第37話 合同遠征。



 終焉の四月一日から二年を超えて五月六日。

 私の拠点周りは様変わりしていた。

 今更ながら私達が住んでる地域の名前がめぶきで、埼玉県にある。

 そのめぶき周辺の農地から時間をかけて大量の土をかっぱらい、ホムセンから得た堆肥や土も総動員して大規模な畑を作ったのだ。

 その後もめぶき第三中学校避難所から農業に詳しい有識者をお招きして、様々な野菜の作り方と注意点、収穫の方法や保存方法、保存する場所の仕組み等など、様々な薫陶を受けまして、それを最大限に活かすため、まず肉の街の湖に居る牛肉モンスターをテイムして、その後にオークもテイムした。これで【調教】を獲得し、めぶきのホムセングループが最近発見したオーガの集落を襲撃した。

 そして二十体ものオーガを捕獲してテイム。命令の最優先が当然私だが、農業の有識者ご夫婦と雪子も同等の優先度かつ権限であると厳命して、今日まで農作業に従事させた。

 太郎さんの研究でペットにも魔法が取得出来ると判明したらオーガとワイバーンにも速攻で習得させ、今はもう雪子のワイバーンであるピュアホワイトが空から水を撒く姿と、土魔法で徐々に畑を広げるオーガの姿が私の家の周りでは当たり前になって来た。

 畑はもう安定しているので有識者のご夫婦にはお帰り頂いたのだが、それでもやっぱり畑が好きで気になるからと、ちょいちょい通って居らっしゃる。

 肉はまだモンスターに依存しているが、野菜はもうこれから自足できる。

 そうして拠点ごとに役割が決まり、めぶき第三中学校避難所は腐肉のダンジョンで嗜好品や保存食を、めぶき総合病院はいつの間にか酒蔵と蒸留施設を作ってHPポーションになる酒を、私の拠点は野菜を、少し遠いが肉の街は名前の通り肉を生産し、ここら一帯はもう安定したと言っていいだろう。


「それじゃぁココロ君、息子達を頼むよ」

「はーい、頼まれましたー」

「おなしゃす!」

「お世話になりまーす」


 そんな噂を聞き付けて、周辺からも生存者が集まり、第三中学校と総合病院、そして肉の街は発展し、今では合計千人近い人口になって、中にはココログループに加わりたいと言う者まで出て来た今日この頃。もちろん加入はお断りしている私達は、第三中学校と合同遠征を企画し、今日出発の予定だった。

 雪子には拠点とチウ、カナのお世話と畑を任せて、私、秋菜、春樹は遠征のメンバーだ。

 めぶき第三中学校からはレイジ、アユミンが参加、総合病院からもタッちゃんやら舎弟やらが参加したがったが、総合病院の戦力を考えて居残りだ。

 私と春樹の魔法剣士型が二人、秋菜とレイジのマジックシューターが二人、そこに純魔法使いのアユミンが加わる五人パーティだ。

 全員百五十レベルでカンストしていて、全員まだサブジョブは手に入っていない。

 今回の合同遠征は、サブジョブの発見とまだ無事な何かの施設、そして有益なダンジョンの捜索が目的となる。

 持って行く物資はポーション類は当然ながら、後はほぼ食糧だ。

 細々した雑貨は当然あるし、一応として持ってくペットフードも積まれているが、大体はワイバーンの干し肉と干し野菜、生の芋、非常食のカロリーメイツとシリアルと粉ミルク、調味料にスパイスなどだ。

 これも太郎さんが発見したのだが、ワイバーンの干し肉は水で戻すとほぼ生肉に戻る意味不明な特性を持っていて、一緒に水で戻した野菜などもシャッキシャキに復活するおまけ付き。保存食として最高すぎるので、ワイバーンを狩る事が出来るスキル持ちが所属するグループは、皆過剰なくらいワイバーンの干し肉を作って溜め込んでいた。

 それらの物資を特性の巨大バックに詰めてワイバーンの胸板に固定すると、出発準備は完了である。


「じゃぁ、しゅっぱーつ」

「おー!」

「行くぜ行くぜブラックサンダー!」

「くっそ、俺もワイバーン欲しい……」

「ワイバーンのお陰でペットフードの価値が爆上がりしたからね。手に入らなかったなぁ……」


 私は当然アッシュに乗り、春樹はブラックサンダー、レイジとアユミンは秋菜のモモちゃんに同乗し、秋菜本人は自分の翼で飛んでいる。

 めぶきのホムセン組はワイバーンの情報を聞いてから必死にレベリングしてワイバーンのテイムを成功させ、今ではペットフードを抱えてワイバーンによる運送業によって地位を確立していた。

 やはり肉の街が遠いので、空輸はどうしても需要が発生する。

 そして需要を自分たちの利に変えるには、ペットフードを出し惜しみするしかなく、周りの施設もその行為については一定の理解を示しているので争いなどは起きていない。

 何せココログループはワイバーンを計四体も抱えてる上にペットフードもまだかなり残っているし、太郎さんもペットフードの研究と言う実績でホムセンからペットフードをある程度融通してもらえる。総合病院も自前でワイバーンを持つより怪我人などの輸送をホムセンに担当してもらえば文句は無かった。


