第五話 罰ゲーム

 太陽はもう少ししか顔を出していない。時間が経つのが早いのか、体感時間が短いのか。はたまた単に太陽が落ちるのが早いだけなのか。そうだとしても、今日は一日が充実していただろう。充実すること。それはとても良い事だろうけど、変わらない充実だとしたらそれはいつか『慣れ』が来てしまうだろう。『つまらない』とは少し違う。


 遠野に一目惚れしたのもそれは瞬間の出来事であって、いつしかそれを忘れてしまうかもしれない。これは『慣れ』なのか。もしそうだとしても、絶対に違うと言い張りたい。それは────。


「ただいまかえりましたー」


 物凄く疲れてるのか、言う気がない脱力した感じになってしまった。


「なんだこれ。静かすぎない?」


 昨日と比べるなら、静かではあるけど感じが違う。靴はみんなの分はあるけれど。

 ぶつぶつといいながら自分の部屋に戻ろうとした。戸に手をかけた瞬間、中から何か聞こえてくる。


「嫌な予感しかしないんだけど」


 そういいながら、戸を開ける。


 もう分かっていた。一日が終わらない。今日なら終わらなくてもいい。俺が諦めた瞬間だった。


 そこには、寮生全員がいた。ベッドの上には恵先輩とその隣に涼風。それと俊介さん。畳の上には遠野と天宮。


「いやいや、なんでここにいるんですか」


 口を切り出したのは涼風だった。


「今ね、大会をやってるんだよ! 景品は特に決めてないけど」


 みんながやってるゲームは4人対戦型の3D格闘ゲームらしい。体力ゲージはなく、ダメージを与えるたびに倒しやすくなり、画面外へ出すと1ポイント加算されるゲームだった。俺は買って何十時間もプレイして途端に飽きてそれ以来触っていなかった。


「そうですか……じゃなくて! リビングでみんなでやれば良いじゃないですか」

「えー、だって面倒くさいもーん」

「いやいや、ここ俺の部屋だから」

「良いじゃん、誰も迷惑してな……いんだか……ら……」


 俊介さんは笑いを堪えながら、言ってくる。


「迷惑するのは、俺がいるんですけど」


 これ以上言っても退く気は無さそうだったので渋々了承してあげた。


「遠野はやらないのか?」

「あーうん。見てるだけでも十分に楽しいから!」


 多分ゲームが苦手であんまり触りたくないだけだろうと思って、俺はちょっとでもやるように促す。


「俺もやるから一緒にやろうぜ?」


 そうして、色々レクチャーしてある程度出来るようになった。せっかくだから試しに四人でやろうということに。


「じゃあ私、ゴリラ使うねー! ゴリラは最強だから! ゴリラ君わかるよね!」

「あんたは何1人で言ってるんだ」


 涼風は相変わらずだ。


「じゃあ俺は、赤帽子のおっさんで」

「自分はピンクの化け物使うか。遠野は?」

「んー。キツネでいいかな」

「じゃあ、決まりだね。ステージはこれでー」


 涼風1人でどんどん決めていく。みんなの意見も尊重するべきだと思うけど。まぁ、いいか。

 ゲームが始まる。


「はい! どーん!」

「ちょっ、おいおい! なんで!」


 3人が集団暴行をして、俺だけが一気にゲージ満タンになり、画面外に飛ばされる。これこそ刹那の瞬間か。


「「やったー!」」

「俊介さん。涼風さん。これ何回やっても絶対変わりそうにないのでもう俺降りますね」

「じゃあ罰ゲームね?」


 と、恵先輩が余計な口を挟む。


「おっ、それいいじゃん」

「全然よろしくないですよ!」

「恥ずかしいことやらせたいよな」

「手加減お願いしますね…」


 罰ゲームは1人で長編RPGの中でもめちゃくちゃ長い「色とそれは世界樹から」をやらされることになった。このゲームから自分は影響されて色を教えたがるようになっていた。それだけはまっていたんだろう。


「俺、これ何回もやったことあるんですけど」

「罰ゲームってそんなもんだろ? 俺も一回はやったことあるけど、途中で辞めちゃったから」

「だよねーこれ結構難しいからね」


 案外プレイしている人が多いのはおかしくないけれどクリアする人が少ないのがこのゲームだ。


「罰ゲームって朝までですよね?」

「まあ流石にな。恵さんがなんて言うかな」

「俺は後ろで見ててあげるからさ? 安心しろよ」


 喋っていると恵さんが話に入ってきて、


「朝までで良いわよ? だって、明日学校があるものね」


 そうして俺の罰ゲームが始まった。どうして罰ゲームなんてさせられているんだろうか。悪いこともしてないのに。


 深夜3時を回る。手慣れているものをどんどん進めるのはめちゃくちゃ速い。最短の攻略で遊んでいると俊介さんが「そんな方法あったのか」とか「そこ、違くない?」などと少し口を出してくるだけで大事になるようなことはなかった。


 クリアすることもなく日が顔を出し、外が明るくなってきた。早朝は、夕方とはまた違って良いと思う。何がなんて理由は無いけれど。


「外明るくなってきましたね」

「もう悠とは仲の良い兄弟になれた気がするわ」


 軽く笑いながら呟いてくる。


「その、悠ってなんですか?ずっとから気になってたんですけど」

「あぁ、悠司なんてめんどくさいだろ? だからあだ名っぽく悠って呼んでるだけだから深い意味とかはないけどな」

「そういうことなんですね」


 そろそろみんなが起きてくる頃だろう。先生は、仕事の都合でいつも早く行ってるらしいけど早すぎる気もするんだよな。


「どうせここまでやったならセーブしておきたいな」


 早くクリアをしたかった為にセーブは最低限する所だけしかしていなかった。


「ちょっとまったー! 罰ゲームってしてるかー!」

「また涼風か。次はなんだよ」

「罰ゲームってのはね? 人が嫌がることをするためのものなんだよ?だからここでディスクを取り出しだっ!」


 ものすごい速さでゲーム機に近づき、ディスクを取り出す。画面には『ディスクが挿入されていません』と表示されていた。


「あーあ、これはやっちゃったな。まあ罰ゲームだからな? 悠」

「もう良いですよ。何回もやってるんですから。これで俺は解放されたって事を考えれば。仲間たちに」


 これが原因で忘れたり、勝手に脳内で例えたりする癖が無くなるかもしれないから。元々はこのゲームのせいだったし、それでも俺は感謝をしている。今までの記憶は消えることもあるけどそれはどうでも良いことで普段の人間と一緒だ。色に例えることも無くなるかもしれない。


 この一件で、相馬悠二はいろいろあったが、心の件は解消されることはなかった。

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