第6話 過去編はちょうどいい所でやらなければ物語を遅くさせる

グシャ!!!!


「ガアアアアアアアアアアア!!!」


 誠と別れた後、少女は、例えばライオンと鰐、像、虎、などが一つにまとまったような獣


例えば、戦車100台、など様々な相手と死闘を繰り広げられていた。


 初めの内は何もできずに頭部、腹部、胸部、四肢、などが一瞬にして吹き飛んで、痛覚を感じる間もなく破壊された。


 そのうち、戦いかたが分かって無傷で切り殺すことが出来るようになった、しかし、戦う相手のレベルも上がっていく、無傷で倒した相手の次は、いきなり、体の大半が吹っ飛ばされる攻撃を受けた。痛覚で動けなくなることも。


「おいおい、サイボーグだろ? 痛覚とかの感情のデータや涙くらい無くしてやっても良いんじゃないか?」と言う声もあったが、「だめだ、たしかに潜入捜査の時に人間かサイボーグか審査する機械は、ハッキング能力をもっている物なら潜入できる」


「こいつも持っているのでしょう? なら」


「いや、肝心の基準となるのは、感情をどれだけ人間らしくするかだよ、それが、人間のものと近くなければ、サイボーグだとばれてしまう、考えてもみたまえ、体が欠損しても、腕がちぎれても、足がもがれても顔色一つ変えずに特攻していくものを、そんな奴は人間じゃない、だから、痛みに耐える必要があるのだよ、人間らしく」


「全く、こうでもしないと調査が出来ない時代になるとは、燃費が悪い時代になったもんだ、こう、ポンポン作れないものかね、兵器は」


 そんな会話が聞こえてきた。兵器と言う言葉が聞こえてきた。その意味を少女は知っていた。


「恐れるな、感情を最小限にとどめろ、兵器であるお前には、笑う権利も、泣く権利も、怒る権利もない、お前には心が無い、ただ感情と言うデータがあるだけの空っぽの器だ、ただ目の前にいる敵を殺す、それだけを考えろ、それがお前の生きる理由だ」少女はその日、相手に四肢を奪われて痛みで涙を流していた。そんな時に言われた言葉だ。


そして、少女に再びある疑問が浮かぶ。


「す、すみま、せん、し、質問が、あり、ます」


「なんだね?」


「心が無いなら、、私は、人間の、紛い物、と、いう、ことです、か」


「は?」スピーカーの声はそう言って暫く沈黙した。が、いきなり「ハッハッハ、ハッはっはハッハ!!!! 当たり前だろうが!! 所詮、お前らは人間の紛い物なんだよ!!」と大声を出して笑いだした。その笑い声は少女の鼓膜をグワングワンと大きく揺らした。




 戦闘訓練が終わった後、少女は自分が生まれた部屋に戻って誠と休憩時間を共にしていた。


 誠の役割は、少女の異常を探すことだった。少女はそれを理解していた。


だから、決して自分のためにいるのではないことを感じていた。


「ねえ、誠さん」


「もお、誠で良いのに」


「私、兵器なんですね」その瞬間、誠はリモコンで停止ボタンを押されたように静止した。


「大丈夫です、もう全部分かっていますから、自分が何のために生まれたか、私は人間の紛い……」と言うと、突然自分の前に「ニャー」となく毛だらけの小動物がきた。


「どう? この子、ネコっていうんだよ」少女はその言葉と共にネコと言う生物に手を伸ばす。


すると、ネコは少女の人差し指に自身の手を絡ませる、そしてやがて少女の指を舐める、少女にとって他の生物から優しく舐められるのは初めての経験だった。


 これまで、自分に関わってきた生物は自分を叩く、蹴る、爪を立てる、引きずり回す、かみちぎる、すりつぶされる、手や足をもがれる、目を抉られる、爪を一つ一つ剥がされる、髪を頭皮ごと引きちぎられる、数えきれない程の残虐な行為をされた。だから、初めてだったのだ、自分に優しく接してきたのは。


