我々はバステリア人ではない、バステリア人の敵だ!君たちがバステリアの敵であるなら話し合いたい」

木の上から20人程の金髪の人間が降りて来た。車の灯りを点け人影をよく見ると緑色の服に身を包んだその姿は人のようで人ではなかった。耳が長く尖っている。

(!!!エルフだと!?婆ちゃんからよく神話を聞かされたけどそれか!)ヨーゼフは子供の頃よく祖母に聞かされたチュートン神話を思い出した。チュートンとはゲルマン民族であり、それを考えると彼らがドイツ語を話すのは至って自然なことだ。

「君たちは我々の敵ではないと?しかもバステリアの敵だとそれはどうゆうことだ?」エルフのリーダー格らしき人物が口を開いた。

「我々の祖国はバステリア帝国に従属を強いられたんだが、それを阻止せんと戦うためにやって来た」

それを聞いたリーダー格の男は表情を変えた。

「君たちもバステリアに隷属を求められたのか!そうだったのか。それなら君たちも仲間だな。しかしあの強大なバステリアと戦っているなんて驚きだ。村に案内しようついて来てくれ」

あまりにもあっさり受け入れてくれたものだなと思ったのだが。

「ヨーゼフ!エルフだぞエルフ!アニメに出てくるやつだぞ」(あっ、ロルフはアニメが好きだったな)

「エルフはチュートン神話に出てくるぞ。アニメよりドイツの神話が先!」ドイツの神話よりアニメを先に思い浮かべてしまう親友が少し心配になった。

「そんな事よりヨーゼフお前、彼女いないだろ。エルフの彼女とかどうだよ?」

「何バカな事言ってんだよアホか」と言ってみたものの悪くない。

エルフたちについて行き森を歩くこと5分、案内されたところはかなり大規模な集落だった。1000件ほどだろうか、家は木々の上に建てられていて上から見てもわからないようになっていた。それ故にアメリカ軍もこの辺りに集落があることは把握していなかった。

「ここが私たちの村、シュワルツバルトの村だ。」

(これが"村"?ほとんど町じゃないか)

「まず、あなたたちには長老に会ってもらう」

案内されたのは一際大きな木の上に建てられた木造の建物だった。小隊全員が入ることができる大きさであった。その中には3人の老人が座っていた。やはり彼らもエルフのようだ。

小隊長が前に進み出て敬礼をし

「我々、ドイツ連邦共和国 連邦軍 陸軍 第1空挺団

第27降下猟兵大隊所属 第1中隊 第2小隊 であります。村へのお招きに感謝します!」とりあえずの自己紹介と、感謝を述べた。

「私たちはこの村の長老をやっているものだ。遠いい所をよく来られた。 早速だが君たちについてもっと教えてくれ」

バステリア帝国でついに、被支配層との接触を実現した。








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