「とりあえず、周辺を目視で調べながら東京を目指すんで良いんですよね?」

「そだよー。アキバとかシブヤとか、生存者多そうじゃない?」

「自衛隊とかだって活動してても良さそうですけどね。その辺どうなんでしょ?」

「自衛隊ってのは政府の決定が無いと基本的に何も出来ないんだよ。だから動いてるとしたら、自衛隊としてじゃなくて“無断で自衛隊の装備を使用して有志を募った”誰か、または集団だろうね」

「でも、めぶきでも人をいっぱい集めてやっと千人くらいなんだよ? きっと物凄いたくさん人が死んじゃったと思うから、あきなはいくら自衛隊の人達でも、生き残ってるか怪しいとおもうなー?」

「まぁ私もそう思ってるよ。ワイバーンでコレなんだ。武装集団だってドラゴンにライフル撃っても大してダメージ与えれなかったでしょ」


 ワイバーンの上でそれぞれが大声を出して会話をする。

 強力な武器を持っているからこそ、率先して強大なモンスターに挑んだ可能性もあって、私も自衛隊が集団として生き残ってる可能性はほとんど無いと思ってる。

 もし居たとしても、中途半端な装備の分隊単位で生き残ってる運のいい誰かだろう。


「て言うかワイバーン早いっスねぇ。あれ江戸川で、あっちが中川でしょ。もう東京入ってんじゃ無いっすか?」

「中川超えたら多分もう東京だろうね。江戸川より向こうは確か千葉のはず。詳しい事は流石にわかんないけど」

「やっぱり当面は、あのスカイに聳えるツリーの残骸目指すんスか?」

「そりゃ分かりやすい目印だからねぇ。確かあそこが押上って場所だろ?」


 そんな事を喋ってる間に、ひとまず半ばからポッキリやられてるツリーの上までやって来た。

 下を見るとツリーの折れた場所に何やら茶色い物が大量にあって、ひとまずアッシュをゆっくりと降下させて様子を見る。


「あれ、鳥の巣っスか?」

「みたいだね。モンスターか野鳥か………」

「ココロさん、モンスター見たいですよ」


 アユミンが言ってどこかを指差す。

 視線でその先を追うと、崩れたり折れたりしたビル群から大量の何かが飛び出し、巣に近付く私達に突っ込んでくる。


「うわ、なんだあの中途半端なパーピィは」

「キモイなぁ、死ねよ」


 向かってくるハーピィと思わしきモンスターは、翼がやたらデカくて色とりどり、でも体は軒並みが全裸の幼女で、顔はホラーゲームに採用されそうな醜悪な面構え。

 心底嫌悪した私はアッシュの上で九尾をふりふり、すると夥しい数の風の剣閃が走り、次々と気持ち悪いトリモドキが墜ちていく。


「………同じレベルカンストなのにココロさんの格が違い過ぎる件について」

「ラノベのタイトルかな?」

「ふふーん、おねーちゃんは強いんだから!」

「なんで秋菜が自慢げなんだよ。姉ちゃんが強いのは最初からだろ」

「うるせぇな。太郎さんだって同じ事出来るよ」

「……おれ息子なんだけどなぁ、何が違うんだろ」

「その息子の為に避難所を襲うモンスター全部押し付けられても戦い続けた覚悟じゃねーの?」

「耳が痛いですねぇ」

「お前らもっと太郎さん敬えよな。あの人マジで凄いからな? …………あん?」


 襲って来たハーピィを皆殺しにして駄弁っていると、真下から何か声が聞こえて、アッシュの上から下を覗き込んで見ると、大量のハーピィの死骸に十人ほどの人間が群がって騒いでいるようだった。


「こんな所にも生存者? あのハーピィに襲われないのか?」

「空飛べるモンスターの傍って相当危ないですよね」

「いや、いくらでもビルが有るんだし、何とかなるんじゃね?」

「春樹お前たまに頭良いな」

「でっしょ? だから姉ちゃん尻尾触らせてよ」

「却下するが代わりにパイン飴くれてやるよ」

「それ久しぶりに聞いたなっ!?」

「モモちゃん達降りたら怖がられそうだから、あきな行ってくるね?」


 そう言った秋菜は私達を残して一人羽ばたき、下の生存者目掛けて降下していった。

 その後、一分くらい後にささやかな戦闘音が聞こえ、不審に思って下を見ると秋菜が襲われており、加勢しようと思った次の瞬間にはブチ切れた秋菜がカッコイイ名前の必殺スキル【ドラゴンブレス・ガンズバースト】を雷エンチャント増し増しでぶっぱなして帰ってきた。

