第20話小娘の権力
「イチ。この後カイリがお迎えに来てくれるって」
処置室から出てきたところで、ジュニアからの伝言を伝える。
「みんな安心してたよ」
「別に迎えなんて要らないのに」
プイとそっぽを向くけど、ちょっと嬉しそうじゃない?
「昨日カイリが、イチを危険な目に合わせちゃったっっ。てスゴいヘコんでたから、ちゃんとフォローしてハグしてあげてね」
「イヤだよ」
と、あたし達の言葉にドクターが振り返る。
「ちょっと待て。
「さば折りって。ハグだから」
「
別にドクターに求めてないから。
「そっかぁ」
思い当たって、スマホを出すとLINEを開く。
「イチにハグして傷口が開くと困るので、命の恩人のドクターに力一杯ハグしてあげてね。
送信」
「俺を殺す気か?」
ドクターがあからさまにイヤな顔をみせる。
「いひひっ。
あたしこの後リカコさんとデートなんだ。
カイリとドクターのハグ攻防戦も見たかったけど、そろそろ出ないと」
ハグ好きカイリ(みんなに拒否られる)とドクターが、ジリジリ睨み合う図を想像してついにまにましちゃう。
「イチ。葵ちゃんに伝言ある?」
暗に本庁に行くことを伝えたつもり。
「無いっ。
絶っ対に怪我したとか、入院したなんて言うなよ」
力一杯全力拒否だけど。
「はーい。
じゃねっ」
軽く返事をして診療所のドアをくぐるあたしを見送って、ドクターが感心した目をイチに向けた。
「なんだお前、一途なツラして2股か?」
「もうこの話はマジ勘弁して」
深いため息が口をついた。
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2日連続の登庁。
日曜日は絶対に〈おじいさま〉はお休み。それが分かっているからこその連続登庁なんだけどね。
「私は鑑識に行くけど、カエちゃんも来る?」
入り口の自動ドアをくぐりながら行動確認。
「んー。ちょっと一課を覗いてくる。
後で鑑識に寄るね」
数台並ぶエレベーターの前に立ち降りてくる階数ランプを確認する。
開いた扉に乗り込もうとして、降りてきた見覚えのある2人連れに足が止まった。
「
お久しぶりです」
にっこり笑って頭を下げるリカコさんに合わせて、あたしも
「お前達っ。
今日総監は公休を取られているぞ。
ここはお前たちのような者の遊び場じゃ無い。帰れ」
苛立ちを抑えもしない越智警務部長の声は取り付く暇もなし。
リカコさんの貼り付いた笑顔の口元が、ピクッと引きつった。
「……。先週、製薬会社の爆破された現場に内偵に入っていただろう?」
あたし達を通り過ぎ際にわざわざ足を止めて聞いてくる。
「はい。おかげさまで誰も怪我せずに無事帰還いたしましたわ」
リカコさんのイヤミたっっぷりの言い回しに、越智警務部長は鼻で笑う。
「それは何より」
明らかに思っても無い一言を残して、にこやかに頭を下げてくれる東田副総監と共に去って行った。
「あたし越智警務部長大っ嫌い」
リカコさんと2人きりのエレベーター内で、思い出すのも腹立たしいタヌキ面を脳裏から叩き出す。
「あら、あの人もあれでなかなか大変なのよ。
〈おじいさま〉とは同期なんだけど、先に警務部長に昇進して、同期一の出世頭かと思いきや2年後に〈おじいさま〉は警視総監。立場大逆転。
私達のことも相当気にくわないんでしょうね。
お可哀想に」
つまり、リカコさんも嫌いなのね。
警務部長は、立場で言うと警視総監の次に偉い。
副総監と同等の権力がある。
でも2番目は2番目。
ちなみに副総監
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捜査一課のプレートのがある開けっ放しのドアから顔を覗かせると、中はスーツのおじさま達が忙しそうに動いてる。
あたしのお目当さんは。
いた。
スススッと移動してデスクの書類とにらめっこしてる、その背後に立った。
「たむたむ。忙しそうだね」
「香絵ちゃん、ちょっと後にしてくれる?
……。香絵ちゃん⁉︎」
こっちに振り返るたむたむにぴこぴこっと手を振ると、びっくり
さらわれるぅ。
自販機とベンチのあるスペースまで来て一息つくと、自販機とにらめっこする先客にたむたむが頭を下げた。
「あ。榎本課長。お疲れ様ですっ」
「ああ。お疲れ様……っ!
なぜこちらにいらしてるんですか」
最後の一言は明らかにあたしに向けて発せられている。
「こんにちは。社会科見学です」
にっこりと笑って答えると、「そうですか」と口の中で答えて、何も買わずに榎本課長がそそくさと自販機を離れていった。
「え? 知り合い?」
プチパニックのたむたむにもにっこりと笑う。
「言ってなかったっけ?
あたし警視総監の孫娘なの。だから社会科見学によく来るんだ」
「孫?」
たむたむの動きが止まる。
「え。今の総監は確か櫻井……」
「そ。お母さん側のおじいちゃん。
それよりたむたむさぁ、今何の
製薬会社爆破の一件って誰が見てるのかなぁ?」
帳場って言うのは捜査本部の事ね。
「いやいやいやいやっ。
ちょっと待って。ちょっと待って。
折角、夢の本庁勤務。
孫娘? 孫娘って何だ? 課長が恐れるくらいの権力が有るのかこのぺったん小娘に」
「なんか本音がダダ漏れしてるけど?
ぺったん小娘って何がぺったんこなのよっ!
ちゃんと話し合っておく必要がありそうねぇ?」
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