第13話 これは機械ですか? いいえ、魔道具です。

「そういえば今日はお前の友達を連れてくるんだったな」


 集合場所に集まっているのは俺と陽菜の二人だけ。

 あとは氷空と、陽菜の友達を残すだけになった。


「うん。そろそろ来ると思うけど……」


 と、陽菜が辺りを見渡した時だった。


「あ、来たみたい」


「へぇー。どこ」


「ほら、あそこ」


 陽菜の指した方に視線を送ると、そこには俺たちと同い年ぐらいの少女がいた。

 無表情で、どこかぼーっとした雰囲気。白衣を身にまとい、なぜかパラボラアンテナを取り付けたレーダーのような機械を持って、サーチをしながらうろうろとしている。


「…………あれがお前の友達か?」


「うん。二年A組の星野灯里ほしのあかりちゃん」


「明らかにヤバそうなやつなんだが」


「私は、ほしのんって呼んでるよ」


「いやあだ名は聞いてないけど」


 陽菜は人によくあだ名をつけるんだよなー……ってそれはどうでもいいけど。


「結構面白い子なんだよねー」


「それは見れば分かる」


 休日に映画を観に行こうというのに白衣を着てアンテナつけてるんだから。


「おーい、ほしのーん! こっちだよー!」


 陽菜が声をかけて、星野さんはようやく俺たちの存在に気づいたらしい。アンテナを持ってサーチしながら近づいてきた。


「……陽菜。おは」


「おはよー。最近、あんまり連絡取れなかったけどまた研究漬け?」


「……ん。新しい魔道具を作ってた」


「魔道具? そのアンテナのことか?」


 横からつい口を挟んでしまったものの、それを気にすることもなく星野さんはこくりと頷いた。


「いや。魔道具っていうか……」


「……魔道具」


「どっちかっていうと機械じゃ……」


「……これは、魔道具」


 どうやら断固としてファンタジーを主張したいらしい。だが、くるくると謎に回っているアンテナからはモーター音のようなものが微かに聞こえてくるんだけど。


「…………」


 とりあえず陽菜を引っ張って距離を取りつつ、星野さんに聞こえない程度のボリュームでひそひそと会議開始。


「おい。お前の友達どうなってんだ」


「ほしのんはねー、ファンタジーに憧れてるんだよ。だから自分の作る発明はぜんぶ魔道具とか魔法薬とか、そういう風に表現してるんだよね」


 ようはファンタジー脳ってことだろうか。こんなにもメカメカしい発明品を引っ提げているというのに。


 会議を終了させ、ひとまず星野さんのもとへと戻る。


「あー……そうか。俺は月代雄太。よろしく」


「……星野灯里。魔法使い」


「……そりゃ凄い。魔法使いの友達は初めてだ」


 めちゃくちゃキリッとした顔で堂々と魔法使いと言われたら、それはもう魔法使いとして接していくしかあるまい。


「で、その魔道具とやらは一体何なんだ」


「……『王子様レーダー』」


 レーダーって言っちゃったよ。ファンタジー設定どこ行ったんだよ。


「……王子様を探すために作ったの」


「王子様? それって……えーっと……?」


「……この前、会ったの。私の……運命の王子様に」


 無表情なはずの星野さんの顔が、どこか夢見がちな恋する少女のそれになる。


「……あれは、空を飛ぶ魔道具の実験をしてる時だった」


「空を飛ぶ魔道具……」


「ゆーくん、そこはスルーしてあげなよ。話が進まないよ」


 確かにいちいち突っ込んでたら何も進まなさそうだけど。


「……回路の故障……じゃなかった。術式の調整に失敗して、落下した私を……優しく受け止めてくれたの」


 回路の故障って言ってるじゃん! とか口に出さないぞ。絶対に突っ込まないぞ……!


「……でも……その時はコンタクトを落としちゃったから。顔がよく見えなくて。だから、新しく魔道具を作ったの。この『王子様レーダー』を」


「なるほど」


 もう一度、陽菜を引っ張り出して会議タイム突入。


「お前のお友達、頭がお花畑になりすぎてて言ってることがよく分からないんだけど」


「えー。夢があっていいじゃん。私は好きー」


「夢以外にも詰め込んでくれよ。あいつの脳細胞、灰色どころか桃色になってるぞ」


 ――――ピーピーピーピーピー。


 と、俺と陽菜が二人で小会議をしている最中、突如として魔道具レーダーが電子音を発して回転速度を上げた。


「うおっ。なんだ、どうした」


「……レーダーに反応があった。王子様が、近くにいる」


 えっ。マジで。居るの? 王子様。

 レーダーの反応を頼りに周囲を探る星野さん。その様子を固唾をのんで見守っていると、一人の男が姿を現した。


「お、もう揃ってんの。じゃあオレが最後ってワケねー」


 現れたのは――――風見氷空、その人だった。


「ん。二人ともどしたの、オレの顔を見て」


「よお、王子様」


「ギリギリだよー。王子様」


 俺と陽菜の息の合った連携口撃を繰り出してみると、氷空はぎょっと目をむいて俺たちを交互に見た。


「な、なんだよ急に……王子様? ははっ。なんのことや……らぁあああ!?」


 言葉の最後で、決壊したかのように動揺があふれ出したのは、氷空がちょうど星野さんの存在に気づいた瞬間だった。


 ……えっ。もしかして王子様の正体って、氷空こいつ

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