 当然皆殺しである。

 帰ってきた秋菜はぷりぷり怒りながら翼を畳んでアッシュに乗り、私の尻尾に埋もれるように飛び込んだ。


「……どうした?」

「もう! あの人たち失礼だよ! あきなのことモンスターだって言って弓矢うってきた! 違うって言っても聞いてくれないからグシャグシャにして来た!」

「………ああ、そっか、最近ずっと精霊憑依状態だし、見慣れてたから忘れてたわ。普通の人間が羽生えた人間見たらビビるよな」

「でもあきな違うって言ったもん!」

「まぁ、こんなご時世に話しが通じない相手を生かしておく理由も無いし、良いんじゃね?」

「ん! あきな悪くない!」


 とりあえずどんな理由であっても、話しを聞かず襲って来たような奴を殺しちゃダメだなんて、こんな世界では絶対に言えない。

 私は殺戮を特に気にせず秋菜を慰め、尻尾を思う存分もふもふさせて、とりあえず周囲の探索をしようとアッシュを降下させた。


「………邪魔くせぇな」


 後ろについて一緒に降りてきた面々を待ちながら、辺り一帯に転がるモンスターと人間の死骸が目障りで、尻尾を振って目に付く全てを消し炭にした。


「あー、おねーちゃんなんで燃やしちゃうの? どうせならモモちゃん達のご飯に出来たのに」

「あ、やっべ……。いつも拠点周りのゴブリン勝手に食わせてるから餌のことすっかり忘れてたわ。………すまんアッシュ、謝るからそんな顔すんなよ。どうせコイツらもリポップすんだろ」


 地に降りた私は、ジトーっとコチラを見るペットに謝る。

 ツリーに巣まで有るのだから、どうせ一日も待たずにポコポコとリポップしてまた襲って来るのだろう。

 ならば一掃して消し炭にしてキレイキレイしても良いだろう。


「とりあえず、このツリーは目印に便利だし、あのハーピィをアッシュ達の餌にするなら仮拠点としても優秀だと思う。つまりここをキャンプ地とする! ってな訳だが、どうだ?」

「良いんじゃね? あれがここら辺のゴブリン枠ならリポップも早いだろうし、ブラックサンダーも腹いっぱい鳥肉食えるだろ」

「そうですね。ビルが多いって事は、食肉ダンジョンとかワイバーンの住処とか勝手にダンジョンって呼んでる所じゃなくて、ボスっぽいモンスターが居る腐肉のダンジョンみたいなマジモンのダンジョンシステムの場所も探せば有るでしょうし、今回の遠征の目的とも一致してますよ」

「あきなはおねーちゃんに従うよ! それで大体上手く行くもん!」

「秋菜ちゃんに同じっス」

「よし、じゃぁ決まり。秋菜と春樹、そんでレイジとアユミンが組んで仮拠点に使えそうな家屋、もしくはビルの一室を探して来い。私はさっきの人間の生き残りがワイバーン襲わないか見てるから。ほい、状況開始!」


 私は寝そべるアッシュの翼をいい感じの椅子にして、超感覚を全開にして周囲の警戒をする。

 今では最大で一キロは探れる超感覚さんだけど、やっぱり外周に行くほど精度は落ちる。

 が、今も周辺からコッチの様子を伺ってる生存者達くらいは余裕で察知出来る。

 思えば、このスキルって修羅のお陰で結構早い段階で手に入れてたし、「修羅は使用者を応援します」って文字通りの意味だったよね。

 少し昔を懐かしんでいると、アッシュも感じる視線がウザったいのか、身を揺すって落ち着かない様子だった。


「気にすんなアッシュ。お前がもうモンスターじゃないって言うなら、私の身内だ。お前に仇成す全てを私が焼き払うから」


 アッシュの頭を撫でてやると、何を思ったのかは知らないが、私の顔をベロンっと舐めた後に目を閉じ、そのまま眠り始めた。

 いや可愛げのある行動で結構だけど、こいつ精霊と違って実在の生物だし、唾液の量がえげつないんだけど。

 私は尻尾を振ってベショベショにされた顔面を水魔法で洗い、霊狐には申し訳ないが振袖で顔を拭いた。

 ちなみに今日の私の装いは紅白巫女装束っぽい和装ドレスである。フリル増し増しで可愛いお気に入り。


「あー、そんで、悪いけど見えてるから」

「……なっ、がぁっ!?」


 可愛い服に浮かれて、眠るアッシュの鼻先をなでなでしていた私は、隠密系スキルで背後からソロリソロリと近寄って来ていたスキル持ちに、尻尾を振って弱い雷撃を浴びせた。

 九尾の魔術になって何が一番便利かって、こう言う手加減に語気の強さとか気にしなくていい所だよね。

 スキルの検証する時とかゴブリン捕まえるのに消し炭にしちゃっちゃ意味が無いから。


「……おー、女性のスキル持ちは久々に見たなぁ。そんで、何か用かい?」

「………あっ、ぐぅ」

「え、そんなにダメージ食らった? 嘘だろ、相当手加減したんだけど……、まだ喋れねぇ? マジか、弱過ぎない?」


 色々と聞くために手加減したつもりの私は、予想外に重症を負った隠密スキル持ちの弱さに、ポリポリと頭をかいて空を仰いだ。


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