 少女は思わず笑みがこぼれた、パシャ!! 突然のシャッター音に驚いた。見ると、誠がカメラを持って少女とネコの前にいた。


「見て、これを」カメラから出てきた写真を見せる。そこには、陽だまりに照らされたように穏やかな表情をしている少女と少女と戯れる猫がいた。


「私、こんな表情を」少女は自分が穏やかな表情をしているのを驚いた。思えば自分の表情を見たことが無かった、もう少し、嫌な顔をしていると思った。


「○○○ちゃん」


 自分を呼びかける声に少女は顔をあげる、そこには朝焼けのように眠りからさめるような輝く笑顔をしている誠がいる。誠は少女の手をギュッと握りしめて言った。


「○○○ちゃんは兵器じゃない、貴方は優しい女の子、私が保証する、言ったでしょ、貴方は殺すためにうまれてきたんじゃないって」その言葉で少女は苦笑いする。


『決まっているだろう、お前は生物を殺すために生まれてきた、殺人兵器だ、それ以外、なにがある』その言葉が頭に浮かび誠の言葉はきれいごとだと感じたのだ。


「貴方は確かに人を殺す力がある」誠は背伸びをしながらそう言った。その言葉で少女は俯いた。「そうですよね、私はやっぱり」


「でもね」誠は俯く少女の顔に人差し指を立てる。


「人を殺す力があるってことは、誰かを幸せにする力もあるってことなんだよ」そう言って先ほどの写真を少女に渡す。


「このネコちゃんね、目が無いの」


「え!?」少女は驚いた。たしかに、先ほどからネコは目を開けていない、だがまさか目が無いことは予想外だったのである。


「このネコちゃん、前の飼い主が酷い人でね、毎日、ネコちゃんを虐待してたの、そしたらある日、ネコちゃん、目を失ったの」


「酷い」少女はそう言って、眉間に皺が出るほど険しくしてネコを撫でる。ニャオーンと軽快な鳴き声は過去が酷いものだったことを隠すかのようだった。


「だから、○○○ちゃんには、ネコちゃんを幸せにしてほしいんだ」


「私が幸せに?」


「そうだよ、君がネコちゃんと共に幸せになっていくんだよ」そう言って誠は人差し指を少女の頭に置く。


「もう一度言うよ、人を殺す力があるってことは、誰かを幸せにする力もあるってことなんだよ、大丈夫、貴方は人の苦しみに寄り添えるから、大丈夫、自分の生まれた意味を考えて苦しんでいる貴方なら、この子のことを考えて本気で怒れる貴方だから」


「そんなこと」


「写真に写った貴方が兵器に見える?」そう言って写真を再び見せる。それでも、少女は納得できず迷っていた。


「大丈夫だよ」そう言って誠は少女の頭をポンッと撫でた。


「貴方は、ちょっと力があるだけであとは人の痛みが分かる誰よりも優しい子、兵器じゃない、私の自慢の友達」


「友達?」そう言って誠はニッと歯を見せて笑った。


「そう、私の大切な友達、だから、私は貴方のことを信じる、貴方の力は、誰かを殺すためじゃない、誰かを幸せにするためにあるって、兵器じゃない、強くてかっこいい人だって、だから、○○○ちゃんも自分のことを信じて、許してあげて」そう言って、誠は少女の体を抱きしめた。


