マエカノ ※知人にメールで送った話し

 中学生の頃から付き合っていた彼女の話しだ。


 トラックの運転手になるのが夢だった彼女の腕力は、高校時代には既に並大抵の男では太刀打ち出来ないものになっていた。


 これは今だに夢だったのか、現実だったのか分からないが、そんな彼女との思い出を書き残して置こうと思う。

 

 その日、ボクは珍しく学校をサボってマエカノと公園で遊んでいた。公園の近くには高架のようなものがあって、高架の壁には、ありがちな落書きがあって、チョット荒んだ印象の場所だったと思う。

 要するに溜まり場になってもおかしく無いような場所だ。


 遊び疲れたボクらはマエカノの原付に2人で乗って、公園からマエカノの家に向かおうとしていた。途中で高架下を通過しなければならない。

 通過するとき、ヤンキー風のヤンキーに、つまりヤンキーに高架下で道を阻まれた。


 相手は2人だったと思う。


 結果から言うと、とにかく瞬殺だった。

 相手の油断もあったと思う。


 経過はこうだ。

 マエカノが運転して、ボクがマエカノに抱きつくようにして後部に乗っていた原付の前に、突然2台の原付が飛び出してきた。

 ボク達の行く手を阻んだヤンキーたちは、原付から降りると、ニヤニヤしながら後ろでマエカノにしがみついているボクに近づいて来る。

 マエカノがボクに何やら耳打ちして原付から降り、ヤンキーから離れるように後ずさりした。ビビっていたボクは、マエカノが何と耳打ちしたのか、よく分からない。

 

 兎に角、原付を支えていた彼女が離れてしまったので、ボクは跨った状態で必死に原付を支えた。


 見ようによっては、カラまれたから、–––男のあなたが私を守ってね–––

そうやって女の子が、男の背中に身を隠そうとしている風にも見えただろう。


 近寄ってきた ヤンキーが口を開く。


「おぉ、ヒョロヒョロの坊っcy」


 最後まで言えずに、ボクの目の前にいたそのヤンキーの頭が吹き飛びました。(そのように見えました)


 ボクも残ったもう一人のヤンキーも何が起きたか分かりません。

 頭を吹き飛ばされたヤンキーは、言わずもがなです。

 彼はフラフラと2〜3歩よろめき、耐えきれなくなったように、両膝を落とし、地面に両手をつきました。


 その時、もう一人のヤンキーが何をしていたのか分かりません。

 たぶんボクと同じく、驚いてバカみたいに、フラフラと歩いて倒れるヤンキー仲間を見ていたのでしょう。


 糸が切れた操り人形のように奇妙な動きをして、フラフラと四つん這いになったヤンキーから目を離せずにいると、

パン!

 破裂音がしたので、驚いてそちらを見ました。もう一人のヤンキーが、まるでスローモーションで再生しているかのように倒れて行くのが見えます。


 夢かな?

 そう思ったときに、両手をついて、かろうじて意識を保っていたヤンキーの方から、

ドン!

 今度は鈍い音がします。

 四つん這いで耐えていた彼の脇腹にマエカノがトドメの、の、蹴りを入れた音だと思います。けれどそれは、そちらを見た時にはもう、彼女の長いスカートに隠れてしまっていて、脇腹を蹴り上げた音なのか……

 彼女が彼に、いったい何をしたのかは分からない状態でした。


 そこからマエカノは3〜4歩 足を進めたと記憶しています。彼女が歩を進めた後には、砂埃を被った無機質なアスファルトだけが見えました。


 つまり、どう言う状況か分かりますか?


 本来であれば四つん這いで耐えていた彼の姿が見えるべき場所に、そこにいるはずの彼の姿はなくなっていて、もと居た場所の3〜4歩先で、どうやら仰向けになって倒れていると言うことです。


 50Kg〜60Kg以上のものを3〜4歩先に蹴り飛ばすのは普通、無理です。


 マエカノのスカートに隠れてしまい、やはり様子は良く判らないのですが、ヤンキーのつま先が上を向いているのだけは見えました。


 マエカノがとどめの正拳を突き降ろします。

 ヤンキーのつま先がビクンと一度跳ねます。


 それから息を吸うようにマエカノは、彼等のポケットから財布を抜いて、お金と身分が分かるようなものがないか確認していきます。

 抜いたお金をボクに手渡しながら、彼女は言いました。


「カラんでくるなら、喋っちゃダメなのに」


 確かに、真理です。

 攻撃するときに、「今から攻撃するよ?」と言うのは、バカのすることです。


 面白くなるように、装飾はしてますよ?

 人はそんな簡単に意識を失いませんし、自ら身を引くことによって衝撃を柔らげようとします。

 でも、だいたい事実(記憶)と相違はありません。


 付き合っているあいだ、彼女がその圧倒的な暴力をボクに向けて奮ったことは一度もありません。

 そう考えると(どこか間違っているような気もしますが) 愛されていたんだなと実感します。


 

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