黒腕の闇

航悔 氏銘

第1話 転校先の友達には気をつけろ

20XX年、主に軍事国家を狙った無差別で大々的な事件が起きた。



国一つを一軒の大きな建物で潰されたことから呼ばれる『ワールドアパート』、国を蟲に覆う程の災害『ワームハザード』、謎の病原体で無人国家にしてしまう『シックスハザード』、一瞬で国家を人々もろとも破壊した『オールド』、この謎の四つの現象は、やがて軍事国家ではない国家全ても国民もろとも消してしまった。これを見た人々はこれは神の裁きだといい『ゴッドハザード』と名付けられた。この四つの現象を起こした者の写真は収められている。中でも、『ワールドアパート』と呼ばれた人物は、黒い腕をしていることが判明している。







 夜、光々と彷徨う、何かを求めてさまよう。


 海の、その周りの水をかき消すような勢いで何かがとてつもないスピードで進んでいる。


『異常事態!! 異常事態発生!!』船内はパニック状態、突然の未確認飛行物体が海をかき消してしまうような速さで進んでいるのだ。どこかの国へ飛んで言ったらその国がどうなるか。誰もが悲劇が起きると答えるであろう。「確認!! 確認できました!!!!」と船内のオペレーターがその物体が何なのか正体を掴めたようである。しかし、その後、「え?」


と疑問を吐露するような声から、返事がない。「応答せよ!! 応答せよ!! 未確認飛行物体の正体は何だ!?」しかし、その声の返事はない。


「おい!! 答えろ!! 何があった!! おい!!」その声に対してオペレーターは「何……あれ……?」と疑問が頭の中を書き巡らせ無視してしまった。


ガガガガガガ!!!! 周りの水をブルドーザーのように削りとりながら滑空して飛んでいたものは「黒い、腕?」その直後だった。黒い腕と認識されたものは、ドバッ!!!! と海から空へ向けて飛びあがって行った。空には、闇よりも深い黒が広がっていた。






「ねえ、昨日の未確認飛行物体って噂、信じる?」


「まさかぁ、何かと見間違えたんでしょ」


「なあ、それより、転校生、て・ん・こ・う・せ・いだよ!!女か?男か?この教室ブスバッカだからなー、かわいい子が転校してくるといいなー」


「ねえ、噂によると、男らしいよ」


「え?何系、何系?」


「EXILE系」


「うっそー!??」


この日、都立八百万九十九学校の2年A組の朝礼は、ガヤガヤと生徒たちの喧噪が教室中を埋め尽くしていた。昨夜の未確認飛行物体の話題もあったがこの日は転校生が登校してきた日だった。もちろん転校生となれば、男か女かで話題が持ちきりになる。そして大体、男であれば女子たちがイケメンか、女であれば美人かと興味を持ち、やってきたのがイケメンなら主に女子が、美人だったら主に男子が歓喜の悲鳴を心の中で上げるものである。


「はーい、みなさん、静かにしてください」


担任教師が教室に入った瞬間、生徒たちは声を潜めた。大体の生徒が転校生のことが気になるのだ。


「では入ってきてください。」


担任教師の言葉と共には言ってきたのは女だった。髪形は肩には届かないほどのショートヘアー、容姿は整っており、街ですれ違うと思わず見とれてしまうほど、美人であった。ただ、歯だけは刃物のようにギザギザしていた。その歯は見た目の可憐さを帳消しにするほどの恐怖を帯びている。その証拠に「歯以外は良いんだけどなぁ」と声が上がる。そして、担任教師が「では」と少女の名前を呼ぼうとした瞬間その女はいきなり、自分の苗字を黒板に書き始めた。


そこからだ、初めは一部の生徒が「珍しい苗字だ」と言う様な声が蝋燭に火を仄かに灯すように声が上がった。


しかし、名前を書きはじめた時に、生徒たちはへ?と疑問の声が上がった。そして、教室中はたちまち木から木へと炎が燃え盛るようにざわざわと再び喧噪を起こしていた。


はっきり言えば少女の名前は今流行りのキラキラネームのようなものであり、さらに言えば親が自分の娘にこのような名前をつけるのか? と疑ってしまうほどの名前だったのである。少女は、自分の名前を書き終わると生徒たちの方へ真っ直ぐと視線を向けた。その少女の目は、まるで生徒たちを敵と見なしているかのように冷たい目をしていた。あまりに凍り付くような目をしたので、教師の注意もなく教室は揺蕩う水のように静まり返った。


そして、少女は自分の名前を名乗った「私の名前は、黒城 闇 `やみ`って書いてひかりと読みます。よろしくおねがいします」とぶっきらぼうに挨拶をした後、お辞儀をした。「じゃ、じゃあ、闇さんの席はあちらの窓側の席にあるので」先生の指示された後、闇は、静かに、しかしやる気がなさそうに半分上をみながら席に座った。