この時、何か、少女の目からツウと暖かいものが自然に流れていった。


「あれ? 痛くないのに、これは、なに? これは、違います」少女は慌ててそれをふき取った。誠はそれを微笑ましく見ている。


「な、何を笑っているんですか、それに、今のは……」


「さあ、何で流れたのかは私はしらない、でも」そう言うと誠は少女の額に人差し指を置く。


「それが、貴方が兵器じゃないって理由だよ」


「!!」


「もう、自分のことを兵器だなんて言わないでね」そう言って、太陽の笑顔を再び向ける。


 少女は、その時下を向いた。


「あ、あれ? だ、大丈夫? 私、何か変なこと言った?」誠は慌てた。


「いえ、大丈夫ですよ」そう言って、少女は、ニッと、歯を見せて笑った。少し、目に水滴があった。


「そう、大丈夫ね」つられるように誠が笑顔になる。






「これから君に新しい仲間を紹介しよう」初めて目覚めた時にきた男が再び自分の前に現れた。


「はい、所長、新しい子が来るんですか?」


そう言っている誠の顔はどこか浮かない顔をしていた。


 少女はその顔を見て自分の時もこんな顔をしていたのだろうかと感じた。


「では入ってきたまえ」と所長が言うと、小さな花側のワンピースを着た背が小さな海のような碧い髪をした少女が入って来た。


「きゃあああああ!! 可愛いい!!」誠は少女にしたようにはしゃいだ。


「ねえ、あなた、どこからきたの? 名前は?」そう言うと、女の子は困った顔をしている。


「NO・37だよ」と代わりに所長が答えた。


「あ、そ、そうですか」誠はそう言うと、物憂げに俯いた。もしかして、自分の時もこんな顔をしていたのかな、と少女は感じた。


「じゃあ、仲良くしてね、君たちは『ゴッドハザード』に対抗しないといけないから」と言うと所長は部屋から出て行った。


「ゴッドハザード?」少女は聞き覚えのない単語に疑問の声をもらす。


「ああ、ゴッドハザードって言うのはね、まあ、とにかく、世界の脅威となっている人たちなの、国を一つ簡単に滅ぼせるような、そんな力をもった人たちなの」


「私たちはそれを殺すために作られたのよ」突然、女の子が話をぶった切るようにそう言った。


「ちょっと、海ちゃん」と誠は少女と同じように勝手に名前をつけて言った。


「誰よ!! 海って」


「ああ、ごめん、勝手に名前をつけて」と誠が言うと女の子は頬を怒っているのか、それとも恥ずかしがっているのか赤く染めて叫んだ「もういやよ!! こんな生活!! 私は兵器じゃない!! 殺すために生まれてきたんじゃない!!」そう言って涙を零し始めた。ここで少女は女の子は感情の模倣能力が高く、そのため感情的になりやすくなっているとこを推測した。


 自分にはどうすることもできない、と少女は感じていた、なので、何をすることもできなかった。しかし、誠は黙って、静かに、優しく、海を抱いた。女の子は、嗚咽を漏らしていた。「大丈夫、海ちゃんは兵器じゃないよ」


「そんな気休め、いらない」


「気休めじゃないよ」そう言うと、誠は海の涙をふき取った。


「こうやって涙を流れる海ちゃんは兵器じゃないよ、海ちゃんは人並みの感情がある優しい普通の子」そう言うと、海は大きく見開いて「私は、普通の子?」と聞いた。


「そう、海ちゃんは普通の子」そう言って誠は海の頭を撫でた。


 その後、海は暫く静かに泣いていた。その後、部屋に内緒で飼っていた猫が飛び出してきて海に寄り添った。


 すると、海は不思議な顔をして「おねえちゃん この子はなんて言うの?」と聞いてきた。


 まず、少女は女の子に『おねえちゃん』と呼ばれたことに困惑した。だが、女の子から見れば自分は年上に当たるからおねえちゃんで合っているのかと思い、「ああ、その子は猫という生き物です」と答えた。すると、海はぷくーっと頬を膨らませて「そんなことは分かっているわよ!! 名前よ!! 名前!! この子の名前!!」と言った。


 名前? そう言えば名前を決めていなかったな、と少女は思い、名前を考えた。すると、猫は全体的に白い特徴をしていたので「ハクです」と言った。なんとなくだが、『シロ』と言ったら安易な名前だと、女の子に言われるような気がしたから、音読みでハクと名付けた。


「ハク、ハクって言うんだ、へぇ」海はそう言って、ハクと指先で戯れている。時折、えへへ、と嬉しそうな声を上げて、やがて「すっごい、かわいい」と言った。


「そうですか」と少女はそこで、自分が自然と笑顔になっていることに気付いた。なぜ、今自分は笑顔になったんだ? と少女は自問自答をするが「あ~、ゲーセン行きたい」と女の子の『ゲーセン』と言う言葉に興味を持ち、疑問を移し替えた。


