実は俺の〇〇だった。

時雨色

第一話 いつもと違う日常が始まる色

「ねぇ、聞いてる? 聞こえてる?」


 隣で声をかけてくるのは俺と同じ一年の『遠野楓』だ。入学式直後の自己紹介を聞いてる限り、普通の生徒だった。


いや、普通だと思いたいところだ。


「相馬くーん?」

「あーいや、あれ、ね。あーうん。聞いてたよ」

「聞いてなかったでしょ。言うよ? 先生が、放課後に職員室に来てって言ってたよ。入学式早々職員室へ行く。そんな人現実にいたんだねーって、私も行くけど」

「なんだろうな。寮についての話かなんかなのかな」


 そんな会話をしているうちにどんどん日が沈んでいく。それは綺麗な夕焼けのオレンジ色で教室が染まる。眺めている暇もなく早足で教室を後にした。


「遅かったな。それで呼んだ理由については大体察せてると思うが、寮についてだ」


「やっぱりそうだったんだ」と隣に立っている遠野は目を伏せる。


 その姿に俺は少しだけドキッとしてしまった。


「おい。こっち向いて聞け。あんたたち含めて6人は別の寮に住んでもらう」

「他に、4人生徒がいるってことですか」

「そういう事だ。理由としては、人数の関係と少し変わった理由で寮を追い出されることになった生徒だ。おっとそうだ。安心しろ問題行動ではあるが暴力沙汰になった生徒ではないから安心してくれ」


 俺ら二人は、失礼しますと職員室を出た。


「その別の寮って遠いのかなって思ってたけど10分ぐらいで着くんだね。」


 職員室での話が終わってから思い出したように地図を書いて渡してきた。シンプルに書かれたものだったが、わかりやすく書いてくれたおかげで迷うことはなさそうだった。

 寮に向かうべく、学校を出て寮へ向かった。なかなかにも綺麗に舗装された道路で見栄えがいい。しかし、今日通ってきた桜並木の道は通らず、河川敷の方を歩いた。それでも見た目は悪くない。いい風が吹く。気持ちいい。色に例えるならば、なんだろうか。やはり、オレンジ色か。


 しばらくして、夕焼けもどんどん沈み、暗くなってくる。それでも遠野は、はっきりと見える。なぜか知らないが、なにかに惹かれるものがあるのだろう。まだ何も知らないのに…もしかしたらと思った瞬間俺はこれだと。


 一目惚れ。


「そういえば、荷物ってどうなってるんだろうね? もう、運ばれてたりするのかな?」

「あっ、うんそうじゃないかな」


 だめだ。完全に意識してしまっている。普通じゃないかもしれないのに。それでも多分この気持ちは変わらない。

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