第3話 エアコン

タクヤは家電量販店に来ていた。

そう。エアコンを見に。

タクヤ「すいませーん。」

店員「はい。」

タクヤ「八畳用くらいで使えるのは?」

店員「八畳用ですと、こちらですね。」

タクヤ「取り付け合わせていくらくらいでしょうか?」

店員「取り付け合わせてこちらになります。」

タクヤ「パンフレットもらっていっていいですか?」

店員「ご検討よろしくお願いします。」


タクヤは悩んでいた。

エアコンの風がフィギュアにあたったら突然でてくるのかを。

出てくるのはいいんだが、いきなりはやはり困る。

それにもうすぐ9月。

きっと暑いのもこの1か月くらいだろう。

来年でもいいのでは。

そんな事を考えながら家に着く。

窓が空いていないこの部屋は、低温のサウナ状態である。

シャワーを浴びた後は少し涼しい。

パンフレットをテレビ台の上に置いた時、隣のフィギュアに風が。


チャララ ラララ〜


マジックでよく流れている聞いたことのある音が突然。


ピカー!


辺りが七色に光だし。


ナナ「ヤッホー!」


タクヤ「今の音や光は??」

ナナ「音変更とフラッシュ変更してみた。」

タクヤ「???」

ナナ「出てくる時のやつ。この前サイレントになってて、フラッシュもオフだったし。」

タクヤ「うんうん。」

タクヤ「でっ、なぜあのチョイス?」

ナナ「イリュージョン!!」

タクヤ「まっ、確かに。」

ナナ「次回はー、」

タクヤ「そんなに種類あるの?」

ナナ「100種類くらい?」

タクヤ「すごい!」

ナナ「あっ、エアコンのパンフレット。」

タクヤ「うん。」

ナナ「買うの?買うの?」

タクヤ「まだ検討中。」

ナナ「買おうよー。」

タクヤ「もうすぐ夏終わるのに?」

ナナ「残暑。」

タクヤ「我慢かな。」

ナナ「えー。」

タクヤ「このアパートって、半分くらいの部屋はエアコンついてるんだって。」

ナナ「その差は?」

タクヤ「家賃が安い。」

ナナ「そーなの?」

タクヤ「エアコンついてる部屋はリフォーム済みらしい。」

ナナ「この部屋も綺麗じゃない?」

タクヤ「他はもっと綺麗なんじゃない?」

ナナ「なるほど。」

タクヤ「ナナちゃんって何回でも出てこれるの?」

ナナ「さぁ、どうかな?」

ナナ「1日1回1時間限定ってのは聞いてるけど。何回で終わりとかは知らない。」

タクヤ「知らない事だらけだ。」

ナナ「まーねー。」

タクヤ「ゲーム好き?」

ナナ「やった事ない。」

タクヤ「ゲームやる!」

ナナ「やる!」

タクヤ「じゃあこれやってみる?やり方は隙間に落ちてくるブロックを入れてくやつ。」

ナナ「知ってる!テト…」

タクヤ「そう。古いけどシンプルだし。」

ナナ「じゃあやるかー!」


いきなり出てきた二次元アイドルにも慣れてきて、普通に友達同士みたいになってきていた。


ピコン ピコン


ナナ「あっ!時間だー!」

タクヤ「もう1時間経ったんだ。」

ナナ「く〜、悔しいー。もう少しでクリアできたのに〜!」

タクヤ「次回頑張って。」

ナナ「そんじゃ次回。」


ピピピピ


ナナ「あっ、じゃっまた…」


……。


今までは当たり前に1人のこの部屋もこの瞬間だけは広く感じる。

さっきまでの会話も嘘のように沈黙が続いている。

ゲームを片付けて横になる。

この数日を考えてみた。

ありえない事ばかりで、夢のようで、でも現実に起こっていて。

人と過ごす楽しさを少しわかってきたタクヤなのだった。


ピンポン


タクヤが仕事に行こうとした時、インターホンがなった。


タクヤ「はい。」

隣人「あっ、どーも、突然なんですが引越しする事になったので挨拶にきました。お世話になりました。」

タクヤ「いえ、こちらこそ。」

隣人「これ、つまらないものですが。」

タクヤ「あ、わざわざご丁寧に。」

隣人「それでは失礼します。」


隣人とは日々の挨拶くらいしかした事がなかったから少し驚いた。

律儀な人で、お菓子もくれた。

隣がいなくてもタクヤの生活は何も変わる事はないだろう。


店長「タクヤ、お前最近なんか明るくなった気がするんだけど、なんかあった?」

タクヤ「えっ?そーですか?別に何もないですけど。」

店長「そっか。俺の気のせいか?」

タクヤ「多分。」


ナナミャン、いやナナちゃんの事は誰にも言えない。

そもそもナナミャンの説明からきっと時間がかかるだろうし。

フィギュアを仰いだら人が出てきたなどというおとぎばなし、誰が信じるか。

話したらきっと変態扱い、それどころか病んでる奴だと思われるに違いない。

この事は誰にも話さないでおこう。

そう思うタツヤだった。



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