「ゲーセン?」すると海は「知らないの? おねえちゃん、おっくれってる~」と人差し指を指し半分バカにしたような言い方に若干少女はイラっとした。


「ゲーセンっていうのは、人間が遊びに行くスポットの一つよ、クレーンゲーム、メダルゲーム、レースゲーム、格ゲー、プリクラ、麻雀、なんでもありなのよ」なぜ、格闘ゲームだけ、格ゲーと略したのか疑問に思ったが些細なことだったので突っ込まなかった。


「はあ、そうですか」と少女が言うと、海は、はぁと呆れたと言わんばかりにため息をついた。


「おねえちゃん、本当に何にも知らないのね、いいわ、私がレクチャーしてあげる、感謝しなさい」と偉そうに言ったのでまた少し少女はイラっとした。


 そこから海の疑問から始まるレクチャーが始まった。


「学校とは何ですか?」


「おねえちゃん、しらないの? 外の世界では、学校って人間が勉強したりするところなの」


「つまり研究室と同じ?」


「いや全然違うから」


「そうですか」


「それに、終わった後、みんなで映画館行ったり、クレープ食べたり、ゲーセンでゲームをするのよ」


「はあ」


「はあ、て分かってないでしょ、映画館って所はね、でっかいスクリーンに映像が映って、物語を上映するのよ、不思議の国のアリス、眠りの森の美女、塔の上のラプンツェル!! みんな面白いの、最近では水が飛び散る場面で、実際に水が跳ねたり、匂いが漂ったり、よりリアルを味わうことが出来るの、分かった!?」


「はあ」


「もう、メモをとる!!」少女と海はそんなやり取りをしていた。それを誠は微笑ましく見ていた。


「いいな、私も普通の女の子になりたい、ねえ、おねえちゃん!! ここから抜けて、実験が終わったら一緒に映画館行ったり、クレープ食べたり、おしゃれしたり、なんか普通の女の子っぽいことしよ!! 約束だよ!!」


「うん、わかった」静かに微笑む。


「クス」とここで誠が笑ったので、「何? サイボーグが普通の人間を語ったのがそんなにおかしいの?」と海は口をとんがらせて不満を言う。


「あ、ごめん、ちがうの、なんか、二人が姉妹に見えてね」と誠が言うと、二人はちょっとびっくりして顔を見合わせた。


「海」と少女が呼ぶと、海は顔を真っ赤にして「こ、こんな化石なおねえちゃんなんて、は、はん!! ま、まあいいわ、一応、おねえちゃんであることを許してあげる」と言って手を差し出した。少女が何だと思ってみると海が顔の紅さを残して「な、なによ、握手も出来ないの?


この私と」と言ったので「あ、そうか」と言い少女は海の手を握った。


「よ、よろしく、おねえちゃん」と尚も恥ずかしそうに言う海に「ええ、よろしく」と少女は微笑んで言った。


「なんか、○○○が丁寧語じゃないのって初めてだね」誠の言葉できづいた。自分がタメ口で話していたことに。


「ふぅん、海ちゃんは、○○○の初めての相手か~」とからかうと「変な言い方するんじゃないわよ!!」と海は腕を上にあげながら喚いた。


 そうか、もしかしたら、この先、この三人となら私は、どこまでも、どんな訓練にも耐えられるのかもしれない、そうか、私は、彼女たちと幸せになるために、生まれてきたんだ。


 少女に生きる意味が生まれた。そして、この三人の生活がいつまでも続けばいいと思っていた。だが、終わりは急にくる。




数日後、「二人とも喜ぶかな~」誠は二人にプレゼントを作っていた。別に誕生日と言うわけではなかったが、なんとなく何かの記念ということにしておこうという思いで作った物だった。


 ドゴオオオン!! ドゴオオオオオオオオ!!! 


