Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969

Jitoh-01:唐突タイ!(あるいは、こちら奥多摩町/氷川渓谷前/奥氷川板ヶ木シストゥモ専門学校)

「あー、せ、セックスの、その、どうやれば出来るのかっていうことを、何と言うか教えて欲しいというわけなんですぞ、た、端的に言うと」

「はァ?」


 衆目内で端的に言ってはいけない単語ランキング上位であろうところの言の葉を枕詞に、いきなり何を言って来やがる?


「……いや、そういうのいいんで」


 しかもまともに話すのはこれが初めてときた。なんか鍛えてそうなパワー系と思しきみっちりとしたラガーマンのような巨体はこのだだっ広い階段教室でも目を引く事この上ねぇし、時々本当に紅白の横縞シャツをぴっちり着込んで講義を受けてたりもしていてそれがまたどうやらネタでも無く本人が至ってフラットな感じで着こなしているところが、見ているこちらの居心地を不安定にさせるという悪目立ちさを以ってして、さらにはヘイトを溜めがちでもあったりで。


 つまりは「よく見る変な奴」との認識しか無かった。学科をまたいだこの「一般スポーツ教養」なる、単位のためだけのリモートどころか動画視聴でも済みそうな退屈すぎて逆にあくびも出ずに終始真顔で聞き流すほかはないほどの講義に律儀に出張っている面子はかなり少数固定されているということもあり、しゃべったことは無いが互いが互いの存在はよく認識しているといった、そんな奇妙な、連帯感と言うほどでもないぼんやりと曖昧な自他の意識というのはあるにはあったが。


 唐突に過ぎるだろ。


 六月も半ばを回って、早くもここ近年のうだる烈夏に向けての前段階、みたいな湿ったねちっこい空気がここ奥多摩にも蔓延はびこり始めていて気持ちが晴れることが皆無ということは分かる。五月病、というものにかかるほどの起伏も無いキャンパスライフというものを送っていると確かに現実とか日常が虚ろになりがちになる、それも分からんでもない。強制されているわけではねぇがほぼ全員が全員この東京ドームシティ一個分あると言われている、どでかいキャンパス敷地内に併設されている寂れた寮に入っているのは、周囲が冗談抜きに山林原野しかないからであり、そのような隔絶されたコミュニティで同じところをぐるぐる回るように生活していると、たまにふと俺は何をしているんだろう、俺という存在は一体なんなんだろうとかの、危険なメンタルに陥いってしまうことが多々ある、それも我が身照らし合わせて否定は出来ない。


 でも第一声がそれは無いだろ。


「……」


 ちゃちくて狭く硬い座席についていた俺の目の前に、目の高さを合わせるようにして中途半端な中腰でこちらを圧迫感のある肩幅胸板かたはばむないたの壁でまず視界を遮りつつ、続いてその上に鎮座したデカ丸い顔の中でひときわ目を引く、尋常じゃなく太長い眉毛のその下のやけにつぶらできらきらした瞳をもってして熱くこちらを覗き込んでくるやからがいるよ怖いよ……


 思い返せばこれが始まりだった。


 俺とコイツと、魑魅魍魎なる超絶ボッチャマイスターたちの、


 ……壮絶なる戦いの幕開けなのであった。

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