闇は平穏を望んでいた。何事にも関わらず静かに過ごすことを。だが、自分でこの名前にしたのは他人の興味をひかれてしまうんじゃないかと危惧していた。

 しかし、そう思うのとは裏腹に、昼休みの時、普通転校生であれば、どこ出身なの?趣味はなんなの? あるいは闇の場合どうしてそんな名前なの? などと聞かれるものだが、誰一人として聞いてくる者がいなかった。だが闇にとってはかえってそれは好都合だ。自分は誰一人として友達を作る気がなかったからである。とにかく闇にとってこの状態は心地よかった。だが次に来る来訪者で自身が望む平穏をこわす存在であると今は知らなかった。


「あ、あの!!」と強張った声で何者かが話しかけてきた。闇は確かに友達を作る気はなかったのだが、ここで変に悪態つけてクラスの話題になるのも面倒臭かったのでとりあえずその呼びかけに応えることにした。


声のする方に体を向ける。みるとなぜか胸の前でファイティングポーズをとるように握りこぶしをふるわせていた紫色の髪をしており、サイドテールの女がいる。頬を赤らめさせて、全身から汗を流し、興奮している様子だった。


話しかけた割には向こうから声をだしてこない。だから、闇は、今そんなに相手を緊張させるような態度をとってしまったかなぁと思い「なんか用があるの・・・・・・」と言った時にサイドテールの少女は「あ、あの!! 私の名前は証あかし 氷柱(つらら)と、も、申します!! ひ、ヒカリちゃん、は、初めましてですか?」


「お、おう」


「そうですよね、初めましてですよね、覚えていないですよね(ボソッ)」最後、ボソッと何か言ったが闇には聞こえなかった。こからしばらくなぜか妙な沈黙が続く。ていうか、はじめましてですかってどういう声のかけかただ? と闇が疑問に思っていると、周りの生徒たちから「あぁ、あいつ、捕まったか、厄介なやつに」と言う声が耳の中に入ってきた。


瞬間的に闇はなるほど そういう立場のやつなのかと思い、「あぁ、わるいけど、ちょっと他のクラスに用事が」と言って席を立とうとした時、その証 氷柱と言う少女は制服のそでを引っ張って「あ!あの!」と大きな声を発した。闇としてはもうこれ以上関わりたくなかったが氷柱はグイッと顔を至近距離に近づけてこう言った。「わたくしと、友達になりませんか?」


闇はこう言う人間ははじめてであり困惑した。今まで見てきた人間の中で自分から「友達になりませんか?」と言う人間を見たことがなかったからである。少なくとも今まで見てきた人間は、そのような言葉がなくても「一緒にあそぼうぜ」とか「なにそれ、おもしろそう」などと言うなんてことの無い会話から自然と友達になっていくものだと思っていた。しかし今目の前のいる少女は、それらの人間とは全く違い自分から友達になることを懇願してきた。このことからこの少女には今まで友達がいなかったことを闇は確信する。


「あ、あの……これ」そう言って氷柱と言う少女は手作りブレスレットをいきなり渡してくる。


「?, ナニコレ?」闇がそう尋ねるとさっきまで死にそうな絶望の表情を見せていた彼女は急に極上のマッサージでも受けているように恍惚と言うに等しいニヤッとした顔で「いえ、わたし、転校生が女性であることを楽しみにしていたんです、女性だったら友達になれると、このブレスレットをお揃いにできると。あぁ、なんて幸運なのでしょう。やっと、やっと、このブレスレットを受け取ってくれる方が現れてくるなんて、そうだ、私、記念日というものが大好きなのですよ。だから、今日は貴方との友達記念日としましょう、えーと今日は4月8日ですね、闇さんこれからは、4月8日は二人でどこかに行きましょう。あぁ、でも、学校がある日とかぶってしまう可能性がありますね、そのような場合どうしたらいいのでしょう・・・・・・」さっきまで、あ……あの……とどもらせていた彼女の姿はどこにもなく以上な友達への執着心に溢れた饒舌な彼女のすがたがそこにいた。闇は、これは関わったら本当にやばいやつだと思い「いや、わるいけど、ちょっと隣のクラスに用があるから」と言ってその場を立ち去ろうとした瞬間、ガッと今度は腕を掴まれた。


「闇さん、あなた……嘘をついていますね・・・」


「いや、べつにうそなんか」


「嘘です」


突然先ほどまでおどおどしていた態度だった彼女がいきなり、相手を脅すような勢いのある鋭い目と勢いに変わり腕を掴んだことに闇は驚き、戸惑ってしまった。「もし隣のクラスに用があるなら、私が話しかける前にとっくに行ってたはずです……でも貴方は、そうしなかった、それは貴方が手持ち無沙汰であった証拠です、なぜそのような嘘をつくのでしょうか」気が付くと彼女は自分の顔の目の前に顔を押し寄せていた。その目はとても冷たく闇の心の中を覗き込み、更に全身を凍り付かせるくらい恐怖がある冷たい目をしていた。これは、そうとう厄介な奴につかまってしまったな、と闇は思った。


「ああ、ほら、私まだこの学校に慣れていなくてさ、ちょっとそこらへんを歩いてこの学校がどんな所なのか見てみたくって」


「なぁんだ、そうでしたか、それならわたくしが案内いたします」当然パッとまるで夏の日差しに向かって咲く向日葵のように明るい表情をした。先ほどの冷たい表情が嘘のようであった。


 闇は、改めてとんでもない奴に捕まったと思った。


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