 突然、何かが地面を揺らした。


「研究員NO・10!!」


「はい!!」誠を呼んだ研究員は汗を滝のように流して肩で息をしていた。


「あ、あの、何かあったんでしょうか?」と誠は周りを見渡しながら言った。だが、そんな誠の様子が呑気に見えたのか研究員は「バカ野郎!! 奴ら、来たんだ、まさか、ここまで狂った奴らだったとは、くそ!! だが普通するか!? ライバルを蹴落とすとはいえ!!」


「え?」誠は何のことを言っているのか分からなかった。


「『光条グループ』だ、あいつら、ライバルを蹴落とすために研究所のサイボーグ、ロボット、アンドロイド、他の奴らが作っている物を全部ぶっ壊す気だ!!」


 爆発音のような轟音が響き誠が見ると、沢山の軍隊の服を着た兵隊がこちらに向かってきているのが見えた。


「あの子たちが、あの子たちが危ない!!」誠は血相を変えて少女の部屋に向かった。


 研究所の部屋は外部のあらゆる音、衝撃などを排除していた。廊下にたまたまいた誠は異変に気付いたが、いつものように自分たちの部屋にいる少女たちは外の異変に気付かない。


「出来ない」


「もう、おねえちゃん、本当に下手くそ!」その日はいつも通り恐ろしく激しく厳しい訓練が終わり、少女たちは部屋に待機して、折り紙を折っていた。


「ふふふ」


「な、何よ、急に笑って」折り紙が全く折れないにも関わらず笑っている少女を海は気味が悪いと言うように身をよじらす。


「いえ、ただ、こうやって、いつも、今はいないけど誠や貴方が、訓練が終わった後、いつもいて、たわいもないことを話したり、外には行けないけどこうやって遊んだり、毎日、毎日、それを繰り返し過ごしている、すごく安心する」海はじっと少女を微笑みながら見ていた。


「どんなに厳しくて、苦しくて、感情が消えそうな時も部屋に戻れば、お人よしの研究員と、おませな女の子がいる……多分、これが、家族なんでしょうね、ただ、こうしているだけで、胸のあたりが暖かくなる」そう言って少女はあるはずのない心臓があるように自分の胸に手を当てる。


「ふーん、て、だれがませたガキよ!!」


「え、そんなことは言ってない」途端に海はぎゃいぎゃぎゃいぎゃいと喚きだした。それを微笑みながらあしらう少女。


 その時、部屋のドアが開いた。


「あ、まこ」


「今すぐ、ここから出るわ!!」誠はそれまで見たことのない険しい顔をしていた。すぐに海の手を引っ張った。


「出て行くってどこに?」海は聞いた。誠は「どこかよ、最低でも、この研究所よりも遠い場所に行くわ、○○○はついてきて!!」誰が襲ってきているのかを聞こうとしたが、その前に自分に指示がきた。それが聞けなかった理由ではなかった。その時、ガガガガガガガ!! と天井が崩れてきた。


「○○○!!」誠が少女の名前を呼ぶ。少女は紙一重で瓦礫を避けていた。それを見て誠はほっとしたがすぐに顔を青ざめた。何だと思って少女は後ろを見ると、そこには軍服を着て顔はガスマスクで覆われていた兵隊らしき人々が立っていた。


「はい、発見しました。はい、はい、分かりました、直ちに処分します」兵隊の真ん中のリーダーらしき人は通信機らしきものを掴んで、何度か相槌をうった後、少女たちを処分することを告げて、夥しい量の足音を立てて近づいてきた。


「急いで!!」そう言って誠、海、少女はその場から風のように去る。後ろから死神の足音が聞こえてくるが、そんなものを気にしている場合ではなかった。


 バチュン!!


「ガ!?」突然、少女の足を何かが貫いた。少女は痛みを感じたが、同時に違和感を覚えた。


 少女は弾丸如きで足が撃ち抜かれるほど弱くはなかった。だが、そんな少女の足をいとも簡単に撃ち抜く、ただの弾丸でないことを少女は感じた。そして、サイボーグの機能によるものなのか、こう感じた。ここから逃げることは不可能だと。


