第7話 ヘッドハンティング?
「まず、助けて頂いた事に礼を。本当に感謝しています」
場所はゴブリンが群がっていた学校の校門。
針金で補強し直された鉄の門扉を挟ん七人の人物が顔を突合せていた。
まず門の外側には当然私、雪子、春樹、そして今日MVPすぎる秋菜。計四名。
そして門の向こう、学校側には三人の男性が立っていた。
まず魔法を使ってゴブリンを薙ぎ払っていたスーツの男性は秋元太郎。四十二歳。この学校の教師では無いが、ここに通う生徒の親として一緒に避難してきたらしい。今日日、太郎って名前は珍しいと思った。
そして学校に避難初期から居る校長先生が一人、鮫島茂、六十一歳。終焉は四月一日のきっかり昼の十二時に始まったから、平日の真昼間に校長が校舎に居たのは当たり前なのだろう。
お陰で家族の安否もろくに確認出来ていない可哀想な責任者だ。
最後の一人は近くに住んでいた弁護士で、姫路一郎と言う。三十五歳。
ただ弁護士ってなんか偉くて凄そうって理由だけで避難所の責任者まで押し上げられてしまった不幸の人。こんな終わった世界で避難所の責任者なんてやらされたら胃袋が蜂の巣になるだろう。
誠にご愁傷さまである。
魔法使いの太郎さんはもちろん最初からこの場に居たけど、残り二人は事態が終息した上で、私達というイレギュラーが発生したので急いで出て来た様だ。
そうして自己紹介を終えて、今もまだ息が調っていない太郎さんは、雪子に頭を下げてお礼を言った。
すると雪子は困った顔で私の後ろに隠れた。何してるん?
「あの、私たちの責任者と言うか、リーダーはこちらのココロさんなので、お礼もお話しもココロさんへお願いします」
「ん、んんっ!? それは、こちらのお嬢さんでお間違いないでしょうか?」
少なくとも、雪子を抜いたら最年長が私である。太郎くんは秋菜か春樹がリーダーである可能性も視野に入れているんだろうか?
「はいどうも。責任者のつもりは無いけど、この一団を率いてるココロです。この度は余計なお世話だったかも知れませんが、緊急の事と思い、ご助力させて頂きました」
雪子の紹介でペコッと頭を下げる。
ちなみにゴブリンをぶっ殺した場所なので、ある程度片付けたとは言え血生臭く、座る事など出来ないので立っている。
そして私は秋菜と春樹に支えれて立っている。うん情けない。
そんな間抜けな感じの少女がリーダーなんて言われたらそりゃ疑うし首の一つも捻るだろう。だが残念な事に事実なのだ。
だけど、そんな眼差しが気に入らなかったのか、文句を言いそうな子供二人よりもまず、雪子が声を上げた。
「ココロさんは、この方は、つい先程恐ろしいモンスターと戦って、死力を尽くして倒して来たばかりなのです。それこそ今ここで倒した大量のゴブリンなんて比べ物にならないモンスターから、娘を守ってくれたのです。それ以前に、私や子供にもモンスターと戦う力と術をくれたのもココロさんなのです。信用ならない間柄とは言え、そのような態度でココロさんに接されるのは、甚だ不愉快です」
雪子は本当に心底不愉快だと言わんばかりの表情で、そこまで言われたらいい大人が三人も集まってる向こうは、謝らざるを得ない。
ただ向こうの不信も分かるのだ。
なにせこちらは遠目には銃にしか見えない道具でモンスターを殺したのだ。詳しい人間が見たら薬莢が飛び出なかったとか音が違うとかで分かるのだろうが、素人目に見たら街中で自動小銃をぶっぱなしてるヤベー奴なのだ。
「こちらの態度が不適切だった事に対して、謝罪します。助けて頂いたのに申し訳ありません」
「いえ、子供が責任者だなんて言われても疑うのは普通でしょう。お気になさらず。ただコチラも性善説発揮して助けに来た訳じゃぁ無いのでね。いくつか質問させてください」
余計な問答はもう良いだろう。私も疲れてるし、ちゃっちゃと取り引きをして帰ろう。
少し迂遠に見せかけて割とストレートな、タダで助けに来た訳じゃ無いと言い放った私に、学校側の三人は息を飲む。
その様子を見ながら私は、秋菜と春樹に手伝われて一歩前に、校門の鉄門扉に近付いて魔法使いの太郎さんを見る。
「まずは一つ聞かせて秋元太郎さん。先程使われていた炎、アレはスキルですよね?」
そう聞いた瞬間、太郎さんは目を見開き驚愕を露わにして、残り二人もそんな馬鹿なと言わんばかりの表情である。
