第7話 我叫ぶ 故にマンドラゴラ

「ここか……」

街から離れ、近くの山の裾野付近。そこに、隠れるように家が建っていた。


噂の出所を求めて情報収集をしていた私達。その情報は意外と簡単に手に入った。

犯人は1人の人物で、そいつは人の集まる場所で誰彼構わず捕まえては、例の「マンドラゴラは呪いと病を呼ぶ」といったことを喚いていくのだという。かなり杜撰なやり方だ。

そのせいか誰にも相手にされず、逆に私が何かおかしい人に目を付けられたんじゃないかと心配をする人の方が多かった。ありがたい事である。

その足取りを追い、私達は奴の住処と思われるこの場所に辿り着いたというわけだ。


「さて、どうするか。」

遠巻きに様子を伺ってみるが、特に何の変哲も無い一軒家だ。小さな畑が作られていて、奥には家畜小屋のようなものも見える。

ここからでは中の様子は分からない。どんな相手かも知れずに突っこんでいくのはリスクが大きいだろう。

「とりあえずもう少し近付いてみましょう。魔法の生命感知が届けば、人がどれくらい居るかくらいは分かると思います。」

「いや、それには及ばないな。」

!!

突如かけられた声に全員が身構える。そこには一人の男が立っていた。男、というか老人の方が近いか。

「人の家の周りで何かコソコソしていると思えば……お前がマナか。」

「マナさん、知ってる人ですか?」

ニールが相手から目を離さずに私に聞いてくる。

「私は知らない。でも、この人もマンドラゴラだ。しかもかなり長く生きてる。」

フードを深く被って肌も隠しているが、私の知覚能力は確かにこの人物は私と同じマンドラゴラであると告げている。

看破されて隠す意味も無いと思ったか、奴はフードを外して目を開く。その目は確かに瞳が無く、鮮やかな黄緑色をしていた。


「じゃあ、どうして街であんなことを言ったんですか?自分も含めた種族全体を貶めるなんておかしいですよ。」

アイの言う通り、聞き取り調査によれば吹聴されていた内容はどれも「私が」ではなく「マンドラゴラが」とされていた。当然そこにはこのマンドラ爺も含まれる。

「別に……忘れていたようだから思い出させてやっただけよ。かつてそうやって儂に石を投げてきた奴らの言い分をな!」

吐き捨てるようにマンドラ爺が言う。おそらく昔、人間に迫害を受けたことがあるのだろう。そして人間が亜人との関係を変えていく中で、ずっと恨みを抱えて生きてきたんだ。

「はぁーん、なるほど?自分はマンドラゴラなのが理由で街の奴らに嫌われたのに、今はマナがチヤホヤされてんのが気に食わなくて嫌がらせしてやがんのか。救いようがねえな!」

そうグライドが啖呵を切ると、マンドラ爺は激昂して「黙れっ!」と叫ぶと笛のようなものを吹く。すると、家の奥の小屋が壊れて中から牛のようなものが、畑からは蛇のようなもの現われ、こちらにやってきた。

牛のようで牛でない、牛もどきは通常の角の代わりに巨大な枝が頭に生えているし、皮膚の所々から葉が茂っている。蛇のようで蛇で無い蛇もどきは、全身の鱗に薔薇の棘が鎧のように生えている。どちらも明らかに自然の生物ではない。

「ずっと復讐の時を待ってたんだ……こいつらを大量生産する準備はできてる!お前がきっかけで人間の街は滅ぶぞ!大いに恨まれるがいい!」

そうして自らも襲い掛かってきた。

いろんな意味で、この戦いは避けられない!

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