第11話 狐の面をつける理由


「それで男達を通したと言うんか」


山ギツネは驚くばかりである。

自分がわらしの助けをする代わりに人間達をなんとかして山に近づけない様にすると約束したというのに。

そもそも、人間が鬼に敵うわけがないのである。

通した結果どうなるか結果は見えている。

山ギツネはどうするか考えたが、通ってしまったものはしょうがない。

「鬼と鉢合わせしないよう願おう」

「手練れの男をつれておる、ひょっとするとひょっとするかもしれん」

どんなに手練れだろうが鬼の大群に敵う人間がおろうか。

子供天狗に聞こえぬようにため息を吐く。

鬼を殲滅する気概で今度は南の集落も守る??

人間がどうやって鬼の襲来を知ったのかも摩訶不思議である。

「してわらしはどうであった??」

子供天狗が勢いよく聞いてくる。

てっきり筒の道具で覗いているとばかり。

「壊れた板はもう少しで集まりそうじゃ。二日月ふつかづきの模様がある珍しい板だったそうじゃよ」

天狗を親の仇の様に言っていた事は伏せるつもりだ。

「そうか!それはよかった」

狐の面で見えないが、たいそう喜んだ顔でいるのだろうか。

「なぁお前、今まで不思議に思っておった事を聞いてもいいか」

「なんだ?」

「なぜ狐の面をしておる?」

突然の質問に子供天狗は止まってしまったではないか。

「…おかしいか?」

おかしいというのは似合わないかと聞いているのか、狐の面は相応ではないとはいうのかと聞いているのか。

「似合ってはいるぞ、かわいいではないか。しかして、天狗は天狗の面をつけるものではないか?」

あの鼻の伸びた恐ろしい面。思い出すだけで身震いがする。

「あれは一人前と認められて初めて付けれるもんだ」

「そんな決まりがあるんか」

これからはお面で判断しようと思うが、天狗の面以外をつけた天狗は見たことが無い。

「いや、勝手に思ってるだけだ」

お面で判断はめよう。

「そ、そうか…。それで狐の面なんか」

「里の天狗がくれたんだ、あいつ、今何してるだろか」

聞くと同じく修行に出た子供らしい。

「その天狗も書物を持って行ったんか」

「いいや、あいつは何も持って無かったな」

天狗によって修行の内容は違うらしい。

「そうかそうか、興味深い話が聞けた、ありがとう」

ふと子供天狗の頭に目がいく。赤朽葉あかくちば頭巾ずきんにほとんど隠れているが、その生え際の毛色は金色そのものだ。

「狐というのはお前に合っているのかもしれんな、その毛色、まるで金狐じゃ」

金狐は仏に仕えた狐で、たいそうな神通力を持つ狐の事だ。

「そんな狐がいるんか。…この頭は人間には恐ろしい獣に見えるから、隠した方がいいと言われて隠しておる」

確かに金色こんじき、見る加減を変えれば銀色にも見える髪の毛を持つ人間など見た事がない。

「目の色もだ」

子供天狗はお面を外して見せた。

なんと深い瑠璃るり色!まるで宝玉が目にはめられているのではないかと思ってしまう。

あまりに驚いているので、子供天狗は少し戸惑っていた。

それにしても、大変生意気なまいきな雰囲気であった子供天狗であるが、顔を見ればやはりまだ小さな子供以外の何者でもない。その瑠璃るり色の目に様々な表情が乗り移っては見ていて飽きない。

「やはり恐ろしげな獣に見えるか」 

何を勘違いしたか、あまりにも真剣な顔をして聞いてくるものだから、大声を出して笑ってしまった。

「わっはっは、そんな可愛らしい獣がおるなら見てみたいわい。しかし人間にその様な目を持つ者は見た事がない故、隠しておいた方が無難かもしれんな」

子供天狗の頭を撫でると、その手の感触を感じる様に子供天狗は両目を閉じた。


山ギツネとしては、お面などつけていない方が可愛げがありよいと思うのであった。




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