「そ、そう! スキル! スキルなんだよ! ゲームみたいなレベルがどうとか言っても、誰も信じてくれないんだ! 超能力に目覚めた代わりに頭がおかしくなったと思われてるんだ!」
太郎さんはついに同胞を見付けたとばかりに門扉へしがみつき、魂の叫びをあげる。
後ろに居る二人は「そ、そんな事ないですよ!」「太郎さんにはいつも助けられてますって!」と必死にゴマをすっているが、その様子が彼の弁が真実だと告げていた。
「……なんで一人で戦ってるんだろうって不思議だったんですけど、もしかして他にスキル持ち居ないんですか?」
「一人も居ない! どうやって身に付けるのかも分からないのに、一部の人間は私が超能力の使い方を秘匿してるなんて思ってるくらいさ!」
「え、待って待って待って、太郎さんそのスキル、獲得方法知らないんですか?」
「し、知らないっ……! なんだ、君たちも同じ事を言うのかね!?」
いや、それを聞きに来たのに知らないと言われたら、こっちが困ってしまう。
スキルなんて基本的に何かの行動中に獲得して、自分の行いと獲得したスキルに共通点があってスグに気付けると思うのだけど……。
「……待ってくれ、君たちは、そちらの奥さんはさっき、この子が力と術をくれたと言った。この子はスキルを知っていて、君たちは皆化け物を、君たちがゴブリンと呼ぶ怪物を簡単に倒してたね」
私がどうしようかと考えた時に、何かに気が付いた太郎さんがブツブツと喋り始めた。
仲間だと思った私達にも変な疑いをかけられて落ちたテンションが、呟きと共に上昇しているのが分かる。
「つまり、もしかして、君たちはこの力を、スキルを手に入れる方法を知っているんだね!?」
ばばーん、名推理! といった表情の太郎さんは、それはもう嬉しそうで楽しそうだった。
そりゃ戦いを任されてるのにノイローゼ扱いされたら、どうにかしたいよね。私ならボイコットして皆ゴブリンに食われろーって本物のノイローゼを演じて皆巻き込んで自爆してやる自信がある。
「確かに、私達は太郎さんが言うように、力の獲得方法を知っています。でも……」
「お、教えてくれっ! 頼むっ! 何でもするから、その方法を教えてくれぇっ!」
「私からも頼むっ! あの怪物達に抗うための力はこれから絶対に必要だ……!」
太郎さんは流石の必死さであり、他の二人も慌ててペコペコしている。
ただ、この情報をタダで渡すのは当たり前だけど無しである。
コレは武力に直結する問題で、相手が力を持つとコチラが脅かされる可能性が大きくなるのだ。
「私達も太郎さんのスキル、多分魔法か何かだと思いますけど、それが知りたくて来たんですよ。それと引き換えなら教えても良いんですけど……」
「ほ、本当に知らないんだっ! ここに避難して三日目、昼飯を食べながら息子と喋っていたら当然頭に、スキル獲得、火魔法なんて言葉が思い浮かんだんだ!」
嘘は言ってないと思える必死さだ。
本当に何も行動が伴わなかった場合、魔法スキルは個人の才能に由来する可能性すらある。
「んー、その時は何を食べてました?」
「カロリーメイツのプレーン味だ!」
「あー、あれ美味しいですよね。……それじゃぁ、息子さんとどんな話しを?」
「その時は確か、こんな世界になって、アニメも漫画も続きが見れなくなったなんて、そんな話しをしていたはずだ」
「あー、うん。息子さんの気持ちは良くわかる……、じゃなくて、他に何か、変わった事はしてませんか? お昼はきっちり十二時でしたか?」
「………いや、思い付く限り何も。時間はその時、多分一時ちょっと前くらいだったと思う」
さーて困ったぞ。
本人が自覚せずやってしまったパターンか、それとも本当に個人の才能に由来するユニークなスキルなのか。
ただ本人の才能によるスキルだと言うなら、ある日目覚めたら力があったとか、むしろ終焉の日に最初からとかなら納得出来るのに、ある日の昼って中途半端だ。
ただ終焉が起きた時刻も昼だったので、きっちり十二時だったらその線もあったのだけど、それも薄いとなると、割と真面目にお手上げな気がする。
こちらももう既に「スキルは自力で取得可能」という情報を渡してしまっているから、タダで帰る訳にも行かない。
となると--……。
「うーん。じゃぁ提案なんですけど、まず太郎さん一人に出て来てもらって、太郎さん一人にスキルの取得方法を教えます」
「本当かっ!?」