 後ろを向くと、兵隊が近づいてきてる、再び撃つ準備をしながら、着実に正確に少女に近づいていく。


 その時「待って下さい!!」と誠が手を広げて間に入った。一緒にいる海は、自分と同じ恐怖を感じているのか誠にひしと、しがみついている。


「一応聞こうか?」とリーダーらしき人が誠に詰め寄る。


 すると誠は「これが、ここの研究所のデータです、貴方たちもこれさえあれば無駄な争いもする必要ないんじゃないかしら」とあくまで強気に交渉にでた。


 すると、兵隊はその書類を乱暴にぶんどり、「なるほど、確かにライバルの研究資料はこちらにとってとっても重要だな」と書類をヒラヒラさせていった。


「で、では」


 その後の言葉を誠が言うことは無かった。いや、正確には出来なかった、


 パン 銃弾が誠の腹部を貫く。


「こんなもん全部奪えばいい話だろうが馬鹿が?」そのまま土砂崩れが落ちるように誠は倒れた。腹部から、血が海のように広がって行った。ペッと兵隊が動かない誠に向かって唾を吐いた。小夜子は腰につけている刀を取り出す。その直後、誠は少女たちに来ちゃだめ!! と言うように手を向ける。最後の力を振り絞り、少女たちの方を振り向く。


「い、き、て」そう言い終わるや否や、兵隊が銃を弾をありったけの量を誠に浴びせた。


「汚いごみが」再び兵隊は唾をはく


その瞬間、少女の体から、激しいマグマより熱いものが体中をはりめぐった。


「あ?」兵隊は見た、少女が刀を構えているのを。


「おいおい、なんのま――――」






 次に少女が見たのは、首だけのガスマスクたちの死骸だった。自分の呼吸が荒いことに気付いた。手も震えている、視界が悪いと思って手で拭うと血がべっとりついていた。


「誠!! 誠!!」やがて、海が誠を必死に起こそうとしているのを見た。だが、少女は悟っていた、恐らく海も気付いているだろう。必死で誠の体を揺らしているが、涙が顔中に流れている。少女は、海の腕を止める。なにをするの、と言う風に見るが、少女が首を振ると、顔をくしゃくしゃにし、やがて、少女に抱きつき、大声で泣き始めた。少女は、なだめるように海の頭を撫でた。だが、自分の目頭も熱くなっていることに気付いた。


 そこで少女は気付く、誠が倒れた拍子に落ちたピンク色の小包を、少女は大切に抱え、赤子の衣服を脱がせるように紙をはがして、包みを開けた。


 少女は、そしてそれを見た海も目を見開いた。そして、静かに熱いものが頬を流れた。


 包みの中身は三人の笑顔が映ってある写真と二人分の誠が作ったのであろう神の金メダルだった。そしてメダルそれぞれには大きな文字でこう書かれてあった。


『生まれてきてありがとう、小夜子、海』


「なん、で、よりによって、なん、で」とぎれとぎれに声を振り絞り誠の方を見た。




『小夜子ちゃんは兵器じゃない、貴方は優しい女の子、私が保証する、言ったでしょ、貴方は殺すためにうまれてきたんじゃないって』


『貴方は、ちょっと力があるだけであとは人の痛みが分かる誰よりも優しい子、兵器じゃない、私の、私の自慢の友達』


『そう、私の大切な友達、だから、私は貴方のことを信じる、貴方の力は、誰かを殺すためじゃない、誰かを幸せにするためにあるって、兵器じゃない、強くてかっこいい人だって、だから、小夜子ちゃんも自分のことを信じて』


 いつだって、いつだってこの人は、研究者なのに、自分の心に触れて、自分に喜びを、友を生きる理由をくれた。お人よしで、優しいひとだった。


「まこ、と」小夜子はその場に泣き崩れた。海は歯を食いしばらせて涙を流していた。


 その後、生き残ったのは小夜子と海だけだった。ハクも建物の倒壊で言いてはいないであろう。二人はハクと誠の墓を建てた、小石と木で墓標を作り、同じ木に誠とハクの名前を書いた。


「おねえちゃん」海の方を見る、もう涙は乾いていた。何か決意に満ちた生命力、使命感にめざめたような顔をしていた。


「絶対何があっても生きようね、そしていつか二人で普通の女の子みたいなことしよう、おしゃれしたり、プリクラ撮ったり、友達つくったり、あと、恋をしたり、そんな普通の人間みたいな人生を送ろう、おねえちゃん」


「うん」小夜子は海の言葉に力強く頷いた。






 チュンチュン、小鳥の鳴き声で、まどろみから解放される。陽光が少女の顔を照らす。


 なぜ、こんな昔のことを思い出しているのか少女は分からなかった。もう戻ってこない日々だった。


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