第5話 用法用量を守って正しく呪いましょう

「いやー、亜人の差別とかもうお爺さんの世代でも下火だったんじゃないかな。」

街での買い物中、ニールが言う。

パーティ結成からしばらく、結構な依頼クエストをこなした私達は、街の中でも顔が知られるようになってきた。そんな中で、亜人たる私がどこでも好意的に扱われていたのが不思議だったのだ。

「マンドラ村の奴らの情報は古すぎるんだよ。あいつら森から出て来るの自体が年に1度あるかどうかなのに、全然他人と喋らずに帰ってくじゃねえか。」

グライドの言うことはもっともだが、そのあたりは寿命の長い種族の宿命でもあるだろう。こっちからすれば人間の社会が目まぐるしく変わりすぎなんだと元人間の私でも思う。

「とは言え亜人が少数派であることは確かですし、人間は自分達と違う存在を排除したがる性質がありますからね。なるべく仲良くしておくに越したことはないでしょう。」

こちらは多くの人を見てきたアイらしい言葉だ。

私の考えすぎならそれで良い。とはいえ諍いの種など何処にでもあるものだ。油断はしない方が良い。

ニールとグライドは装備のメンテナンスに、私とアイは魔法関連のお店に向かう。

「それでは黒真珠が4つと硫黄を2袋、それとマンドラゴラが3……ハッ!」

アイに品物を渡していた店員のお姉さんが「しまった!」みたいな感じでこっちを見る。

私達のパーティが名を売れているのは、存在が珍しい亜人2人を擁する点も大きく、その関連で私がマンドラゴラだということも知られてきた。

しのため、魔法の触媒として流通しているマンドラゴラに関しては気まずい雰囲気になることもしばしばあるのだ。

私は店員さんに手をひらひらさせて「あ、別に全然大丈夫なんで。」とか言っておく。

実際、森や畑で採れるマンドラゴラも私と同種族の幼態ではあるのだけど、人間にとっての子供とはまた違う。鶏の無精卵のようなものと思って貰えばいいかな。どれだけ育てても私と同じにはならないのだ。


アイが買い物をしている横で、私は店の主人に自分の調合した薬を色々と買い取ってもらっている。

「いやー、マナちゃんの薬はどれも評判がいいよ!定期的に納品してもらえたら助かるんだけどな。」

「そうできればいいんですけど、材料がなかなか安定して入手できないんですよー。」

私の作る薬は、冒険の傍らに採集した薬草が主な材料だ。マンドラゴラの感覚器官は人間とは異なっていて、周囲にどんな植物があるかなんとなく分かるし、見たり触ったりすれば植物に含まれる薬効成分が分かったりする。その代わりに動物についての解像度は低かったりするのだが。

それ故、見つけるのが難しい薬草を見つけたり、一般的には毒と考えられている植物から薬を作り出したりもできる。ただし当然ながら冒険の道中に生えてなければ入手はできないので、そこは運まかせになる。本腰を入れて畑でも作れば栽培できなくも無いが、片手間ではちょっと無理かな。

そうして、店を出ようかという時に店の主人に声をかけられた。


「ああ、そういえば……マナちゃんの悪い噂を流したがっている奴がいるらしいよ。気を付けてな。」

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