「ええ。それでなんですけど、そのスキルの習得方法を聞いた上で、太郎さんの火魔法でしたか? それの取得方法を、改めて心当たりが無いかを思い出してください」
「……なるほど、確かに既存の出来事を聞けば何か分かるかもしれないな!」
心底納得したと嬉しそうな太郎さん。そして殆どタダで武力が手に入りそうな校長と弁護士も嬉しそう。
だけどお分かりか? ただでそっちに情報を渡すなら、太郎さんが一人で門の外に出る必要は無いんだぜ。
「そして、それでも火魔法の取得方法が思い付かなかった場合は、申し訳ありませんが機密を知った太郎さんを学校にお返し出来ません。そのまま仲間として連れて行きます」
そこで太郎さんはポカンとして、茂さんと一郎さんは一拍置いて慌て始める。
なにせ学校唯一の戦力が持って行かれるのだ。大損なんてもんじゃない。
「馬鹿なことを言わないでくれ! なんの権限があってそんな無体を強いようと言うのだね!」
「さすがに横暴過ぎます。太郎さんが居なくなったら、下手するとこの学校に避難している人間全員が死ぬ可能性だってあるんですよ」
「……私も、さすがに素直に連れて行かれる訳には行かない。学校には息子も居るんだ」
「こちらに来てもらう場合は、息子さんも含めて受け入れますよ。設備も物資もバッチリなのでご安心を」
茂さんと一郎さんはとりあえず無視をして、太郎さんにはこちらへ来る場合の待遇をチラッと匂わせる。
外野がギャーギャー煩いが、文句が有るなら門の外に出て来いやって言うのだ。
「だ、ダメだぞ秋元さん! そんなギャンブル、受けて負けたら学校が滅んでしまう!」
「だが、スキルを持った人間を増やさないのも問題のはずだ。私が怪我でもしたら誰が戦うんだ? 俺は怪我しても戦えって言われるのか?」
正直、太郎さん以外にスキル持ちが居ない事の方が奇跡的だ。
なにせ誰かしら適当な武装をして、ゴブリンを三匹殺すか、連続で三十回攻撃を当てれば基本スキルは獲得出来るのだ。
なので実はぶっちゃけ、この情報はそこまで価値が高くない。高くは無いのだけど、せいぜい高く買ってもらおう。
対価としては魔法スキルの入手方法でトントン、ダメならその使い手を貰う。
「あ、ちなみに太郎さんってレベルいくつですか?」
「ん? ああ、今は九だな。そちらも皆レベルを持っているんだったか」
「……あー、聞いたの私ですけど、太郎さん、そんなに簡単に喋っちゃダメですよ。相手もレベルを知っているんですから、今太郎さんは自分の強さをかなり明確に教えちゃった訳ですよ」
私が言いたい事が分かったのだろう。物凄くバツの悪そうな顔になって、ちょっと私は睨まれてしまった。
まぁ自分で聞いたくせに凄い意地の悪い事を言った自覚はある。
「まぁ睨まないで下さい。私のレベルは教えてあげますから」
「……聞こうか」
「信じないかも知れませんが、現在二十四です」
レベルがどれだけ自分の能力をあげるか自分の体で知っている太郎さんは、絶句した。
太郎さんもレベルを九まであげるのに相応の時間を使ったのだろう。そうして価値が分かるからこそ、二十四と言う数字は意味を持つ。
「……本当かね?」
「今のところ証明する手段は有りませんけど、もしどうしても真偽が知りたいと言われるなら、西のショッピングモールへ行ってみてください。私が今日こんな無様を晒す羽目になったクソやばいモンスターが居るので、戦ってみると分かりますよ。レベル九で挑んだら十中八九死にますけど」
その時は分かる前に死ぬ可能性も相当に高いけど。
いや、もしかしたら火魔法があの腐肉に対して特攻効果があるかも知れないから、挑む価値はあるかも知れない。
もしそうならバンバンレベリング出来そうだ。
「さて、話しは纏まりましたか?」
聞くと、凄い渋い顔で睨まれる。
まぁ気持ちは分からなくもないけど、筋違いである。
太郎さんだけに任せず誰かしらが戦っていれば、こんな情報は既に手に入っていたのだから、全部を太郎さんに押し付けていた学校側の全員が悪い。
「そうですねぇ。じゃぁ追加で提案なんですけど、もし太郎さんが情報を聞いた上で火魔法を思い出せなかった場合、タダで情報を持ち逃げされる事が許容出来ないから身柄を返せないのであって、相当量の物資と交換で太郎さんをお返ししますよ」
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